ほぼ日刊イトイ新聞

糸井と永田の思い立ったら、雑談。 おめでとうWBC編

「永田くん、永田くん‥‥」と
糸井重里が呼びかけてきたのは
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で
日本が見事にV2を達成した翌日のことである。
野球好きはもちろん、たまたま観ちゃった人でも
「なんか、それについてしゃべりたいぞっ!」
というふうになっているときのことである。
当然、そのときの糸井重里も
「のどからWBCが出かかっている状態」だったが、
受ける永田もまったく同じ状態である。
そして、糸井重里はこう続ける。
「もうさ、ゲストも材料もなしでいいからさ、
いま、バーッと、しゃべっちゃおうか?」
うん、うん、そういうことって、あるはず。
そんなわけで、思い立ったら、雑談。
熱情の冷めぬうちにしゃべり、
記憶が薄れぬうちに更新する、
ロマンティック突貫系コンテンツ。

WBCの楽しみ方

イトイ まぁ、とりあえずね、最初は、
永田くんへの批判から
はじめてみたいわけですけど。
永田 あ、そうですか。
イトイ もうだいぶ前になりますけど、
WBCのメンバーが発表されはじめたころ、
永田くんにWBCについて訊いたら、あなた、
「まぁ、WBCは、あんまり
 重きを置いてないんですよね」
なんて言ってましたよね。
永田 「重きを置いてない」じゃなくて、
「楽しみ方がよくわかんないんですよ」と。
イトイ ま、ともかく、はじまる前は、
「WBCだぜぃ!」っていうんじゃなかったよね。
永田 そうですね。
イトイ 野球もスポーツも
あんなに好きなのに。
永田 そうなんですよねぇ。
で、それ、糸井さんに言われてから
どうしてそうなんだろうと考えたんですけど、
要するに、ぼくが好きな
スポーツのパターンっていうのは、
「そのとき」のために、準備して、練習して、
努力を重ねて、重ねて、重ねて、
ついに「そのとき」がくる、
それを全力で応援する、っていうものなんですね。
イトイ うん、うん。
永田 というときに、多少乱暴にいうと、
ふつうの野球選手というのは、
必ずしもWBCのために
努力をしているわけではない。
イトイ なるほど。
永田 というあたりを、
どうとらえたらいいんだろうな、
っていう感じで、「WBCだぜぃ!」って
なれなかったんだと思うんです。
もちろん、試合がはじまれば、
根本的には野球ファンですから、
ガツンと入れるわけなんですが。
イトイ じゃ、オリンピックの野球は?
永田 オリンピックの野球もおんなじです。
イトイ あ、そういえばそうだった。
永田 そうそう。
だから、北京オリンピックの野球で
日本がメダルをとれなくて、
糸井さんがけっこう落ち込んでたときに‥‥。
イトイ うん。あんまり落ち込んでなかったね。
永田 「オリンピックの一部分が野球なんですよ」
みたいなことを言ったじゃないですか。
イトイ 言われたわ、それ。
つまり、プロ野球ファンとしての
デフォルトの価値基準は、
永田くんとしては、あくまでも
ペナントレースにあるんだね。
永田 そうですね。
それはもう、長年、そういうふうに
プロ野球を観てきちゃいましたから。
イトイ 似た話でいうと、村松友視さんは、
「世界の最高峰の野球を争うもの」って、
やっぱりメジャーリーグだろうって
おっしゃってるんですよ。
永田 あー、うん、うん。
デフォルトの価値として。
イトイ うん。で、まぁ、WBCっていうのは、
そこに価値観として
ちょっかいを出すものっていうか。
永田 わかります。
イトイ おれも、それはよくわかるんだ。
だけどね、自分の場合は、
もう、体が勝手に惹かれちゃうからね。
つまり、誰かがバンドを組む目的が
「女の子にモテたい!」であろうと、
いい音楽がそこで生まれたら
ぼくはそこに身を任せちゃうわけです。
永田 それもよくわかります。
だから、具体的に試合がはじまってからは
もう、ぐいぐい「WBC!」に。
イトイ 多くの野球ファンも、一般の人たちも、
そういう感じだったよね。
もっと言えば、テレビ局もそうだし、
メディアもそういう感じだったし。
永田 そうですねー。
イトイ だから、ひと足先に、浮ついちゃって、
WBCにソワソワした自分としては、
まずは、永田くんにひと言、
「ほぅら、おもしろかったじゃないか!」と。
永田 はははははは。
おもしろかったですよー。
イトイ おもしろかったねー。
具体的には、どこから見方が変わった?
