漱石のなかの良寛

  • 時間

    115
  • 音質

    原題は「座と文学」。
    音源は主催者から提供。
    クリアに収録されている。

  • 講演日時:1984年9月13日
    主催:本郷青色申告会/本郷青色大学
    場所:本郷青色申告会館
    収載書誌:弓立社『超西欧的まで』(1987年)




明治以降の文学者のなかで、
漱石のように〈坐る〉ということ、〈禅〉ということ、
もっと広くいえば仏教の修練ということに関心を持った
文学者は少ないように思います。
ましてそれを作品に結晶させた文学者は稀で、
漱石はたいへんめずらしい作家といえるでしょう。
漱石は、修善寺で胃病にかかり
吐血して生死の境をさまよって以降、
「則天去私」という境地に入ったとされます。
この境地は、禅宗の坊さんがいう
悟りの境地ではありません。
でも禅家がいう悟りの境地が、
本当の意味があるかどうかは
いろいろ疑問のあるところです。
漱石のように、悟りの境地に関心がありながら
その「門」のなかには入れなかった、
かといってその「門」を立ち去ることもできなかった──
そんな心のあり方が本当の〈悟り〉に
近かったのかもしれないのです。
そこが漱石がたどりついた〈坐〉の境地を
あらわしています。