15 ストップモーション・アニメータードワーフ 峰岸裕和さん
── 峰岸さんのようなコマ撮りのアニメーターさんは
日本でも数名しかいないと聞きました。
峰岸 そうですね。

人形を動かすだけで食ってます、という人は‥‥
片手で足りるくらいかなあ。
── つまり、5人以内?
峰岸 おそらく、そんな感じだと思います。

「自分が監督している作品の人形を
 自分で動かす」
という人なら、もっといると思うんですけど。
── 峰岸さんのように、いわば「職人的」に
「動かすこと」だけを引き受けて
しかも食べることができている人は、少ないと。
峰岸 そうですね。アメリカやイギリスには
もう「わんさか」ってほど、いるんですけどね。
── これは、峰岸さんが「職人」と呼ばれている
ゆえんかも知れませんが
どんなモノが来ようが、動かす人であると
聞いてまいりました。
峰岸 そうですね‥‥何でも動かしますねぇ。

手で触れるものなら、何でも。
── すごい!

では、今までのキャリアで
いちばん「無茶」なオファーって何ですか?
峰岸 無茶というか‥‥いろいろ大変だったのは
炊飯器かなあ。
── ‥‥あの、お米を炊く、電気のお釜の。
(って、何を言っているんだろう‥‥)
峰岸 そう、業務用の、こんなデッカイお釜が
「歩きたい」って。

── ははー‥‥。
峰岸 しかも、昼間の公園を。
── というと?
峰岸 基本的に、コマ撮りで「野外ロケ」なんて
あり得ないんです。

時間とともに、光が変わっちゃいますから。
── そうか、太陽は刻々と動いているから
写真によって
光の角度や影などが変わってしまうと。
峰岸 それは、テレビ用のCMだったんですけれど
まあ、いろいろ考えて
最終的には、実写の風景のなかに
コマ撮りの静止画を合成して
どうにか、作品として完成させましたけどね。
── つまり‥‥歩かせたんですね。炊飯器を。
峰岸 歩かせましたね。
── あの、峰岸さんが
この世界に入ったきっかけを教えてください。
峰岸 わたしが、まだ幼稚園だったころ、
テレビでアメリカの人形アニメを観たんです。

ジョージ・パル監督の
『ジャスパー』という作品なんですけど。
── それは、どのようなお話なんですか?
峰岸 あれは、音楽もジャズだったし、
もしかすると、大人向けだったのかなぁ‥‥。

ギョロ目でタラコくちびるの黒人の男の子が
主人公なんですが、
おもしろいストーリーのなかに
ちょっと「怖い」要素が混じってるんです。
── あ、子どもって
けっこう「怖い」感じ、好きですものね。
峰岸 そうそう。その『ジャズパー』って作品も
画面は暗めだし、何だか絵づくりもきたなくて。

手法は「パペトゥーン」でした。
── パーツを置き換えて撮る手法の、あの。
峰岸 うん、男の子が「歩く」ときは
腰から下を、いちいち置き換えて撮るというね。
── ええ、ええ。
峰岸 制作されたのは「第二次大戦中」ですから
もう60年以上前の作品ですけど
非常に凝ってましたし、
かなり高度で、時間のかかるアニメーションを
やっていたんです。

もちろん、当時は、ただの子どもですから
そんなこと、わかってませんでしたけど。
── でも、他の映画やアニメなんかとは
どういうふうに、ちがって見えたんでしょうか。

峰岸少年の目には。
峰岸 やはり‥‥「まばたき」かなあ‥‥。
── まばたき?
峰岸 そう、ジャスパーの「まばたき」です。

グリグリっ、グリグリって
まばたきするんですけど
その「動き」が
とりわけ強烈な印象として残っていまして。
── へぇー‥‥。
峰岸 だってね‥‥子どもごころに
「目玉の上から
 まぶたがにゅうっと出てきてる!」

って、ドキドキしたんですよ。

(1941年制作『Jasper and the Watermelons』が
 こちらのYouTubeのページでごらんいただけます)
── そうか、コマ撮りのことを知らなかったら
当然の疑問ですよね。

「どこから、どうやって、まぶたが!?」
というのは。
峰岸 人形アニメの道を志したきっかけと言うなら、
そんな、単純なことでした。
── では、そのときの「強烈な印象」を抱いたまま、
まっすぐ、今のお仕事へ?
峰岸 高校を出て、アニメの専門学校に行くんですけど
動機の根っこには
あの「まばたき」が、ずっとあった気がします。
── ジャスパーのまばたきが、それほどまでに。
峰岸 ただ、「アニメを仕事にしよう」と思ったのは
川本喜八郎さんや
岡本忠成さんの
人形アニメーション作品を見てから、です。
── なるほど。
峰岸 川本さんの「鬼」なんて、本当に、すごかった。