永田 どこ‥‥どこだろうな‥‥
東京ラウンドは、やっぱり、
おもしろさや楽しみ方を探りながら、
それでも目の前のプレーには興奮する、
という感じでしたね。
イトイ 初戦の中国戦をいっしょに観に行ったけど、
そういう感じだったね。
じゃあ、アメリカに行ってから。
永田 そうですね‥‥あ、わかった。
あの、ぼくにとってのプロ野球って、
ペナントレースっていうリーグ戦が基準だから
基本的には負けても大丈夫なスポーツとして
とらえているんですけど、
それが「もう負けられない」ってなってから
トーナメントに切り替わっていくんですよ。
それは、選手も、観るほうも。そこからです。
イトイ ってことは、キューバ戦だ。
永田 そうです。2戦目のキューバ戦。
イトイ 岩隈が先発した試合ね。
雨だか霧だかで、もやっと煙ってる。
永田 そうです、そうです。
イトイ 緊張感あったねー、あそこからはね。
永田 もう、あそこからのWBCは、
ま、韓国との順位決定戦がひとつありましたけど、
基本的には「負けられない」という
甲子園の見方で観てました。
イトイ そうか、甲子園っていう
「負けられない野球」の楽しみ方もあるわけだ。
永田 それはそれで大好きですから。
ついでに言っちゃうと、
ぼくは、日本の野球が強いのは
絶対、ひとりひとりの選手の血に
「甲子園」が流れてるからだって、
信じてるんですね。
イトイ あ、いい! それはいい意見だ。
永田 (笑)
イトイ その意見が聞けただけでも
この雑談、やってよかったわ。
永田 ま、この考えは、
ぼくのロマンがだいぶ入るんですけど。
イトイ そのロマンはOKですよ。
つまり、甲子園の遺伝子ですよね。
永田 そう。日本で野球を目指す人って、
絶対、甲子園が刻まれるんですよ。
出た人はもちろん、
出られなかった人も、
出られなかったということで
血の中に甲子園が流れる。
イトイ いいわー、それ。
永田 甲子園というのは、つまり、
「試合に負けた瞬間に
 3年間の青春の日々が
 終わりになってしまう」という
強烈な価値観だと思うんです。
それを全員が揺るがない事実として
納得して野球に取り組んでいるという。
イトイ そのとおりですね。
それが血に流れてるチームは
強いよね、やっぱり。
永田 そう思うんです。
イトイ それはね、メジャーリーガーに
きちんと説明したら
「わ、そうか!」って言うと思うな。
永田 その、極端に張り詰めた感じというのは
メジャーリーガーには
ないんじゃないかなぁと。
イトイ ないだろうね。
象徴的なところでいうと、
WBCの直前にね、
メジャーリーグの人たちは、
サイン会をやってたんだよ。
永田 ああ、WBCを盛り上げるために。
イトイ うん。で、それはちっとも悪くないし、
「WBCをよろしく」「野球をよろしく」
っていうのは、いいことだと思うけど、
少なくとも、日本チームの人たちは
それをいちばんには思ってないわけで。
永田 そうですね。
イトイ あえていうと、王さんなんかは
そういう意義を感じてるかもしれないけど。
永田 結果的に振興になるのはいいことですしね。
賞金の半額がそれに使われたりとか。
イトイ 実際、振興につながるのは間違いないけど、
野球の振興のために戦うとは思ってないよね。
もっというと、メジャーの人たちも
野球の振興のために必死になってるわけじゃなく、
もう、なんていうか、町内会の当番みたいに
「野球よろしく」ってサインしてるだけだから。
永田 今年は顔出しとくわ、みたいな。
イトイ そうそうそう(笑)。
で、そうやってサインしてる人たちがいる一方で、
国の期待を重く背負ってる人たちもいるわけで、
そのへんは温度差があるよねぇ。
永田 日本は、どっちがメインでもないですよね。
スポーツ振興も、国の代表ということも
ないわけじゃないけどメインじゃない。
イトイ あえていうなら「勝つ」ということに
ぜんぶを集中しているというか。
あ、まさに「甲子園」だね。
永田 そうなんですよ。
