たいしたことを言ってやろうと思うと、
ろくなことがなさそうなので、
いつものように、たいしたことない挨拶をさせてください。

毎年、いまごろの時期は、少し緊張があります。
1998年に、この「ほぼ日」がスタートして、
また一年経ったんだと思う日が、6月6日なのです。
毎年、それは同じで、
3月3日になったり
5月5日になったりすることはありません。
6月6日なのです。

どうして緊張しているかというと、
前の年の今日から、一年が経って、
なにが変わったのだろうかと、考えてしまうからです。
いや、なにがよくなったのだろうかと、考えてしまいます。
その、進歩なのか進化なのかについて、
外に向けて発表してみたいものだ、
などと、ついつい気張ってしまうらしいです、自分も。

しかし、進歩も進化も、してないと思ったほうがいい。
たいしたふうに言えても、たいしたことはないのです。
実は、たいしたことない。
子どもの背丈が伸びることについても、
よく大げさに表現されるけれど、
実際伸びるの見えないほどのスローな速度でしょう。
よくて、そのくらいの感じだと思うのです。

『悪人正機』という本のインタビューのなかで、
吉本隆明さんが、
「10年やれば、誰でも一丁前になるんです」
と発言しています。
これは、たくさんの凡人をおおいに勇気づけることばで、
あちこちで引用されるようになっています。
でも、オチみたいですけれど、
「ただし、10年やらなかったら、まぁ、
 どんな天才的な人でもダメだって
 思ったほうがいいふうにも言えるわけです。
 9年8ヶ月じゃダメだって(笑)」とも言っています。
(笑)が付いているとはいえ、
ほんとうのことを言っていると、ぼくは思います。
そういう意味でも、ぼくは、どこかで
10年経ったその日を、待っているのかもしれません。
誰でもを一丁前にしてくれるという魔法の時間を、
ぼくらはまだ過ごせていないのだから、
一人前のように思わないほうがいいと、
戒めているようなところが、あります。

ここまでぐだぐだと書くと、
やっと余計な緊張感がなくなります。
ここであえて言えることを、考えます。

そう‥‥。
この一年もおもしろかったです。
「ほぼ日」につきあってくれた人たちにも、
おもしろかったと言ってもらえていたらうれしいけど、
まずは、自分たちはおもしろかったと言いましょう。
やや不遜に聞えるかもしれませんが、
いやなことや、つらいだけのことは、してこなかった。
一所懸命にやらないと無理だということもあったし、
終わってから、くたびれはてて
眠りこけてしまったようなこともあったけど、
おもしろかったのだからよかったと思っています。
そういうことだったよ、この一年。
せっかく「8周年を迎えて」なんてタイトルをつけたのに、
ぐずぐずになっちゃいましたね。

で、さて、未来に向けての、
つまり、これからのことを言っておきます。




「ホームページ」ということばを、
あんまり聞かなくなりましたよね。
たぶん、ことばばかりじゃなく、この
「ホームページ」という概念の、
影が薄くなっているのだと思います。
「ほぼ日」は、ホームページとしてはじまって、
いまでも、そんなスタイルでつくられてきていますが、
このことについては、考え直す時期がきています。

個人が、自分の言いたいことを言う場所は、
「ホームページ」というかたちで構築しなくても、
もっと簡単に、ブログという形式で
つくれるようになっています。
このことを考え合わせて、
ぼくらなりの新しい「ほぼ日」を
再構築していく必要を、感じています。

「ほぼ日」のスピリットは、残るはずですが、
増改築を繰り返してきた古い温泉旅館、みたいなものは、
少しずつなのか、一気になのか、
解体しようとしています。
おそらく、そのときには、
「昔はよかった」という、
ありがたいような迷惑なような声も、
それなりにたくさん届くことも覚悟しています。
しかし、変化をできなくなったら、
おしまいだと思っていますので、必ず実行します。
いやぁ、たいしたことじゃないです。
新しい「ほぼ日」は、
失敗を怖れずに、きっとスタートさせます。




かっこつけて言えば、ちょっと江戸っ子な気分もあって、
散り際のよさだとか、ものごとに拘泥しない姿勢に、
美意識を感じていたんでしょうかね。
「ほぼ日」にしても、東京糸井重里事務所にしても、
石に噛りついても守らねば、というような気持ちは、
当初は、なかったような気がするのです。

しかし、いま、あえて宣言することにします。
そういう美意識のままでできることは、もう終わり。
その程度の気持ちでやれることじゃダメなんだ、と。
わざわざ石を噛るつもりもないし、
あえて泥水を啜るのもうれしいわけないけれど、
やりますよ、そういうことも、というわけです。

