横尾忠則 アホになる修行の極意。 横尾忠則×糸井重里 対談
横尾忠則さんの新しい著書は
『アホになる修行』というタイトルの言葉集です。
アホになるとは、いったいどういう修行でしょうか。
ここ数年、横尾忠則さん主催の「合宿」で
夏の数日間をごいっしょしている糸井重里が、
改めてお話をうかがいました。
じつは横尾さんによれば、その合宿のテーマは、
「なにもしないことをする」というもので、
それはすなわち、アホになる修行の一環と考えられます。
82歳の横尾さんが最近元気になったという話題から、
人生のあみだくじ理論に至るまで、
一生をかけた修行の極意、うかがいます。


003 未完で生きて未完でものを作って、未完で死ねばいいんじゃないかな。
糸井
では、目的を持たないようにするには、
どうしたらいいでしょう。
横尾
子ども返りすればいいですよ。
子どもは、やってる行為自体に
大義名分はありませんから。
糸井
つまり、なんでも
遊びとしてやればいいんですね。
横尾
そう。
子どもは遊びをやってるんだから、
快楽があるし、自由があります。
でも、遊びといってもあれだよ、
メディアがいう遊びとはちがうよ。
糸井
「遊ぶために遊ぶ」のではダメだ、と。
横尾
それだと目的になっちゃうんですよ。
ゴルフにしても、麻雀にしても、魚釣りにしても、
それはみんな、遊びじゃなくて目的でしょ。
糸井
理由づけや獲得目標がある感じがしますね。
そういう意味じゃ、
いつも夏にごいっしょさせていただく
横尾さんの合宿はすごいですね。
あそこには何もないです。
横尾
なんにもしないことをするんですよ。
それがいちばんいい。
糸井
ごはんの時間になるとごはんのことを考える、
あとは卓球したり歌ったり、それだけですね。
横尾
ああいうとこでも考えごとして、
アイデアに行き詰まって
ウロウロしたりする人がいるでしょ。
気分転換で遊んでいるように見えるけど、
それはもうすでに、
目的にとらわれてるわけですよ。
糸井
たしかに。
横尾
そういう人は、
トイレ行ったりごはんを食べたりするときも
「アイデアが浮かぶかもわからない」
って期待してるわけ。
ぼくはそんなもん考えません。
お風呂に入るときはお風呂のことしか考えないし、
めし食うときは一所懸命めし食ってる。
トイレに行ったらうんちが出るのに一所懸命。
余計なことは考えない。
糸井
よく考えたら、
いまこのときを含めて、横尾さんとはいつも、
目的があるような話をしたことがありませんね。
横尾
ないね。
糸井
これはまさに『アホになる修行』
ですね。
横尾
そうともいえる。
糸井
このごろになってやっと気がついたんですが、
ぼくの知っている人のなかでいちばん、
「途中だよ」
と言うのは、横尾さんです。
横尾
すべてが未完成だと、
しょっちゅう言ってますね。
糸井
どこの誰より、
未完成ということについて、
すごく強く言ってますよ。
横尾
それはね、
考え方じゃないんです。
性格ですよ。
糸井
そうなんですか。
横尾
生まれながらに、
ひとつのことをやりとげる信念が
ぼくにはないんです。
糸井
ないんですか。
横尾
ない。
それがぼくの「持ち味」なんです。
なんでもすぐにやめてしまったり、
どこかよそへ行ったりします。
でもそれって怠け心のことでしょう。
だからたぶん多少なりとも
みなさんにそういう性質はあると思う。
ぼくの作品ができあがるのはすべて、
ぼくの性格によるものです。
努力なんかしてないですよ。
むしろ、努力するとだめです。
そんなことしたら、
アカデミックなほうへ行っちゃうと思う。
糸井
手ごたえのあることに頼りたくなると、
手ごたえがある分、何かが失われていきます。
だいたい、なにもかも完成させて
死ぬ人なんていないですし。
横尾
そう。
そんな人はいないし、
1日1日だってそうですよ。
「よし、今日は完成したから寝るぞ」
なんてことは、あり得ないわけだからさ。
だからこそ、あくる日目が覚めて、
「よし、今日またやろう」
と言えるわけです。
そのくり返しだから、
完成なんてないんです。
糸井
はい。
横尾
人間は生まれてくること自体で、
すでに未完成性を持っているわけでしょ? 
もし完成した魂だったら、
生まれずに、涅槃かどこかに
行っちゃえばいいわけだから、
生まれる必要はないと思う。
ぼくたちがここに生まれているのは、
それなりに未解決のテーマをいっぱい
持っているからです。
どんな偉い先生でも学者でも、
生きてる以上は、
我々とそんなに変わらないです。
みんなちょぼちょぼです。
そこに差があるように見えるのは、
社会的なヒエラルキーのせいです。
あとは何もないですよ。
(明日につづきます)
2018-07-07-SAT
横尾忠則さんの新刊

『アホになる修行 横尾忠則言葉集』

(イースト・プレス 刊)
これまでの横尾忠則さんの
エッセイ、対談、インタビュー、ツイッターなどから
選ばれた言葉集が発売されました。
さまざまなメディアで発信されてきた、
横尾さんの名言がまとまった一冊です。
生活のとらえ方や創作にかかわる考えなど、
鋭い言葉が光ります。
見開き展開でスイスイ読めますので、
なんどもくりかえし味わい、
心の刺激と栄養にできます。
本を締めくくる横尾さんのあとがきには、
こんな一文が出てきます。
「アホになるというのは、
自分の気分で生きるという自信を持っている
ということ」
このたびの糸井重里との対談でも、
「大義名分より気分が大切である」
という内容がくり返し出てきます。
それはいろんな人びとの暮らしに勇気を与える
本質をついた言葉であるといえるでしょう。
いろんなものを捨ててアホになる修行は、
横尾忠則さんに近づく第一歩なのかもしれません。