芥川・堀・立原の話

  • 時間

    120
  • 音質

    京都精華短期大学大教室。
    一般の人にも開放され、
    他大学の学生の参加も多かった。
    音源は主催者提供。
    たいへんクリアに収録されている。

  • 講演日時:1978年10月19日
    主催:京都精華短期大学 学生部
    場所:京都精華短期大学
    収載書誌:中公文庫『語りの海3 新版・言葉という思想』(1995年)




芥川龍之介、堀辰雄、立原道造は、いずれも
大正から昭和にかけての東京の下町出身の文学者、
詩人です。そして、彼らはいずれも貧困な人たちです。
芥川の父親はミドルクラスの下の出身ですし、
堀辰雄の父親は彫金の職人です。
立原道造は立川屋という商家の出身です。
彼らの文学を、仮に〈弱さ〉ということで
括ってみたいと思います。
〈弱さ〉ということは
身体的な〈弱さ〉と精神的な〈弱さ〉の両方があります。
ふつうの意味の〈弱さ〉とニュアンスが違って、
〈弱さ〉の逆に強さみたいなもの、
しなやかさのようなものも考えられる
〈弱さ〉だと思います。
彼らには、ひとつ共通な〈弱さ〉の美の象徴があります。
それは〈匂い〉ということです。
〈匂い〉の感性が過敏で特異だというのが、
芥川龍之介、堀辰雄、それから立原道造の
作品に共通した要素です。
彼らが本質的に執着している〈匂い〉に対する敏感さに、
それぞれの感性の資質があります。