2008年に行った、大きな会場では最後となる講演
「芸術言語論──沈黙から芸術まで──」で、
2000人の、かたずをのむ観客を前に
吉本隆明さんが発した
講演の第一声は、この言葉でした。

「えーと‥‥、
 1945年8月15日
 っていうのは」

吉本さんはこれを
自身の集大成として発表する講演の
最初の発言にしようと
決めていたのだと思います。

自分の誕生日でも、
死ぬ日でもない。
吉本さんにとっては「8月15日」が
もっとも大きな意味を持つ日だったに
ちがいありません。

この「吉本隆明の183講演」は
昨年の11月25日、吉本隆明さんの誕生日から
予告を開始し、
「特集」というかたちで講演を少しずつ束ね、
公開してきました。

全公開をいつにするかというと、
やはり8月15日の本日をおいてほかになく、
その日を目標に、我々は作業を進めました。

70年前の今日から
「世界を知るためにはどうしたらいいか」を
考えはじめた吉本隆明さんは、
200近くの講演と、多くの著書と、
対談と、談話と‥‥
たくさんのものを遺しました。

本日全公開した21,746分間の講演は、
わたしたちの技術が続くかぎり、
フリーアーカイブとして
インターネットの中に置かせていただきます。
吉本さんの生前のご意向どおり、
どんな人が、
どんなふうに聞いても、使ってもいいように、
無料無期限で公開します。

テープの文字おこしも、有志のみなさまによって
どんどん進んでいます。

吉本隆明さんのご遺族から
「テキストの転載・内容の引用については
 自由ということにしてください」
という申し出があったため、
実質的に著作権はフリーです。
講演音声を使った作品制作や
イベントを行うことも可能です。

メンテナンスやデータ保管サーバの費用は
みなさまの「投げ銭」によって支えられます。
著作権料も「投げ銭」から支払われます。

吉本隆明さんが、8月15日から
たったひとりで歩いた思想の道のりを思うと
すごいな、と感嘆してしまうのですが、
生前の吉本さんは誰が相手であれ
手をゆるめることはありませんでした。
「で、おまえはどうするのか?」
ということを、いつも、誰に対しても
つきつけておられたような思いがします。

迷ったときに、弱ったときに、
いい気になって調子に乗ったときに、
いつでも吉本さんの声を
聞きにくることができる。
そして、つかんだヒントを手がかりに
自分の立場で、自覚的に考えを構築していく。
ここがそんな場所で
ありつづけられればうれしいです。

このページ制作について
ご協力くださいましたみなさま、
ありがとうございました。
2007年から音声データ化を開始し
この日を迎えられましたこと、とてもうれしいです。
公開を楽しみに待っていてくださったみなさま、
作業ペースがゆるやかだったのですが、
ゆっくり見守ってくださり、
ほんとうにありがとうございました。
どうぞ「全リスト」のページから
好きな講演を選んで、吉本隆明さんの声と考えを
お聞きください。

ほぼ日刊イトイ新聞
「吉本隆明の183講演」スタッフ一同