黒バックの蒔絵のなかで
日本的な人形が、すごく細かく動いていて‥‥。
── それを見て「この仕事をやりたい!」と。
峰岸 ええ、アニメの学校に講師として来られていた
岡本忠成さんのスタジオに
卒業後、アルバイトで入れていただきました。

そのあと、川本さんのところで
いろいろ勉強させていただいたりしながら‥‥。
── もう、どのくらいですか?
峰岸 37年。
── 37年!
峰岸 なかなか、うまくなんないです(笑)。
── いやいや‥‥。でも、そう思われますか。
峰岸 思いますねぇ。

毎回毎回、
「思ったとおりにアニメできないな」って
感じてるからこそ、
わたしは、次の作品をやるんだと思います。
── 今日、コマ撮りの撮影を見学さていただいて
こうして
峰岸さんのお話をうかがっていると
この仕事は
「好きじゃないと無理だな」って感じました。
峰岸 それは、言えるでしょうね。
── どんなお仕事でも、そうだとは思いますが
コマ撮りアニメの現場は
とりわけ、そのことを強く感じました。

しーんとしていて緊張感をはらんだ現場が
何ヶ月も続く一方で、
納期があんまりないときは
ほとんど寝ずに、数日で仕上げるというし‥‥
この現場は
ここにいる全員が「大好き」じゃないと
成立しないんだろうなあと。
峰岸 カメラマン、進行管理、わたし、そして監督‥‥
たしかにみんな「好きな人」ばかりだね(笑)。
── 本日、見学させていただいた「こまねこ」は
何分くらいの作品になるんですか?
峰岸 5分ちょっと‥‥ですかね。
それを「2か月」くらいかけて、撮ってます。
── 作品の長さとしては‥‥。
峰岸 どっちかといえば、短いほうだと思います。
── 逆に、『ウォレスとグルミット』みたいな
一本の「映画」になると、
いったい、
どれくらいの時間がかかっているのか‥‥。
峰岸 あれは「1時間半」くらいの長さですけど、
30くらいの撮影チーム
2~3年かけて、撮ってるんです。
── 人、時間、お金‥‥ものすごいスケールです。
峰岸 まあ、作品の規模もそうですけど、
それだけの数のチームの「アウトプット」を
一定のレベルにそろえられるだけの
アニメーターがいるってことが、すごい。
── 層が厚い、と。
峰岸 イギリスやアメリカはね、やっぱり。
── ちなみに、こういうお仕事をしていると
職業病じゃないですけど、
人やモノの動きが気になったりとか、しますか?
峰岸 動いてるものは、みんな好き。
── みんなって‥‥それは、何でも?
峰岸 はい。動くもの、好きなんです。何でも。
── 具体的に挙げるとすると‥‥。
峰岸 もう、寄せてはかえす「波」だったり、
そよ風に揺れる「木の葉」だったり。
── それを、ずっと見てらっしゃる?
峰岸 ずーーーっと、見てます。

そして、しばらく見ているうちに
「この葉っぱは、何コマで揺れてるな」
とか考えはじめるわけです。
── はー‥‥では、当然、乗り物なんかも?
峰岸 電車とか、大好きですねぇ。
── ようするに、それは
「走っている電車を見るのが好きである」
という意味ですか?
峰岸 いや、電車に乗ってね‥‥。
── ええ。
峰岸 線路を見続けるんですよ。
── うわ、そっちですか!

上から下へどんどん流れてゆく枕木を
見続ける‥‥というような?
峰岸 ええ、そうです。

もう、それだけでおもしろくって
子どものころから、ずっと見続けてました。
── 美しい車窓の風景などではなく。
峰岸 線路です。
── ほんとに、お好きなんですね‥‥。
峰岸 ほかにも、少ーしずつしか動かないものとか、
じぃーっと眺めているの、大好きです。

ウミウシとかね。
── 僕などが言うのもおこがましいですが
まさしく「天職」でいらっしゃると思います。
峰岸 でも、ふだんから好きで見てるので
アニメするときに、非常に活きてくるんです。

そよ風で草がゆらゆら揺れる場面なんて、
テストしなくても
一発で、完璧に動かせる自信あります。
── ‥‥つまり、峰岸さんのあたまのなかには
人や動物やモノの
さまざまな場面における「動き」が
アーカイブされてると。
峰岸 まあ、そんなおおげさなことじゃないけど
そうですかね、あるていどは。
<つづきます>
2013-01-10-THU
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