第3回:お世話するタイプとお世話されるタイプ

阿川
伸坊さんはどういうタイプなんですか?
糸井
伸坊は昔、短気だったらしいんです。
阿川
あ、聞いたことあります。
髪型もなんか攻撃的な感じで、
長かったんでしょ?
糸井
そう、反体制みたいな。
阿川
反体制系。
糸井
「反」という言葉って、
なにかに対して力でぶつかろうとする感じだけど、
伸坊の場合、
「それはなんか違う気がする」というのだけで、
別に体当たりじゃないんですよね。
「ただ、いやだな」というのを表しているだけ。
阿川
意思表示だけ。
糸井
でも、人とぶつかっちゃうことがあったときに、
どういうふうに伸坊が怖かったかって話を
赤瀬川さんがしてましたけど。
阿川
ああ、赤瀬川原平さん。
糸井
赤瀬川さんが酔っ払いに絡まれたときに
伸坊がものすごく正攻法で言い返しちゃって、
赤瀬川さんがすごくドキドキしたんだって(笑)。
「南はそういうとこあるんだよね。
 南といると、そういうところが怖いんだよね」
そんなふうに赤瀬川さんが言ってたら、
伸坊が「アッハッハッハ」と笑いながら
「赤瀬川さんは気が弱過ぎるからそう思っただけだ」って。
阿川
その話を聞いて思ったんですけど、
男の友達同士って
お互いに全然キャラが違ったり、
気の長さ、短さというのが違ったりしていても、
「こいつは生涯、許す」というか、
なんかそういう関係じゃありませんか?
糸井
いいところを聞きますね、本当に。
その話はいくらでもおもしろくできます。
阿川
あ、本当に?
糸井
(「ほぼ日」乗組員のほうを見て)
みなさん、こうですよ。
こういう質問をすべきなんです。
阿川
いやいや、ただ、男同士の友情っていいな、
うらやましいなと常々思っていたもので。
糸井
たしかに男友達で
「俺らはそっくりだな」と言ってるケースは
僕にはちょっとわからない。
「全然違うんだよ」って友達のほうが
多いかもしれないです。
阿川
やっぱり?
糸井
やっぱり。
「真逆だね」という
友達のほうが続きます。
阿川
たとえば糸井さんの場合、
真逆だとどんなタイプの人?
糸井
ものすごく喧嘩っ早いとか。
阿川
ああ。
糸井
たとえば‥‥ある友達は、
いい年して靴の先に鉄板を入れてるんです。
「急に踏まれたとき危ないから」と言うんです。
誰かが、なんでもないかのようにスッと寄ってきて、
ガーンと足の先を踏まれると、
「すっごく危ないから不利になる」と(笑)。
阿川
常に喧嘩に対しての態勢を
整えているんですか?
糸井
そうそう。
「俺の靴の先はガーンとやられても
 大丈夫なように鉄板が入ってる」
阿川
カウボーイみたい(笑)。
糸井
もう1つあって、
自宅兼仕事場みたいな場所に会いに行ったとき、
くつろいでメガネかけていたんです。
そいつが普段メガネかけてる姿、見ないんですよ。
なんでかけてるんだろうと思っていると、
「おい、メガネのこと内緒だぞ。
 目が悪いと思われたら、それは不利になる」
阿川
おかし~い。
糸井
目が悪いということを利用されて
攻撃をされたらかなわない。
それにメガネをかけてたら
パーンと飛ばされたり
逆にメガネが顔に食い込んだり、
ガラスが割れたりして危ないからって。
阿川
その靴先に鉄板入れてる人と、
メガネかけているのは内緒だという人って‥‥。
糸井
同一人物。
阿川
ハハハ、同一人物ですか。
その人、どこがいいんですか、
糸井さんにとって。
糸井
やっぱり、おもしろいんです。
で、バカじゃないんです。
なんだか両極にいるみたいに思えるんですけど、
彼が僕の言ってることを
わかってくれるというのもあるし、
僕が彼の言ってることをわかることもある。
で、そばにいると僕が保護者になっちゃう。
阿川
ああ。
「いま危ないよ」とか、そういう感じ?
糸井
うん、そいつが喧嘩しそうになって、
あわてて僕が止めようと
2人のあいだへ入っちゃって
