現代文学のゆくえ

  • 時間

    88
  • 音質

    吉本隆明が選者をつとめた
    「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」
    の記念講演。
    この年受賞作に選んだのは
    三田英彬氏による
    『芸術とは無慚なもの―
    評伝・鶴岡政男』
    で、吉本の講演の後には
    三田氏による講演があった。
    音源は主催者提供。

  • 講演日時:1992年10月5日
    主催:東急文化村/ドゥマゴ文学賞事務局
    場所:渋谷・シアターコクーン
    収載書誌:未発表




現在、高度な先進的社会で流行っている
イメージのつくり方が文学のなかにあります。
「自分の姿が自分で客観的に見えてしまって、
やっている行為自体がぜんぶしらけてしまう」
という描かれ方です。この問題は、引き延ばしてみると
現在の先進的な社会が当面している問題の大きな部分と
共通のところを占めていると思います。
先進的な社会のひとつである日本でアンケートをとると、
89%の人は「自分は中流の生活をしている」という
結果が出てきます。
これはある意味で不気味な数字だし、
たいへんなものだと思います。
世界の先進的な社会で、9割9分の人が
「自分は中流の生活をしている」
という社会がやってくることは、
わりあいに近未来だといったほうがいいような気がします。
それはたいへんな社会です。
どこかでカタストロフィ、破局をつくらないと
文学にはならないでしょう。
「しらけ方」も、破局をもたらすような
描き方を必要とすることになりそうな感じがします。