前川清さん、矢野顕子さんに会う。

「これをやりなさい」ということを、いっさい聞かなくていい世界がある。　前川清さん、糸井重里とともに、矢野顕子さんに会う。

前川清さんと矢野顕子さんは、たがいに何十年ものキャリアを持つ音楽家ですが、関わってきた音楽の種類と仕事のしかたが、少しずつ違っていました。このたびふたりがデュエットソングを歌うことになり、改めてその「違い」に驚くことに。糸井重里をまじえて、いま、「歌に対する考え」がじわりとスパークします。全８回、前川さんが次の扉を開くまで、ぜひおたのしみください。

前川: どうも、今日はよろしくお願いいたします。

矢野: あ、おにぎりがありますね。
すごい、駆けつけおにぎりだ。

糸井: どうぞどうぞ、食べてください。

前川: いいんですか？　
ああ、たくあん、おいしいですねぇ。

糸井: 食べながらですけど、
ちょっとずつ話をしましょう。
おふたりは、今日会うのがはじめてですか？

矢野: えっと、たぶん２度めです。

前川: 1982年の「Kiyoshi」というアルバムで
矢野さんに歌を作ってもらったので、
それ以来ですね。

糸井: 今回、ふたたび矢野顕子さんが歌を作って、
しかもデュエットしたんですよね。

矢野: 作詞は糸井重里ですよ。
「イトイヤノ（作詞：糸井重里　作曲：矢野顕子）」
作品です。

前川: いやぁ、なんというか、
おもしろい歌でしたねぇ。

矢野: NHKの「ラジオ深夜便」に
使っていただけるというお話が決まっていたので、
はなから詞は糸井にお願いしようとしてました。
そして、ほんとうにうれしいことに、
前川さんに、いっしょに歌っていただけることに。

糸井: よかったですねぇ。

矢野: もうすでに「ラジオ深夜便」では流れてるんですが、
その歌は次のアルバム
「ふたりぼっちで行こう」
に入ります。

うちのスタッフのひとりがね、
この歌にいたく感動してました。
まずは、糸井の詞です。
この歌、「いかにも」な感動的な言葉は
出てこないんですよ。
なのに感動するって、どういうことなんでしょうか？

前川: そうなんですよねぇ。

矢野: 糸井にむかし
「自転車でおいで」という歌の詞を
書いてもらったことがあるんです。
あれってさ、まるで俳句みたいなもんじゃない？

糸井: そうだね。

矢野: 今回の歌と同様、
感情の言葉はひとつも出てこない。
状況の言葉だけ。
でも、その言葉を順々に思い浮かべると、
感情が動かされるんですよ。
今回の歌もそうで、
ただ風景が書いてあるだけなんです。

テーマは「夫婦」のことなんですが、
あなたとほんとうは行きたいんだ、と
ひとつも書いていないのに、
気持ちがそうなれる。
スタッフたちといっしょに
「これはもしかして糸井俳句という
ジャンルなんじゃないか」
と話してました。

前川: 糸井さんの歌詞は、なぜかしら、
あたたかさを感じるんですよ。

矢野: ね。

前川: 不思議です。

糸井: アッコちゃんのバンドのメンバーに
外国の人もいるでしょ。
こういう「ただ置いたんだけど」という
言葉の世界について、
外国の人はどう感じてるんだろう？

矢野: ああ、そういうのって、話したことないな。

糸井: こんど話してみて。

矢野: そう言われればそうだ。
話してみるよ。

糸井: たしかにぼくはいつも感情は書いていません。
アッコちゃんと一緒に作った
「Children In The Summer」という歌もあって、
それも俳句みたいです。

矢野: 前川さんはどうですか？　
いままで歌ってきたのは、きっと、
気持ちが書いてある歌が多いですよね。

前川: だから、本人は感情を込めないんです。

矢野: えぇ、そうなの？
それはテクニックのひとつとして、ですか？

前川: まずぼくは、
音楽というものに興味がないですね。

矢野: あ、興味がないんですか、
うん、なるほど。

前川: 先日、はじめて矢野さんのショーを
ブルーノートまで観にいきました。
お客さんを見ていると、ショーがはじまる前から
みなさんワクワクと、笑ったりしゃべったり、
ときにはご自身でリズムを取ったりして、
たのしみになさっていました。

それにひきかえ、うちのお客さんの場合、
はじまる前に、
半数の方々は寝ていらっしゃいます。

糸井: 「疲れると困るからいまから寝とこう」って。

矢野: わははは。

前川: もちろん、ぼくなんかのショーを
心待ちにしてくださる方もいらっしゃると思います。
でも矢野さんの場合は、
会場全体が「待っている」という雰囲気に
満ちていたんですよ。
それは音楽の種類の違いでしょうか。
ジャズと歌謡曲では全く違うんだな、
と思いました。