「サムライJAPAN」について
イトイ そういう流れとちょっと関係するんだけどね、
「サムライJAPAN」という呼び方が、
ぼくはどうも、気になっててさ。
永田 もともと、糸井さんは、
「サムライ」っていうことばを
安易に使いすぎてるんじゃないか、

っていう意見ですよね。
イトイ うん。で、初戦の中国戦を観たとき、
勝ったものの、あまりに重い試合展開に、
「サムライじゃなくてもいいから
 もっとたのしく試合してくれ」って
スポーツ新聞の原稿に書いたんだけど。
永田 もともとサムライなんかじゃないんだから、
野球小僧に戻ってやってくれと。
イトイ そう、そう。まわりが、
国家の品格みたいな流れで
「サムライ」って使い出したら
やりづらいだろうなぁって。
永田 奇しくも、大会直後の会見で
イチロー選手が
「『サムライ』ということばが
 ハードルになった」と言ってましたが。
イトイ うん。だからといって
「ほらね!」って言うつもりはないんだけど、
なによりも、やっぱり、優勝したときの
川崎選手とか片岡選手とか中島選手とか、
サムライっていうよりも
「野球小僧」の顔してたじゃないですか。
永田 ああ、そうですね。
イトイ あと、いいなぁと思ったのは、
シャンパンファイトのときに、
原さんが、ちょっと感極まりながら、
「ほんとに、おまえさんたちは、
 強いサムライになった」って
言ってたでしょ。
永田 言ってました(笑)。
いい場面ですよねー、あれは。
イトイ あれはもう、町人目線のことばだよね。
呉服屋の旦那というかさ。
永田 (笑)
イトイ つまり、たくましくなった
野球小僧たちに向かって、町人が
「おまえさんたちゃ、サムライだよ!」
って言ってるわけだよね。
その収まり方はね、いいなぁと思った。
永田 なるほど。
イトイ だから、「サムライJAPAN」っていう
ストイックな集団じゃなくて、
こう、町人や農民がサムライと混じって
一丸となってる感じならいいと思うんだよね。
あ、だから、まさに『七人の侍』だね。
永田 ああー、はい、はい。
イトイ ぼくの好みを言わせてもらえば
「七人の侍JAPAN」。
永田 雨の中で農民といっしょになって
泥臭く戦うサムライ。
イトイ そうそうそうそう。
それなら、日本チームに近いね。
永田 ちなみに、原さんが
「チームに呼び名をつけてくれ」って
リクエストしたっていう話は聞きました?
イトイ 観た、観た。ドキュメントでやってたね。
永田 選手はやりづらかったかもしれないですけど、
原さんは、ああいう呼び名があったほうが
よかったのかもしれないですね。
原監督
イトイ 決勝戦の翌日の原稿にも書いたけど、
今回の日本チームって
とってもよくまとまってたんだけど、
軍隊っぽさとか、兵隊っぽさがなくて
とってもよかったと思うんですよ。
永田 うん、うん、そうですね。
イトイ 駒とか、消耗品として
選手を動かしてないというか。
それは、やっぱり、原さんの存在感というか、
「いかた」が影響として大きいんだろうなあと。
永田 わかります。なんていうか、選手が、
「従ってる」というより、
「納得していっしょにやってる」という。
イトイ たぶん、明確なんだろうね。
言ってることとやってることが。
永田 そういう感じがしました。
選手の選抜も、起用も、
「コンディションで選ぶ」って明言してましたし。
イトイ たぶんね、その日その日の調子っていうのは、
現役で野球している人だったら、
現場で感じ取れるんだと思うんです。
だから、こいつが調子いいに
決まってるじゃないですか、
っていう選手を使ってる。
永田 うん。
イトイ だから、意外なオーダーも、
自信たっぷりに思えるんですよね。
いちばん最初の強化試合かなんかで、
四番が稲葉選手だったとき、
びっくりしなかった?
永田 意外でしたね(笑)。
もちろん、実績も実力もあるんですけど、
誰もが認める全日本の四番、
というイメージはなかったので。
イトイ ところが、それがちゃんとハマる。
永田 そう!
