青春としての漱石
――『坊っちゃん』『虞美人草』『三四郎』

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    179
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    第59回紀伊國屋セミナーとして
    行われた。
    音源は主催者提供。
    この講演を収録した
    『夏目漱石を読む』は
    第二回小林秀雄賞を受賞。

  • 講演日時:1992年10月11日
    主催:紀伊國屋書店 協賛・筑摩書房
    場所:新宿・紀伊國屋ホール
    収載書誌:筑摩書房『夏目漱石を読む』(2002年)




文学は架空のもので、言葉であって、
いくらやってもつくりもので、
実際に恋愛真っ最中の人を
恋愛小説でいくら釣ろうとしてもそれは無理で、
絶対にかなわないのです。
しかし、男女が恋愛の真っ盛りで、
両方とも無我夢中になって、
いま別れても次の瞬間には
もう会いたくてしょうがないぐらいになっている。
そういう心躍りを文字のなかに、
言葉の表現のなかに持っているとしたら、
それは文学の初源性です。
『虞美人草』のある場面が持っているこの感じ、
もとをただせば文学はこういうものだったんだ、
どんなに表現のしかたが発達しても、
もとをただせばこれだったんだということは、
漱石の作品のなかでも『虞美人草』だけが
感じさせるものです。