ぼくのような、ああいった
情念の歌を聞かせるという場合、
歌うことがちょっとつらい場合もあるんですよ。

矢野: うーん、そうなんですか。

前川: 歌詞によってはね。
でも、ぼくがどんなに興味がなかったとしても、
そういうものが「自分に合っている」のでしょう。
ぼくの場合、だいたいは別れ歌、ほぼ100％女歌です。
ぼくは、歌っているときというのは、女です。
どういうわけか、
女の人の気持ちになって歌うほうが、
ぼくはいいんです。

矢野: 男の気持ちを歌いたいことはないですか。

前川: 歌いたいと思いません。
鳥羽一郎さんの世界、
北島三郎さん、細川たかしさんの世界、
絶対に歌えません。
「俺は」「海がシケて」、ダメです。
男にもとれる女にもとれる歌を、
100％、女の人の気持ちで歌います。

矢野: おもしろいなぁ。
でも、今回の歌はデュエットでしたからね、
どうでした？

前川: だいたいね、
「あなたを好き」というような言葉が、
糸井さんの世界であんまり出てこないんですよね。

矢野: そうなんですよね。

糸井: だねぇ。

前川: それにまた、矢野さんが、
いままでにないようなメロディーをつけられるんでね。
矢野さんにとってはなんてことない、
やさしいメロディーなのかもしれません。

矢野さんの歌の伴奏には、
ピアノ、ベース、ドラムなどがありますが、
そのうえに、矢野さんの
あの独特の声が加わります。
あの声が、やっぱり楽器なんですよ。
アドリブで奏でるジャズの楽器です。

ピアノ、ベース、ドラム、そのほかに
４つめの別の楽器がある。
ぼくは矢野さんのショーを観ながら、
音楽はいったいなんなのか、
音楽の正解がわからなくなりました。

（明日につづきます）

2018-11-20-TUE

矢野顕子さんのNEWアルバム

ふたりぼっちで行こう

＜2018年11月28日発売＞

前川清さんとのデュエットソング
「あなたとわたし」が収録された
矢野顕子さんの新しいアルバムです。
矢野さんが、このところステージでも展開されている
コラボレーション演奏の音楽を、
ひとつのアルバムパッケージで、
すみずみまで聞くことができる貴重な１枚です。
前川さん以外の参加アーティストは
下記のとおり（順不同敬称略）。
Reed and Caroline/吉井和哉/YUKI/
奥田民生/鹿の一族/大貫妙子/
上妻宏光/U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS/
平井堅/細美武士

このアルバムについて、くわしい情報は
特別サイトをごらんください。

Amazonでのお買い求めはこちらへ。

初回限定盤

通常盤

また、年末恒例の矢野顕子さんの
「さとがえるコンサート2018」も
開催されます。

（全席指定：￥7,560）

12月２日埼玉県三郷市文化会館

開場 17:30／開演 18:00

12月４日大阪府サンケイホールブリーゼ

（SOLD OUT）

開場 18:30／開演 19:00

12月５日愛知県名古屋芸術創造センター

（SOLD OUT）

開場 18:30／開演 19:00

12月９日東京都 NHKホール

（SOLD OUT）

開場 17:15／開演 18:00

12月11日宮城県仙台電力ホール

開場 18:00／開演 18:30

年末年始に前川清さんの
ディナーショーや公演があります

12月２日

ランチ・ディナー付　

前川清＆クール・ファイブショー

由良温泉八乙女　夕陽の間（山形県）

開場・食事／12：00～　ショー／13：30～

開場・食事／18：00～　ショー／19：30～

昼S席27,000円　A席24,000円　B席22,000円　　
夜（宿泊）S席31,000円　A席28,000円　B席26,000円　
（日帰り）B席22,000円

12月1６日

クリスマスディナーショー2018

ホテル日航金沢（石川県）

一部　ディナー17：30～／ショー18：30～

二部　ディナー20：30～／ショー21：30～

S席 35,000円　A席 33,000円

12月23日

クリスマスディナーショー2018

ホテルニューオータニ幕張　鶴の間（千葉）

開場／17：45～　食事／18：00～　

ショー／19：30～21：00

一般　39,000円

12月25日

クリスマスディナーショー2018

ホテルオークラ福岡（福岡）

受付17：30　食事18：00　ショー19：30

全席指定　38,000円

各ディナーショーの申込みに関しては
前川清さんのステージスケジュールページを
ごらんください。

2019年1月24日（木）～2月4日（月）

50周年記念　前川清特別公演　明治座

第1部「どたばたショータイム！冷たくしないで」

第2部「50周年記念　前川清スペシャルステージ」

S席12,000円／A席8,500円／B席6,000円

明治座公演のお申し込みについては
明治座のサイトをごらんください。