イトイ 説得力、あるよねぇ。
だって、たしか最年長だよ、稲葉選手は。
それを、精神的支柱みたいな役どころじゃなく、
「つなぐ四番」として機能させるんだから。
永田 その一方で、国際経験豊かな選手、
実績あるベテラン選手が代表からはずれたり。
イトイ 要するに、実績やポテンシャルがあっても、
現場で「使い倒せない選手」っていうのは
外さざるを得なかったんだろうね。
永田 そうですね。
で、「使い倒せる選手」って
具体的にどういう選手かというと、
体がよく動いて、複数ポジション守れて、
っていうバランスのいい若手選手になる。
イトイ けっこう、高いんですよね、
要求されてる最初の水準が。
永田 それで思い出したんですけど、
ヤンキースのジーター選手(アメリカ代表)が
試合後におもしろいことを言ってたんですよ。
インタビューで
「日本チームはどこが強かったですか?」
って訊かれて、ちょっと冗談まじりに、
「日本はひどい。みんな足が速いんだ」
って答えてたんです。
イトイ (笑)
永田 そりゃそうなんですよね。
選ばれてる時点で足が速いというか、
ヒットで2塁から帰ってこれないような選手は
最初からはずされてるから。
イトイ 足が遅いのは
キャッチャー陣と村田選手くらいかな。
永田 で、それって、1点を争う短期決戦では
すごく重要じゃないですか。
だって、日本は、勝負所で塁に出たときに
代走を送らずにすむ選手ばかりなんです。
イトイ もともと、日本のチームカラーは
「安定した投手力」で守り勝つっていうもので、
それはチーム結成当時から
原さんが言ってましたからね。
そうなると、1点勝負になるのは必然で、
代走が必要な選手がいたんじゃ困るんだよね。
永田 そうですね。
イトイ ピッチャーも、そうだね。
個人的な印象だけど、どの投手も
「行け」と言われたところで行くというか、
文句を言わない人たちが
そろってたような気がする。
だから、藤川投手にしても、
最後はダルビッシュにゆずる形になったけど、
いろいろアドバイスしてあげてたみたいだし、
ほかにも出番の少なかった選手はいるけど
納得はしてるんじゃないかなぁ。
ぶれないポジティブ
永田 けっきょく、まったく出番のなかった選手は
いないんですよね。
イトイ たしか、そうですね。
内海ー阿部の巨人バッテリーなんかも
韓国との順位決定戦でうまく先発させたりして。
永田 韓国との4戦目ですね。
あの試合は、なんていうか、
うまくしのいだというか、拾ったというか。
イトイ そう、あの試合は難しい。
永田 難しいですよね。
勝っても負けても準決勝だから、
選手を休ませたいところなんだけど、
負けるのはやっぱりチームにとってよくない。
イトイ で、新しいバッテリーで先発させて、
たしかすごく早く内海を引っ込めるんだよね。
永田 そう。3回3分の2くらいで、
登板のなかった小松投手に代えて、
そのあと小刻みにつないでって勝つんです。
イトイ 終わってみれば、見事でしたね。
勝っても負けてもいい試合を
勝っても負けてもいいっていうふうに
簡単に考えるんじゃなくて、
機会を増やしながら、勝ったという。
永田 はい。
イトイ 準決勝を見据えて、
勝ってホームチームのアメリカとやるのと
負けてベネズエラとやるのと
どっちがいいのかっていう話もあるでしょうけど、
「どっちのほうが勝ちやすいかな?」って
考える時点でチームがおかしくなるよね。
永田 そうですね。
そもそも野球って、いや、
どんなスポーツもそうかもしれないですけど、
「勝つんだ」という前提をくつがえしちゃうと
ぜんぶがバラバラになっちゃうと思うんです。
イトイ それはもう、いちばん最初に
取り交わすべきルールだよね。
ぼくは、モノポリーをやってた経験で
知ってるんだけど、
ひとりでも「勝たなくていいや」っていう人が
混ざった瞬間に、
ゲームってグチャグチャになるんです。
永田 あー、場が荒れるんだ。
イトイ そう、そう。だからやっぱり、
準決勝のどっちと当たるのが得か?
