資質をめぐる漱石
――『こころ』『道草』『明暗』

  • 時間

    180
  • 音質

    「近代文学館・夏の文学教室」
    として行われた講演。
    本来講師の持ち時間は1時間だが、
    1990年以来、
    ひとりで1日分の講演を行う。
    吉本隆明の回は満席。
    音源は主催者提供。ライン録音。
    この講演を収載した書籍
    『夏目漱石を読む』は
    第二回小林秀雄賞を受賞。

  • 講演日時:1991年7月30日
    主催:日本近代文学館 後援・読売新聞社
    場所:有楽町・よみうりホール
    収載書誌:筑摩書房『夏目漱石を読む』(2002年)




『こころ』という作品が、
いまでもたくさん読まれているのは、
先生の遺書のクライマックスで、
ひとりの女性をめぐる親友同士の
ふたりのあいだの葛藤のしかたと結末のつけかたが
たいへんな迫真力を持っている、
その真実らしさに理由があるのじゃないかと思うのです。
これは、作家漱石の資質の悲劇が絡み合った生涯の
いちばん重要なテーマだったといえそうです。
漱石がこのテーマに固執した根本の理由は、
資質としての悲劇にあると思われます。
文学が、この資質の問題に何かいえるとしたら、それは
「生い立ちの物語」として出てきた場合です。
そして、『こころ』の次に書かれた
『道草』という作品で、漱石は
乳幼児体験としての自分の資質形成のあり方というのを、
生涯で初めて詳細にえぐりだしていくのです。