芥川龍之介

  • 時間

    163
  • 音質

    「近代文学館・夏の文学教室」
    での講演。
    吉本隆明の参加はこれで5年連続。
    音源は主催者提供で、クリア。
    中盤から録音レベルが若干下がり、
    講演の終盤、テープチェンジのため
    10分ほど欠けている。

  • 講演日:1994年7月28日
    主催:日本近代文学館 後援・読売新聞社
    場所:有楽町・よみうりホール
    収載書誌:コスモの本『愛する作家たち』(1994年)




僕らは若いとき、芥川の死に
いろんな意味をつけたいと思いました。
「自分は近所の駄菓子屋で駄菓子を買って
それを食べながら道で歩くみたいな
下町の下層の中流というようなところで育った。
そして自分は文学的な試みとして、
西欧的なものを取り入れようとしたり、
場所をいろいろ移動してみたりしたけれど、
ついに自伝的に自分の情緒が帰するところは、
本所あたりの駄菓子屋で、駄菓子を買って食べながら
遊んでいた子ども時代、そういう街の雰囲気の懐かしさが
本来的な自分なんだ」
ということを、晩年の自伝のなかではじめて
芥川はいっています。
僕はそれがいちばん好きな感じ方だったので、
芥川はなぜ死んだかという理由づけにしました。
文学的に無理をし過ぎてその無理がたたって、
死ぬ以外になかった、大川端情緒にひたるぐらい
もっと自然になれればよかったのにな、
というのが芥川論を最初に書いたときの
僕の考え方の基底でした。