第5回:カエルの恋と草食男子

阿川
田んぼのカエルの話、ご存知ですか?
糸井
知らない、知らない。
いいですねえ、田んぼのカエル。
阿川
ジャズサックス奏者で
ミジンコ研究もなさっている坂田明さんの師匠、
日高敏隆先生に聞いた話なんですが。
糸井
あぁ、動物行動学の先生ですね。
お会いしたことがあります。
阿川
その先生、もう亡くなられましたが、
本当におもしろかったんです。
私がはじめてお会いしたのは
坂田さんのミジンコ学会兼ジャズライブでしたが、
そのときの基調講演で先生がお話をされて、
生物のほとんどは
セックスのことしか考えてないという話からはじまって、
田んぼのカエルはなぜ鳴いているか
という話をされたんです。
糸井
メスを呼ぶため?
阿川
そうそうそう。
グァグァグァグァグァグァと鳴いているのは、
全部オスなんです。
メスは一切鳴かずにその声をずっと聞きながら
どの男がいいかを選んでる。
糸井
声で?
阿川
はい。声が太くて安定している声のオスが
モテるそうです。
糸井
「歌がうまい」みたいなことですね。
阿川
ええ。
高い声とか細くて不安定な声を出すカエルは
「これはオスとしてダメだ」とメスに思われてしまう。
声が低くて太いオスは
丈夫だったり体自体も大きかったりで
遺伝子的に質が高いってことになるんだそうです。
それで声を聞いて「このオスがいい」と思ったメスは、
自分から近付いていくんですって。
だけど、オスのほうも、みんなで鳴いていると
「どうも俺はモテない」ということに
気付くオスがいるんだそうです。
この声じゃどうも無理だと思うと
サッサと鳴くのをやめて、
モテそうなオスの後ろに待機する。
そして、モテそうなオスにメスが近寄ってきて、
「あんたがいいわ、ゲコッ」という態度をメスがとるや‥‥
(ここで突然メスガエルの真似をする阿川さん)
糸井
モノマネをしたんですか、いま(笑)。
阿川
まあね。
で、近づこうとしているメスに
後ろから乗っかって奪うの。
これを「間ガエル」というそうです。
糸井
ああ‥‥!
阿川
いい話でしょう。
糸井
いい話だ。
あれですね、バンドマネージャーが
一番悪いことしてるという例ですね。
「バンドのメンバーに会えますよ。
 こちらです、こちらです」と誘って、
「‥‥こちらには、俺がいるぞ!」
というパターン。
阿川
(笑)
モテるためにはいかなる手を使うか。
「モテないということを
 まず自覚していなければいけない」
という教訓ですかね。
糸井
カエルの話、いいですね。
阿川
間ガエルの話、好きなんです。
糸井
トンボなんかは‥‥
阿川
あ、来たぞ。
トンボは?
糸井
トンボには、
しっぽの先だと思うんですけど、
トンボのブラシというのがあるんです。
で、おへそのあたりに
ちょっと穴が開いてる場所があって、
そこが生殖器なんです。
そこにオスが植えつけるんですが、
あとから行くオスのトンボは、
あらかじめブラシで
前のをかき出してから、親しむらしいです。
だから、かき出すということまで
計算に入ってるんですね。
それくらい、生殖競争がすごいんです。
阿川
それは人間でも同じというか‥‥
なんだか、具体的になってきましたが(笑)。
糸井
人間も。
このラリーついでにオマケで言うと、
人間の女性がその最中に声をあげてしまうというのは
競争相手を募集しているという説があります。
つまり、「私はここで生殖中です!」って。
阿川
本当ですか(笑)。
糸井
あんなに安全が必要な状態で、声を出す、
つまり安全を妨げるようなことをするというのは、
「皆さん、これからまだまだ私は元気です!」と
立候補しているということらしい。
「皆さん!」
阿川
「私はいま、女ざかりですよ!」
糸井
「私は元気です。
 落ち込んだりもしたけれど!」
阿川
「きょうは会社休みます!」って(笑)。
糸井
で、男のほうは、安全を守りたいから
あたりをうかがいたいんだけど、
女性のほうは、選挙の最中。
マイクを持って
「皆さん、阿川佐和子がまいりました!
 阿川佐和子がまいりました!」(笑)。
阿川
声の高い人と低い人、そのへんの個体差は‥‥。
糸井
ま、あるでしょうし、
だいたい動物軸だけで人間って
動いているものじゃないので‥‥
