枕詞の空間

  • 時間

    114
  • 音質

    詩誌「無限」を発行していた
    株式会社無限主催
    「無限アカデミー・現代詩講座」
    での講演。
    ライン録音されたものではないが
    クリアに収録されている。

  • 講演日時:1977年7月6日
    主催:詩誌「無限」事業部
    場所:明治神宮外苑絵画館文化教室
    収載書誌:中公文庫『語りの海3 新版・言葉という思想』(1995年)




宮沢賢治に「林と思想」という詩があります。
この詩の根源的情緒は、昔の人のいい方でいえば、
霧をいう場合に「ほのゆける霧」、あるいは
「いさらなみ霧」と表現されたものだと思います。
大昔においては、現在では意味がつかめない言葉を、
枕詞として上につける習慣が詩に限ってあったのです。
この「いさらなみ霧」の情緒と、
宮沢賢治の詩の情緒というのはまったく同じです。
ただ古代人たちが自明の理として考えた
眼に見えないポエジーの空間──ふたつの言葉を
並べることによってそのあいだに
想定したポエジーの空間──だけを再現し、
再現の結果としての「ほのゆける霧」あるいは
「いさらなみ霧」という表現を拒否しているのが
現代の詩だとみなしますと、
現代詩に対するひとつの一貫した考えに
なるのではないかと思います。