って考えるのはよくないなぁと思って。
永田 原さんからも、
そういう発言はまったくなかったですね。
あの、アテネ五輪で
日本が金メダルを逃したときに
「正直に全勝しようと思うから
 決勝に行く前に力尽きたんだ」
っていう批判が一部であったんですが、
東京ラウンドで韓国に負けたとき
「全勝するつもりだったので残念です」って
はっきりコメントしてましたし。
イトイ 原監督っていう人は、
そういうところの野球観が
まったくブレない。
永田 ブレないですねー。
イトイ この大会はこういう性質だから、
こう戦っていくというんじゃなくて。
永田 そう。それこそ、
アマチュア時代からの真剣さで取り組んでいく。
イトイ それこそ、「甲子園」からの精神で。
永田 いや、そうそうそうそう、ほんとに。
それはご自身の東海大相模での経験や、
その監督であるお父さんからの
影響も大きいと思いますけど。
イトイ 思えば、甲子園って、
全勝したチームが優勝なんですね。
永田 そうです。
日本中でただ1チームだけが全勝する。
イトイ そうなんですよね。
いや、それは、なんていうか
痛快だよね。
永田 みんな全勝をめざしてやるんで。
イトイ 「全国でうちの高校だけが全勝する確率は?」
って考えるんじゃなくて、
全勝することがありうるんだから
目指すわけだよね。
それは、なんていうか、原監督のなかに
流れているものなんだろうなぁ。
永田 あの人は、エリートといっていい
野球人生だと思うんですけど、
そのなかで育まれた野球哲学のまま
余計なことを考えずに
まっすぐ野球をし続けてると思うんです。
監督になって以降の高い成績っていうのは
それがチームを率いていくうえで
うまく作用するんじゃないでしょうか。
イトイ あの、冗談みたいなポジティブさと。
永田 そうそう(笑)。
イトイ でも、それは、大事な試合になればなるほど
活きてくる精神ですよ。
あのね、西武が日本シリーズで
勝ち続けてた時代ってあったじゃない?
永田 はい、はい。
イトイ あの時代にね、西武側の人たちが、
「日本シリーズは2戦目が重要なんだ」って
言ってたじゃない?
永田 はい。いまも言われてますよね。
イトイ うん。でもね、あんなのは
なんの根拠もないんだって、
いまごろになって西武の人たちが
認めてたりするんだよ。
つまり、1試合目を負けたりすることもあるんで
そういうふうに言ってたらしいんだ。
ところが、勝ち続けてる西武がいうと
「なるほど、2戦目必勝主義」って思っちゃうわけ。
でも、根拠はなくても、現場では
その気持ちがとっても重要らしいんだ。
永田 なるほど、なるほど。
あの、野球のそういう標語みたいなものって
けっきょく、全部、
「現状をポジティブに言い換えるもの」
ばっかりなんですよね。
イトイ そうだね、そうだね。
永田 「野球はツーアウトから」なんて
「ツーアウトでランナーないけど
 頭を切り換えてがんばろう」だし、
「三振前のバカ当たり」だって、
「すっごいいい当たりのファール打たれたけど、
 きっと三振だよ」ってことだし。
イトイ そういうふうに駆り立てることで
選手がのっていくってことだよね。
原監督が試合前のミーティングで
しゃべるところをドキュメントで観たけど、
「後ろ向きなことは言わない。
 つねに前を向いていく。以上」
みたいなことしか言わないんだよね。
永田 観ました、観ました(笑)。
古くさいっちゃ、古くさいですよね。
イトイ そう。でも、あれしか言ってないけど、
選手がちゃんと信じてる。
永田 そうですね。
イトイ で、そういう人ばっかりを
集めてるとも言えるわけだよ。
永田 ああー、そうか、そうか。
イトイ イチローが、もっとニヒルに
「1勝1敗でOKですから」みたいなことを
言う選手だったら、
あの場にいないと思うんだよね。
そういう意味でいうと、
イチローのあの「悔しがり」な性格と、
原監督のまっすぐさというのは‥‥。
永田 ああ、似てます、似てます。
違うものかもしれないけど、
少なくとも、相性はいいはず。
イトイ 「全勝!」って言えるふたりなんだよね。
ある意味、イチローはクールだけど、
ものすごくポジティブでしょ。
だって、本人、あれだけ不調だったのに
自分を実況したりしながら
打席に入ってるわけだから。
永田 思えば、すごいコンビだったんですね(笑)。
イトイ うん。あとね、原監督を観ていて
「これはオレにはできないな」って
思えた場面が、あってね、
なにかっていうと、
選手が送りバントを失敗したところで
「よし!」って拍手してるんだよ。
永田 観ました、観ました(笑)。
カメラが切り替わると、
もう、監督の頭が切り替わってるんですよね。
イトイ そう。もう、こんなんなって、
激しくパンパン拍手してるんだ。
「ここはなんとか送ってくれ」っていう
重要な場面でバント失敗した直後だよ?