社会軸と動物軸とのバランスがありますから。
阿川
そりゃそうですね。
糸井
だから、立候補してても、静かに
「阿川佐和子でございます」
というのもあるでしょう。
阿川
(笑)
サルの話、いいですか。
糸井
サルの話、いいですね。
阿川
これは有名な話ですけど、
多摩動物園の中川先生と対談したとき──
相当昔の話なので、いまは違うかもしれないし、
ニホンザルだったかチンパンジーだったか
はっきりしないんですけど──、
動物園にいるサルというのは、
だいたい子ザルのときに
母親と引き離されて育っています。
思春期になると、
オスザルは「その気」になってくるんですが、
年頃だからといってメスザルを近づけると興奮して、
「ギュハー! ガー!!」
(猿の真似をする阿川さん)
となって、メスを殺しちゃったりする。
糸井
阿川さん、いま‥‥怖かったですよ。
殺されちゃうかと。
阿川
どうしてそうなるのかというのが
長らく分かっていなかったんですけど、
どうも、性教育をしていないからではないか、
ということに考えが至ったそうなんです。
要するに精神と肉体はその気になっているんだけど、
メスに対して、なにをどうしていいかがわかんないから、
暴れることしかできないのではないかと。
一方で野生のサルはどうしてるかというと、
母親のサルは、赤ちゃんを
お腹に抱っこして動きますよね。
糸井
はい、お腹に赤ん坊がくっついてます。
阿川
そう、お腹に赤ちゃんをくっつけているんだけど、
オスはそんなのおかまいなしに近づいてきて、
後ろからマウンティングする。
そうするとメスは、それを受け入れるわけです。
糸井
次の赤ちゃんを作るために。
阿川
はい。そうすると体が揺れます。
そのとき、お腹にくっついている赤ん坊としては、
「あ、大人になるとこういうことするんだ」
ということを学ぶんだそうです。
だけど、動物園に来た赤ちゃんは、
そういう経験をしてないので‥‥。
糸井
ほう!
阿川
それで困っちゃって、
中川先生は、動物園のサルに
ビデオで野生のサルの生態を見せて
学習させたということです。
糸井
うまくいったという話なんですね。
阿川
多分、そうでしょうね。
糸井
つまりサルがビデオを見て、
なにかこう、類推して感じるものが
あったということでしょう。
サルの話もそうですが、
人間でも、
「知らないことになっている
 知っていること」
というのはいっぱいありますね。
阿川
と言うと?
糸井
‥‥どう言ったらいいかな、
境界線ってあるじゃないですか。
「あなたと私はいまお話をしています」というのと、
「お話以上になります」というものの
境界線がありますよね。
そこにドアが開いてたとしたら、
お話してる場合にはそのままでいいけど、
でも、お話以上という場合には閉める必要がある。
で、そこ閉めるか閉めないかって
誰も教えてくれないんです。
阿川
ああ、そうですね。
糸井
つまり閉めないとはじまらないんですよ。
開けっ放しにしてたんじゃ
なにも起こらないんで、閉める。
で、閉めたときにはもう、
「そのつもりなのね」ってことじゃないですか。
阿川
合図なんですね。
糸井
合図ですよね。
歌詞にもある「二人でドアを閉~めて~♪」です。
でも、「閉めます」という合図を
はっきりさせなければ、たとえば
「ただトランプをしてたんです、私たち」って
いうことになりますよね。
そこを教えられてるか、教えられてないか、
わかってる、わかってないの、
ものすごいグレーゾーンです。
そこに小さいときから興味があって。
閉める要素と閉めない要素が人には両方あるんです。
なんで後ろ手に鍵を閉められるんだろうという、
その自信も不思議だし。
阿川
(笑)
糸井
もちろん、閉められない人もいます。
でも、ドラマの中で閉めないほうの人は
出てこなくって、
だいたい、閉めるシーンになるんです。
阿川
なんででしょうかね。
糸井
よくわかんないんですけど、
でも、現実には閉めないほうの人も
いるんだよってことを思ってたら、
それが「草食男子」と言われるようになって。
阿川
ほおほお。
糸井
草食男子はきっと「閉めないほう」で
ずっときてるんですよね。
「鍵閉めない部」(笑)。

(つづきます)

2015-02-13-FRI