文学における初期・
夢・記憶・資質

  • 時間

    90
  • 音質

    東京女子大学短期大学部の
    学園祭での講演。
    周辺のノイズや残響音が入るが
    比較的クリアに収録されている。

  • 講演日時:1970年11月2日
    主催:東京女子大学短期大学部
    場所:東京女子大学短期大学部
    収載書誌:弓立社『敗北の構造』(1972年)




僕は、12、3歳の頃でしょうか、当時の市電に乗って、
切符を買おうと慣れないために緊張してお金を出すと、
車掌が素知らぬ顔で自分の前を
さっさと通り過ぎて行ってしまうということがありました。
「どうしておれの前だけ止まってくれないのだろう」
という行き違いのようなことが
とても引っかかった時期があります。
そのことから導いたのは、
「タイミングがあわない」ということは
自分の資質ではないかということでした。
この社会にいながら、成長し、そして
老いていく過程のなかで、
なぜ自分のところにだけ
こんなことが降りかかるのだろうとか、
なぜ自分のときだけ行き違いが起こるんだろうか
という体験は、みなさんも記憶の片隅や気持ちのどこかに
とどめていることがあると思います。
そういうことは、掘り下げるに値する
問題ではないでしょうか。