永田 ははははは。
イトイ ポーズとしてあれをやる監督は
いると思うんですよ。
つまり、目が残念がってて、
手だけ「ドンマイ」ってやってるような。
でもね、原さんは違う。
永田 目がポジティブ。
イトイ そうなんだよねー。
いや、オレもね、ある程度やってる自信はあるよ。
たとえばスガノがわかりやすいヘマをして
「どうぞ私を罰してください」みたいに
なにかを報告しに来たときに、
ぜんぜんそれを罰しない、
ってなことをしてる自信はある。
永田 WBCのバント失敗と
焼きが回ったスガノを並べますか。
イトイ でも、あそこまで活き活きと
拍手ができるかっていうと、難しいなぁ。
永田 あの、原さんのブログを読んでると、
「選手がバントを失敗した場合は、
 バントをさせたオレが悪い」
っていう考え方なんですよね、あの人。
イトイ ああ、そうですね。
永田 だから、それがちっともきれいごとじゃなくて、
そのまんまなんですね。
きれいごとがブレないというか。
イトイ そのブレなさは、岩田さん
(任天堂社長、岩田聡さん)に
通ずるものがあるね。
永田 ああー、そうですね。
イトイ つまり、選手と同じ当事者として
ふつうに試合に臨んでるんだよ。
永田 あの、ぼくは、個人的な野球の見方として、
「打てなかった」「抑えられなかった」
ということは批判の対象にしないんですね。
というのは、野球って、
田口選手もおっしゃってるように
「三割五分打つ人が一流」っていう
とっても不確定な競技ですから、
そこでの打った打たないには、
激しく一喜一憂はしますけど、
その選手が悪いとかは思わないんです。
イトイ なるほど。
永田 というときに、重要に感じるのは、
「勝つために手を抜かなかった」とか
「勝つ方法をしつこく突き詰めた」ということで
逆に、「勝つことを突き詰め切れてない」
っていうのが、ぼくにとって、
「よくない野球」なんです。
で、今回でWBCで原さんたちがやったのは、
とにかく、しつこく勝つところまでを
きっちり前向きに突き詰めていったということで。
イトイ 原さんがなにかというと口にしてた
「胸と胸をつき合わせて」っていうのも、
そういうふうに
「突き詰めたという自信を持って臨む」
ということなんだろうね。
永田 あーー、そうですね。
イトイ キューバにも、アメリカにも、
「胸と胸をつき合わせて」だったからね。
「がっぷり四つに組んで」とかね。
永田 シーズン中も大事な試合の前には
そういうことをおっしゃいますね。
イトイ ブレないんだよねー。
で、実際に、
胸と胸をつき合わせてたわけだからね。
そのへんは、なんていうか、素敵だったよね。
永田 素敵でしたねー。
そのほか
イトイ なんだか、ずっと原さんの話に。
永田 なっちゃいましたね(笑)。
イトイ ま、個々の選手の話はね、
もう、できるに決まってるんで。
永田 いくらでもできますね。
イトイ 川崎選手の名ゼリフとかね。
永田 「ベンチの中で試合に出てました」ですね。
イトイ いいよねー。
あと、ぼくがひとり、今回の日本チームを
象徴する選手を挙げるとしたら岩隈投手ですね。
あの、しれっと笑っちゃう感じがね、
サムライっぽくなくて、いいなぁと。
永田 ぼくは、誰だろうなぁ。
やっぱり、青木選手かなぁ。
イトイ 青木ね! よかったね!
永田 『筋肉バトル』のころから
応援しててよかったですよ。
イトイ うん。あのショットガンタッチはすごかった。
永田 青木選手は打つほうもすごかったですけど、
何気にライン際の守備とかもすごかったですよ。
「もう、そこにいるんだ!」って感じで
ツーベースをシングルにとどめてた。
イトイ 守備はほんとうによかったですね。
永田 ほれぼれしました。
決勝戦も、内川選手のあのファインプレーとか。
イトイ あれは、もと内野手の動きですよね。
永田 あ! そうか、そうか。そうですね。
イトイ あの突っ込み方とすくい方と踏ん張り方。
永田 ああ、たしかに。
イトイ あと、松坂投手の逆ダマの話って聞いた?