徹夜の大好きな独身者の集いみたいなものは、
これはこれでなかなか愉快で楽しいのですが、
いまの「ほぼ日」は、そういう時代にはないのです。
自分の代を稼ぎ手にしている家庭を持っていたり、
子どもを育てていたりしながら、
活発に考え動いている人たちが中心になってきている。
おとなのチームに、なろうとしています。
いざとなったら腹を切る、みたいなことはありません。
みっともなくても、散り際の美学なんて言いません。
しぶとく、タフに、しっかりメシの食える集団になります。




これまでにも、いろんな機会に、
「消費のクリエイティブ」ということを言ってきました。
しかし、その発言は、どこかで
「一風変わった、ユニークな視点」という位置に
とどまっていたような気がするのです。
ぼくらのほうが、その位置に甘えていたのかもしれません。
「生産」という本道があって、
その補完物としての「消費」がある
というような考え方では、いつまでたっても
「消費」(「遊び」や「たのしみ」も)は、
育ちはしないでしょう。
ほんとうは、いまの働き方というものは、
ものすごく歪んだ、この時代に固有の特殊な考え方によって
やっと成り立っているもののように思うのです。

「遊び」「たのしみ」が、どうでもいい付属物だとは、
どうしても思えません。
この先、ぼくらは、この考えをもとにして、
もっと突っ込んでいこうとしています。
「消費」の側からものごとを考えること、というのは、
いまはふつうに語られている
「市場」側からの発想と、
そんなにちがうことではありません。
「遊び」や「たのしみ」を、研究することではなく、
それ自体の渦の中で仕事にすることができないものか‥‥と、
ぼくらは、そのコンセプトで仕事をしてみます。
怒らないでください。お願いします。


まだ、いくつかあるのですが、
これ以上は、しつこいですね。
この先、1年と、さらにその先の10周年の方向を向いて、
「ほぼ日」(東京糸井重里事務所)は、歩いていきます。

おもしろいと思ってもらえるように、
がんばっちゃいます。
よかったら、応援してください。
読んでもらえるからこそ、できることばかりです。
これまでも、ありがとうございました。
これからも、どうぞよろしくお願いします。

2006年6月6日




まだお知らせしていなかった
今後のほぼ日刊イトイ新聞の大きな予定を、
3つ、お知らせします。



糸井重里の挨拶にもありますように、
1998年に創刊して以来8年間、
ほぼ日刊イトイ新聞のホームページは
その場その場で増改築を繰り返してきました。
それはそれで、奇妙な「味」になっているとも思うのですが、
さすがに根本的なリニューアルが必要になってきています。
「過去のアーカイブが探しにくい」「縦に長過ぎる」
といった声も、以前よりいただいています。
現在、ホームページの刷新に向けて会議を重ねております。
ある日、見慣れた「ほぼ日刊イトイ新聞」が
がらりと装いを変えてしまうかもしれませんけれど、
びっくりしないでくださいね。
もちろん、「よりよく」変えていくつもりですので、
どうぞ、期待してお待ちくださいませ。




これまでの8年間、ほぼ日刊イトイ新聞には
膨大な量のコンテンツが掲載されてきました。
創刊8周年を迎え、大きく変わろうとする
「ほぼ日」を象徴する意味で、
これまでのコンテンツをぎゅっと濃縮した
1冊の本を企画中です。
もちろん、すべてのアーカイブを
1冊にまとめることはできませんから、
「8周年のコンテンツのダイジェスト」
のようなものになると思います。
どちらかというと、リラックスしながら、
ぱらぱらとめくれるものにしたいなと思っています。
詳しい内容や発売日などが決まりましたら、
またあらためてお知らせいたしますね。
どうぞ、ご期待くださいませ。




「ほぼ日」に掲載されたコンテンツは、
これまでに何冊も本になっていますし、
自社からの本も合計4冊出版しています。
けれども、本格的に取り組んできたかというと
それもちょっと違うように思います。
今後、ほぼ日刊イトイ新聞は、書籍事業に対して、
これまで以上に能動的に取り組んでいきます。
まずは、よしもとばななさんの『U.M.A.』
たかしまてつをさんの『ブタフィーヌさん』
そして『言いまつがい』の続編を書籍化していく予定です。
さらに、書籍事業を本格化するにあたり、人材募集を行います。
ほぼ日刊イトイ新聞の書籍事業を引っ張ってくださる方、
どうぞ、こちらをお読みになって、ご応募くださいませ。
(募集は終了しました。)

9年目のほぼ日刊イトイ新聞にどうぞ、ご期待ください!


2006-06-06-TUE
ご感想はこちらへ ほぼ日のホームへ 友だちに知らせる
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN All rights reserved.