糸井

この間、ニュージーランドとの試合中に、
味方を持ち上げるプレーを見たんですけど、
ああいうプレーはよくあるんですか。

五郎丸

いつでも持ち上げていますね。

糸井

ラインアウトの時だけじゃなくて、
試合の途中に味方をひょいっと抱えて
パスしていたんですよね。
「俺が乗るぜ！」とか言っている暇はなくて、
当たり前のように持ち上げていました。

五郎丸

ひとりで上げられること自体すごいですよね。
一般人を持ち上げるわけじゃないですから。

糸井

いやあ、おかしいですよねえ。

五郎丸

跳ぶ側もすごいですよ。
それだけ仲間を信頼して
跳んでいるわけですから。

糸井

ボールが飛んでくる場所を予測するだけでも
ずいぶん頭を使っているのに、
さらに味方を抱えて持ち上げるんですよね。

五郎丸

スローイングの時に持ち上げられて、
ジャンプするケースもありますよね。
ジャンパーは平気で跳んでいるように見えますが、
まっすぐ跳ぶという行為自体、
ぼくからするとすごいなと思います。
ジャンパーと前後で上げている２人が、
それだけ信頼しあっているわけですから。

糸井

信頼で跳んでいるんですね。

五郎丸

もしもぼくが跳ぶとしたら、
お互いに信頼できていないから
まっすぐに跳べないんですよ。
後ろにいる人のお腹を蹴ってしまいそうです。

糸井

前後の人も含めた３人がみんなで、
「俺」になっているんですね。

五郎丸

ジャンパーを上げている人も、
手を挙げているから無防備になるんです。
それでも、プレッシャーをかけられようが
ジャンパーを持つ手は絶対に離しません。
持ち上げていたジャンパーを下ろした瞬間、
ボールを目がけて
バーッと攻め入ってこられるんですけど、
そのままじぶんが前に入って
ジャンパーをブロックしてあげて、
ボールをつないでいきます。

糸井

スローイングのプレーでは、
ボールを取れなかった場合の選択肢もありますね。
ボールを取れた時にはきっと順番があるけど、
取れなかった時には無数の順番があるわけですよね。
強い相手チームがボールを取れなかった時に
どんなプレーを取ったのか、
ラグビーをやっている人にとっては
惚れ惚れするような状況もありそうですね。

五郎丸

プレー中には、
かなりの駆け引きがありますからね。

糸井

ラグビーって、試合中であっても
敵チームに対する尊敬がすごいと思うんです。

五郎丸

そこに尽きますね。
あれだけ激しいことをしているのに、
試合が終わった後には
みんなでお酒を飲むんですよ。

糸井

敵味方が一緒に？

五郎丸

みんな、一緒にお酒を飲むんです。
時代とは逆行していますよね（笑）。
試合が終わった後にお酒を飲むというのは、
アスリートとしてはあまりよくないので。
ただ、それを超えたものがラグビーにはあるんです。

糸井

そのあたりは、イギリス流ですね。
「合理性で言ったら違うんだけどさ」
という要素を上手に混ぜていますよね。

五郎丸

やっぱり、発祥がイギリスですからね。

糸井

ラグビー選手は敵からも学び続けるし、
味方に対する信頼だとかもあって、
普通に生きている人の
人生の模型みたいになっているから
おもしろいんでしょうね。
五郎丸さんがいつか、
「引退する」と決める時はどういう時ですか。

五郎丸

うーん、引退する時ですか‥‥。

糸井

つらいでしょ？

五郎丸

ぼくは、全然つらくないと思いますね。

糸井

つらくないですか。
やめられるって思うんですか。

五郎丸

思います。

糸井

今、五郎丸さんは
どのくらいの場所にいるんですか。

五郎丸

今はもう、
ゴール手前100メーターぐらいです。

糸井

はあー！
もう、そんなところにいましたか。
その実感が五郎丸さんにはあるんですか。

五郎丸

プロになった時から
35歳ぐらいまでかなとは思っていましたし、
やりたいことだとか、達成したいことだとか、
いろいろあったんですけど、
ある程度はクリアできたんです。
あとの100メーターは恩返しで走ろう、
というつもりでいます。

糸井

恩返しの気持ちなんですね。
そうは言っても、勇気だとか、
突っ込んでいく気持ちが消えちゃったら、
ダメになっちゃいますよね。

五郎丸

でも、ラグビーをやっている人たちって、
引退を決める時でも、
闘争心は消えないと思います。

糸井

闘争心は消えない。
じゃあ、やめられないじゃないですか。

五郎丸

なんのために戦うのか、
というほうが大事かもしれないですね。
その理由が薄れていくから、
引退するんだと思うんです。
もちろん、ケガもありますけどね。

糸井

ラグビーのチームは15人でひとつの
生き物のように生きているわけだから、
その中でじぶんがケガ人扱いになっていたら、
みんなもカバーしなきゃいけなくなるし、
チームという生き物が弱くなっちゃうから、
身を引く気持ちになるんでしょうかね。

五郎丸

そういうケースもありますし、
じぶんの満足感がマックスになったから、
という選手もいますね。

糸井

そうか、闘争心が失われないから
ＯＢが口うるさく見えるのかな（笑）。

五郎丸

見えるだけじゃないと思います。
実際に、うるさいんです（笑）。

糸井

ラグビーって他のスポーツ以上に
チームのＯＢが威張っている気がするんです。
お正月にみんなが集まるときには、
おじいちゃんまでいたりして。

五郎丸

ぼくはけっこう、そういう環境が好きなんです。
大学が早稲田だったので、
おじいちゃんのＯＢが祝勝会に参加して、
現役時代の話や、いろいろな話をしてくれます。
社会人として外の世界を見ているので、
ラグビー人としての意見だけじゃなく、
社会人としての意見もプラスしてくれるんです。
「人としてこうあるべきだ」ということを、
ずっと言ってくれる環境なんです。

糸井

五郎丸さんにとっては、
おもしろいんですね。

五郎丸

好き勝手に言ってくれるほうが、
ぼくにとってはおもしろいですね。
年齢や経験を重ねていくと、
周りの人たちが
あんまり言ってくれなくなりますから。

糸井

ラグビーの世界はとにかく、
心が引退していない感じが
外から見るとあるんですよね。

五郎丸

50歳になっても、60歳になっても、
ラグビーをやっている人はいますからね。

糸井

おじいちゃんも、たのしんでいますよね。
部活のＯＢの集いに参加して、
ユニフォームに着替えて、
パフォーマンスとしては
そうとう落ちているんだろうけど。

五郎丸

タックル禁止にしたりして、
ルールを変えながらでも、
ラグビーをしたがる人はかなりいますね。

糸井

やっぱり、ラグビーっておもしろい！

五郎丸

おもしろいですね。

（つづきます）

2019-01-07-MON