喧嘩に巻き込まれたこともありました。
すごく面倒くさいんです、そばにいると。
阿川
いつも面倒みてなきゃならない。
糸井
面倒みてるというか、
しょうがないんですよね。
しょうがないんです。
阿川
ちょっと話がズレちゃいますけども、
昔、えのきどいちろうさんと
けっこう長く話したことがあって。
糸井
ああ、いいですね、あの人も。
阿川
そしたら、えのきどさんに
「世の中はお世話するタイプと
 お世話されるタイプの二つに大別される。
 阿川さんはお世話されるタイプだ」
と言われたんです。
そう言われればそうだけど、
だけど私、確かにお世話されるときもあるけど、
ある人に対しては、
お世話ばっかりしてるけどなぁって。
両方ありますよね。
糸井
両方あると思う。僕もそう思います。
阿川
糸井さんがお世話されるときもありますか。
糸井
「靴に鉄板」の彼については、
どうしてもお世話のほうに立っちゃうけどね。
でも、彼もすごく僕にお世話したいんです。
「こんなん買った」と言って
急にニューヨークで買った
ライカのカメラを出してきたり。
だけど、僕は別にカメラ欲しくないんです。
トンチンカンなの(笑)。
阿川
ちょっと方向が違うんですね。
糸井
ちっちゃい子が設計図描いて
夢を語るようなことを
ずーっとしてる奴なんです。
彼は東京タワーの見えるマンションに
住んでいたんですけど、
「東京タワーよく見えるなあ」と言ったら、
「だろ。だから買ったんだ」と。
東京タワーが見えるというと
女の子を部屋に入れやすいんだそうです。
でも「東京タワー見たらいいよ」ってところまでは
いいんだけど、そこからうまくいかない。
女の子がずっと東京タワー見てると困るから、
ベッドがある部屋に一人で行って、
「ああ、柔らかいなあ」とか言って
わざとポンポン弾んでみるんだけど、
いっこうに来ないんだって(笑)。
阿川
いいなぁ、バカだなぁ(笑)。
糸井
バカでしょう?
そいつもちょっと困って、
「東京タワーとその柔らかいベッドの
 ポンポンのあいだに、なにかが必要なんだ」って。
阿川
(笑)それを糸井さんが
おもしろがってるのを、その方は
わかってらっしゃるんですか?
糸井
わかってますよ。
ほかにも‥‥どのくらいまで言っていいのかな。
まあ、とりあえずフィクションとして言いますけど。
阿川
はい、フィクションですね。
糸井
フィクションですけど、
世の中には、長ーく付き合ってるうちに
お互い年を取ってしまったような
女性がいたりする場合がありますよね。
阿川
あ、はいはい。
糸井
「佐和子ちゃんが20歳で、僕が23歳のときでした」
みたいなお付き合いが
平行移動して43歳と46歳とかになるじゃないですか。
阿川
それはなりますね。
糸井
で、また恒例の別れ話がやってきました。
「私このまま死んでいくのもなんだし」
みたいなことを、また言われたと。
そこで、彼は
「俺はいつもおまえの前ではいいカッコして、
 二枚目ぶって格好つけてて悪かったな」
と言ったんだそうです。
そしたら、彼女のほうは「は?」となって、
「いったいなにを言ってるんだろう」という顔で
「貴方はおもしろい」って言ったんだって。
つまり、格好つけてなんかいなかったと
彼女は思ってたし、男のほうは、
自分がいつも格好つけていたと思っていた(笑)。
「おもしろい人」というふうに
見られてたってことを知ったらしいです。
阿川
20年の歳月を経て、やっと自覚したと(笑)。
糸井
言われて分かったらしい。
阿川
気がついたんですか?
糸井
で、俺が「そうだろうな」と言ったら、
「そうかなあ」って(笑)。
阿川
「おもしろい人」じゃ、不満なんだ。
糸井
二枚目ぶりたい人なんですけど、
バレバレなんです。
阿川
かわいい人ですね。
糸井
そういうところ、
全部がおもしろいんです。

(つづきます)

2015-02-10-TUE