顔の文学

  • 時間

    117
  • 音質

    音源は主催者から提供。
    講演冒頭が欠けており、
    客席録音だが比較的クリア。

  • 講演日時:1994年11月24日
    主催:本郷青色申告会
    場所:本郷青色申告会館
    収載書誌:未発表




人間の声というのは、
音で識別する顔の表情だということができます。
本当の顔の表情は目で見て識別するわけですけれど、
人間の声というのもやはりひとつの顔の表情なのです。
その場合の顔というのは比喩ですが、
声というのは音で識別する顔の表情だと
いうこともできるわけです。
顔という言葉をそういう使い方をすると、
もっと極端な使い方ができます。
たとえば「おれの顔を立ててくれ」というでしょう。
文学と関係が深いのは、主として比喩としての顔、
あるいは顔の表情です。
日本の古典文学というのは、
「もののあはれ」を主題にした物語か、
そうでなければ「顔を立てる」物語かの
ふたつに大別することができます。
いかに顔を立てるか、立てないかという問題、
つまり「顔の文学」というものは、
「もののあはれ」の文学と同じように民族の深層、
無意識の奥深くまで届いている問題なのです