渦巻ける漱石
――『吾輩は猫である』『夢十夜』『それから』

  • 時間

    207
  • 音質

    「近代文学館・夏の文学教室」
    6日間の講座として行われた。
    通常は1日で3人が入れ替わるが
    「この日は吉本さんひとりに任せよう」
    という小田切進理事長の判断で、
    異例の1日ひとりの講演になった。
    音源はライン録音。
    この講演を収載した書籍
    『夏目漱石を読む』は
    第二回小林秀雄賞を受賞。

  • 講演日時:1990年7月31日
    主催:日本近代文学館 後援・読売新聞社
    場所:有楽町・よみうりホール
    収載書誌:筑摩書房『夏目漱石を読む』(2002年)




漱石はどう生きようとしたかということと、
どう生きざるをえなかったかということと、
その両方から「宿命」と「反宿命」が
せめぎ合うわけですが、漱石が選んだのは
「宿命」から逃れ、自然な道筋から遠ざかろうという道を、
どんどんたどっていくことでありました。
これほど典型的に、宿命が自分を吸い寄せていく
力の大きさと強さをとてもよく心得ていて、
なおかつそれに逆らうということが
生きていくことだというところで、
力瘤をたくわえて、力瘤を発揮していってという
かたちをとりながら倒れちゃうというような、
そういう生き方をせざるをえなかったというのも、
たぶんこの宿命の大きさと、
宿命に逆らうことの重要さということを、
作家としてのはじまりの時期にどんどん純化して、
そこの問題をはっきりと打ち出して、
自分の作家としての軌道を定めるということに
なりえたからだ、というふうに思われます。