鷗外と漱石の見た
東京

  • 時間

    52
  • 音質

    東京都文化振興会による雑誌
    「東京人」の創刊を記念した
    イベントでの講演。
    吉本隆明の前に篠山紀信氏、
    小林信彦氏による講演があった。
    音質はあまりよくない。

  • 講演日時:1986年1月31日
    主催:東京都文化振興会
    場所:安田生命ホール
    収載書誌:弓立社『吉本隆明全講演ライブ集 第10巻』(2005年)




鷗外の文学作品における東京への関心は、
「紅灯の巷」的なものへの関心です。
そうした情緒へのエロス的な傾斜と、
軍医総監あるいは衛生学の専門家としての
近代都市東京に対する見識が
総合的に統一されたということは、
鷗外のなかでなかったと思います。
衛生学による都市論と、彼の小説に現れた東京には
一種の空隙があります。
漱石のなかにも、文明苦としての東京というものと、
自然としての東京というものとのあいだに、
やはり空隙があるということができると思います。
漱石がそれを何で埋めたのかはよくわかりません。
たぶんそこの空隙を埋めたいというモチーフを
最後まで持ち続けながら、
しかしそれを埋めることができないで、
『明暗』という作品を書いている途中で
死んだというのが漱石の文学的生涯だと思われます。