秀島史香さん(ラジオDJ、ナレーター)ハッピーって、
難しいことじゃない。

任天堂の元社長、岩田聡さんのことばをまとめた
『岩田さん』という本を出しました。
それでとてもうれしかったのは、
本をきっかけに、たくさんの人が
岩田さんについて話しはじめたことでした。
もっと岩田さんの話がしたくて、
いろんな人に取材することにしました。
岩田さんをご存知のみなさん、
岩田聡さんについて教えてください。
『岩田さん』を読んでくださったみなさん、
感じたことを聞かせてください。

取材・編集:中川實穗

第1回ちゃんと言葉にしてくれるのがありがたい

──秀島さんがツイッターで
『岩田さん』をほめてくださったのを見て、
詳しくお話をうかがいたくて
お時間をいただきました。
どうぞ、よろしくお願いします。

秀島よろしくお願いします。
これ‥‥どこからお話ししましょうね。

──わ! 付箋の数がすごい!

秀島これでも間引いてきたんです(笑)。
本当にぐじゃぐじゃになるぐらいに
読みましたから。

──ありがとうございます!
そもそも、秀島さんは
岩田聡さんをご存知でしたか?

秀島実は、お名前を知っているくらいでした。
私はゲームに疎いので、
Wiiも触ったことがないほどで。
HAL研究所も知らない状態で、
「ふーん」という感じで読み始めたのですが、
「商品づくりを通して、つくり手である我々と
遊び手であるお客さんを
ハッピーにするのが目的だと決めよう」(P28)
というあたりから、「あれあれ?」って、
どんどん引き込まれてしまって。
仕事論や人生論、働き方やチーム論のようなものに
なるほど、と思いましたし、
素敵な人ってみんな同じことを
考えているんだなと感じました。

──秀島さんは、ツイートのなかでは、
本の総合的な感想として、
「知らないことを恥ずかしがらない」
「自分以外の人に敬意を持てるかどうか」
「人がよろこんでくれることが好きです」
ということを挙げてらっしゃいました。

秀島そうですね。その3つは大きかった。

──「知らないことを恥ずかしがらない」というのは
「安心して『バカもん!』と言える人。」(P56)
というブロックに書いてあることですね。

秀島そうですね。これは本の中では、
新人に向けての言葉だったのですが、
私は、歳を重ねても、
知らないことを「知らない」と言える人の
カッコよさ、素直さに、すごく憧れるんです。
というのも、私はラジオのDJという仕事柄、
日々、いろいろな方にインタビューします。
そのときはもちろん失礼にならないように
ゲストのバックグラウンドを
なるべくフォローしているつもりですが、
やはりすべてを知ることは現実的に不可能ですよね。
だから、お話をうかがっていると必ず
「知らないこと」というのが出てくるんですよ。
でも、当然ですよね。
だってそれを「教えてください」っていうために
お招きしているわけですから。

──はい、そうですね。

秀島だけど、社会に出たばかりの駆け出しのころって、
「知ってないと相手に失礼だろう」
ということを飛び越えて、
完全に自意識だけの問題として、
一人前じゃないことのカッコ悪さを
必要以上に感じてしまっていたんです。
だから、知らないことイコール
「いけないこと」だととらえてしまって。
かつ、そんな自分自身を認めたくないっていう、
そういう変なバリアみたいなものが
いっぱいあったと思うんですね。

──すごくわかります。

DJをはじめて1年目のときなんて、
私は大学3年生だったんです。
でも担当番組で千本ノックのように
さまざまなゲストの方に
お話をうかがわなくてはならない。
ときには、キャリア何十年という方が
ゲストにいらっしゃることもあって、
正直、なにから訊いたらいいのかわからない、
という状態が何度もあったんですけれど、
私はそれを取り繕ってしまっていたんです。
当前、ゲストの方からはそれが見え見え。
「まあ、しょうがないね」と思ってくださる方もいれば、
「私が言いたいのはそういうことじゃなくてね」
というふうに、半分お説教みたいに
なってしまうこともありました。

──それはやっぱり、「知らない」と言えなくて。

秀島そうですね。
話のなかで、自分が知らないことを尋ねたら、
そこで何かが止まってしまうのではないかと
勘違いしていたんですね。
だけどそもそも19、20歳の人間の知識なんて、
ゲストの方はもちろん、リスナーの皆さんにだって、
だいたいわかっていたはずなのに、
それでもやっぱりカッコつけたい、
っていうカッコ悪さ。

──ああーー。

秀島そういうことがこの本に書いてあったので、
「なぜ岩田さんはあの頃の私がわかるんですか?」
と思いました(笑)。
他にも、「『オレってけっこう賢いでしょ?』って
思わせるようなことは、先輩には、みんなバレます」
とか書いてあるのを読んで、
ああ、すべてお見通しだったんだなと思いましたし、
ようやく、いまさら、ハッとするというか。

──今だからこそ、ですね。

秀島そういうことをちゃんと言葉にしてくれる上司って
すごくありがたいだろうなと思いましたね。
私も「バカもん!」と安心して
言ったり言われたりする人に
なりたいとも思いました。
そう言われることももうなかなかないですから。
そういう意味で、宮本茂さんが岩田さんを語る章で、
「いろんなことをことばにしてくれた」
っていうところ‥‥あ、ここですね‥‥。

──わあ、本に直接書き込んであるんですね。

秀島そう、移動しながら読んでいるときに
「素敵!」と思うと、
本の空いたところに書いちゃうんですよ。
後で「あの本、よかったな」って出してきたときに
自分がどこにどう引っかかったかがわかるように
こうやって残しておくんです。
なんだか、汚くしちゃってすみません(笑)。

──いえいえ(笑)、うれしいです。

秀島それで、宮本さんが
「岩田さんはいろんなことを
ことばにしてくれた」(P191)
とおっしゃっているのがすごくいいなと思いました。
私は、口に出さずにわかりあう、
いわゆる以心伝心とか、阿吽というようなものを
あんまり信用していないんですね。
それは一緒に働いている人たちにもそうですし、
家族間、夫婦間、子どもに対してもそうなんですけど。
やっぱり「言ってくれなきゃわからないじゃん」
ってことがすごくたくさんある。
その努力をしないまま「なんでわからないの?」と
ひとりイライラするのは、建設的じゃないなと思うし。

──秀島さんが常々思っていたことでもあるんですね。

秀島そういう、ぼんやりと思っていたことを
この本が言葉にしてくれたという感覚は
とても大きかったです。

これまでの岩田さんを知ってる人たち。