物語について

  • 時間

    127
  • 音質

    雑誌「試行」が書店リブロで
    取り扱われることになり、
    書店の企画で行われた講演。
    音源は主催者提供。
    テープの反転によって欠けている部分を
    別の音源で補っているため、
    一部音質が変わる個所がある。

  • 講演日時:1994年6月12日
    主催:リブロ 西武池袋本店
    場所:西武百貨店 池袋本店
    収載書誌:未発表




物語とは何かということを考えると、
たとえば『今昔物語』では、いちばんはじめに
「いまは昔」といいます。
そして、終わりに「何々であるとかや」というのが
くっつきます。
これが、文学作品にあらわれた物語の形態認識のひとつで、
いちばん重要なものです。
日本の明治以降の近代小説では、たとえば漱石が、
もっとも遠くまで形態認識を展開させた人です。
そこでは、独立した自我というものの意識があって、
他者と考えられた自分以外のぜんぶのものとの葛藤が
物語になっていきます。
漱石は、「人間の存在感とはかかるものか」という
実存的な領域まで、
とことん形態認識をやったことになります。
僕が欲張りをいえば、現在では、
近代的自我の確立とか、
その高度化は現在では自慢にも課題にもならないけど、
依然としてそれが課題になってしまっていたり、
安堵感になっているというのが、
いまの物語ではないでしょうか。