現代とマルクス

  • 時間

    137
  • 音質

    中央大学の学生会館による
    自主講座として開かれた講演。
    原題は「現代とマルクス主義」。
    ところどころにノイズが入り、
    聞き取りづらい個所がある。
    途中で音声が遠くなる部分は
    吉本隆明が黒板を使用している。

  • 講演日時:1967年10月12日
    主催:中央大学 学生会館
    場所:中央大学 学生会館 602号室
    収載書誌:徳間書店『情況への発言』(1968年)




私がマルクスにおいてもっとも衝撃を受けたのは、
国家哲学なんです。われわれは戦争体験から、
市民社会における個人や家族よりも、
国家に重点がかけられるべきだという出発点を
持っていたわけです。しかしその国家が本当は
共同性を装った幻想に過ぎないというマルクスの考えに
衝撃を受けたんです。
マルクスの〈疎外論〉は、
幻想性の問題──国家、法律、宗教、それから芸術という
問題を考察する根底になるとても重要な概念です。
人間というものは、他の人間、あるいは自然に対する、
対象的な行為なしには存在しえません。
ところで人間が生存、存在の必須条件である
対象的な行為をしますと、自己自身がそれにつれて
本来的な自己から疎外される、
つまり自分自身も影響を受けます。
あるいは影響を受けることなしには
対象的な行為というのはなしえないというのが、
マルクスの考えている〈疎外論〉の
根底にある自然哲学です。