キューバ戦で、キャッチャーが構えると
ベンチから声で指示が出ることを逆に利用して
城島のミットと違うところに
わざと投げてたっていう。
永田 聞きました、聞きました。
たしか、アテネか北京のオリンピックで
そのことに気づいたので
バッテリーで示し合わせて構えたところと
違うコースに投げてたらしいですね。
イトイ まぁ、そんなに何球もないんだろうけど、
そういう、ちょっと漫画っぽい
「作戦」って、わくわくするよねー。
永田 あ、松坂投手で思い出した、
優勝の瞬間、松坂投手が
どこにいたか知ってます?
イトイ ん? どこだっけ。
永田 ブルペンにいるんですよ。
松坂、あの試合は投げられないんですよ?
イトイ へーーー。
じゃあ、なに、盛り上げに?
永田 勇気づけに行ったんですよ、たぶん。
なにかできることがないかっていう
動きだと思うんですよね。
イトイ ブルペンに誰がいたのかな。
永田 いや、延長がどこまで続くかわからないから
それこそ、みんないたと思いますよ。
イトイ ああ、なるほどね。
でも、ブルペンで、
あの緊張感の中で準備してて、
松坂が来てくれたらうれしいよね。
永田 そう思うんですよね。
投げられないんだから、
2点差がついてたら
ベンチから飛び出したいと思うんですけど、
ブルペンにいたっていうのは
なんか、すごいなあと思って。
イトイ いわゆる「投手会」的な動き。
永田 そうそうそう(笑)。
イトイ はぁー、いいチームだね。
永田 いいチームですねー。
イトイ シャンパンファイトのときにもさ、
いろんな人が胴上げされてて
すごくよかったんだよ。
かと思うとマーくんが呼ばれて
胴上げされるのかと思ったら
みんなに踏まれたりしててさ。
「まさお」とか呼ばれてさ。
永田 はははははは。
イトイ で、松坂がマイク向けられて、
「いまのうちにつぶしとかないとね」って。
ああいう仲のよさが。
永田 いいですよねー。
大会後の記者会見でもマーくんが
「つぎの大会では18番を
 つけられるようになりたい」とか言って、
松坂が「まだ譲らないよ」みたいなことを
返したりしてて。
イトイ あれ、ダルビッシュがマーくんに
けしかけたらしいよ。
「言え、言え」って。
永田 いいなー。ドキュメントで、
アメリカチームの選手のビデオを
岩隈がチェックしてるところ、観ました?
イトイ あ、それ観てない。
永田 岩隈が「うわ、こいつヤバイ」とか
言って観てるところに
マーくんがやってきて、
「そいつ、めっちゃヤバイんですわ」
みたいなことを言うんですよ。
もう、そのコントっぽい
先輩後輩な感じがいいなあと思って。
イトイ いいなー、それは。
そういうにおい、ぷんぷんしてますね。
片岡とか、中島の顔とかにも現れてたよね。
永田 野球部っぽいんですよね。
イトイ そうそう。
ああいうマンガがあったらおもしろいね。
永田 このWBCがマンガだったら最高ですよ。
イトイ 最高だよねー。
イチローが2巻分くらいつかって
悩んだりするんだろうね。
「そのころ、一弓(イッキュウ)は‥‥」
みたいな場面があったりさ。
永田 愛犬も出てきますか。
イトイ 「がんばれワン」なんつってさ。
永田 一弓、しゃべるんですか。
イトイ ま、そういうところで、
きりがないから終わりましょうかね。
永田 じゃ、突発的な雑談としてばばっと掲載します。
イトイ どうしてもやりたかったので、すいません。
永田 ゲストもなしに、すいません。
イトイ ああ、でも、すっきりしたわ。
しゃべれて、よかった。
みんなも誰かとしゃべるといいぞ。
永田 どうでもいいことを最後に言っていいですか。
イトイ どうぞ、どうぞ。
永田 野球選手にかぎらないことですが、
アスリートは自分の子どもと
チューをしすぎじゃないですかね?
イトイ 知らん!
(おしまい)
2009-03-27-FRI