The Apple in My Heart 奈良美智さんの中へ、ほんの少し。

13 ニール・ヤング

奈良 ぼくね、生まれて初めて見た
海外のミュージシャンがニール・ヤングで。
高校1年のときに、武道館に見に行って。
糸井 あの、長い髪を風に扇風機にあててたときでしょ。
奈良 かなぁ?



※この日は特別に撮影を許可していただいたのですが、
 通常の「A to Z」は撮影禁止ですのでご注意ください。

糸井 家具が置いてあって。
奈良 そうそうそう。
糸井 あのときもよかったし、
ちょっと前に来日したときもよかったですよ。
奈良 ドイツいたときも何回か見てて、
ニール・ヤング見てると、
彼の価値観って、変わんないでしょ。
糸井 そうだねえ。あの人はなんなんだろうね。
奈良 だから、変わらないことっていうのも、
すごく力になるんだっていうことを
ぼくに教えてくれた人なんですよね。

糸井 そのくせ、自分以外のものについては、
新しモノ好きだったりするじゃないですか。
DEVOのプロデュースしたりさ。
奈良 そうです、そうです、
パンクにもいちばん最初に理解示したし。
糸井 頭の中が柔らかいんだよね。
往復運動ですよ、やっぱり。
奈良 若いバンドが挙げる好きな先輩ミュージシャンの中で、
たいてい最初にくるのがニール・ヤングなんですよね。
ボブ・ディランでもないし、
ローリングストーンズでもない。
それはたぶん、とらえどころがないからだと思うんです。
たとえばローリングストーンズは
エンターテイメントと結びつけることができると思う。
ボブ・ディランだったら、メッセージの方法論で、
エリック・クラプトンだったら、
テクニックとかかな‥‥。
で、ニール・ヤングは、って言ったときに、
なかなかとらえどころがない。
糸井 うん。言いづらいよね。
奈良 それはなぜかっていうと、
ニール・ヤングの基準にあるのが、
ビジネスやテクニックではなくて、
自由っていう抽象的な表現だからなんじゃないかな。
だからニール・ヤングのことを
なかなか客観的に語れないんだと思うんです。
なんで若いバンドの連中がみんな
ニール・ヤングのこと好きなのかというと、
やっぱり自由だから。
糸井 あの人、アメリカの現状に
浸かりきらない場所にいるじゃないですか。
それが立場としてものすごくおもしろいですよね。

奈良 そうなんですよ。
彼のいちばん新しいアルバムが
『LIVING WITH WAR』っていうんだけど、
それをつくったきっかけは、
あるインディーズのフェスティバルに呼ばれて、
楽屋でみんなで話したときに、
自分たちがベトナム戦争のときに一所懸命やったこと、
反戦歌作って、平和をアピールしたことっていうのが
いまの若いバンドに受け継がれてないって
気づいたからなんだそうです。
どうして受け継がれていないんだろう、
でも、なんでだろうって考える前に
いまそういうことができるのは、
あのころやっていた自分たちだけだから、
自分たちがもう一回やんないと、って言って、
もう一発録りあのアルバムをつくったんです。
それを知ったときに、
「やっぱニール・ヤングだなぁ」と思って、
めちゃめちゃ感動した。

糸井 自分の中に「ニール・ヤング」っていう動物が
もう一匹いるような人なんですよね。
奈良 そうそうそう。
糸井 きっとね、静かに家にいたいときだって、
あると思うんだけどねぇ。
奈良 子どものころはね、太ってたみたいですよ。
糸井 あははははは。
そういえばニール・ヤングって、
モノポリーもやるんですよ。
それは、ぼくがモノポリーを始めた
きっかけのひとつでもあるんですけど。
モノポリーってつまり、
お金をやり取りする典型のようなゲームなんです。
それをあのニール・ヤングが
矛盾なくやっているっていうのが
もう、往復運動ですよね。
奈良 そっかー。
やったことないな、モノポリー。
趣味でいうと、ニール・ヤングは
おもちゃの汽車のコレクションがすごくて、
その汽車を走らせるための倉庫があるらしいですよ。
蒸気機関車がすごく好きみたい。
糸井 へええ(笑)。
奈良 それもあるのかもしれないけど、
ニール・ヤングの音楽を聴いてると、
蒸気機関車を思い出すんですよね。
すごいローテクで、石炭くべて、ポッポーって発車する。
そこにスピードはないかもしれないけど、
人が汗水たらして疾走する、そういう力強さと美しさ。
それは最新の新幹線なんかにはないもので。
糸井 坂に来たら、遅くなりそうだもんね。
奈良 そうそう(笑)。
そこを踏ん張っていくのが、かっこいいんですね。
糸井 動物っぽいよなぁ。
奈良 人間誰しもが持ってる根源的な力、
なにかに頼ろうとするんじゃなくて、
自分の力で立ち上がるような、
そういうスピリットがある。
糸井 たぶんあの人がレコードつくる権利を
持ち続けてるってとこでは、
彼か、彼のまわりの人が、がんばってるはずなんですよ。
そうじゃないとただ消えちゃうと思うんです。
いくら彼がすばらしくてもね。
そういうところも含めて、おもしろいですよね。
奈良 うん、うん。
糸井 奈良さんがニール・ヤング好きだって聞いて、
「そりゃそうでしょう」って気がした。
ちゃんとニール・ヤングのレコードも飾ってあって、
あ、やっぱりねって思った。
奈良 好きなんですよ。
糸井 あの、ジャームッシュの映画で、
ニール・ヤングがギター弾いてるのありますよね。
奈良 ああ、見た見た見た。
糸井 『デッドマン』か。
あれ、画面を見ながらただ弾いて
それを映画音楽にしたっていうんですよ。
瞬間に出てきたものに対して信じてるっていうか、
ようするに、テクスチャーなんですよね。
あの人も‥‥って、
なんでニール・ヤングの話をずっとしてるんだ?
奈良 ははははははは。
糸井 話を戻そう。ニール・ヤング特集になっちゃう。
奈良 (笑)



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2006-10-18-WED

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