矢沢 でね、さっきの糸井の質問だけど。
永ちゃん、ここはまずったな、
ここはダメだったっていうところが
あるかって言ったら、そりゃあるよ。
いっぱいあるさ、人だからさ。
糸井 うん。言えば、ある。
矢沢 穴があったら入りたい、
俺ってもう最低だよ、
っていうのが、いっぱいあります、が。
でもね、俺‥‥
真面目か、不真面目かっていったら、
どうかわからないけど、
上に行きたい、上に行きたい、
ってことに対しては、どこも手を緩めずにきた
っていうことは言えるよね。
糸井 そうだね。
短い場面場面では、
ダメだったこともあったのかもしれない。
けど、長い波長で考えたら、ないね。
矢沢 ないと思う。
糸井 あー、そうなんだね。
矢沢 そらね、人だから、もう、
バカやっちゃって、みたいなことあるよ。
あるけどね、上に行きたい、
っていうことに対しての
行動はどうだったっていったら、
はっきりいってサボってる暇はなかったよね、
だから、働き者か、働き者じゃないか
っていったら、働き者だよ。
糸井 働き者だよ。それはもうはっきりしてる。
矢沢 働き者。時間も惜しまないで働く。
それで、目的達成するために必死で努力する。
そういった意味じゃ、がんばった人。
糸井 うん。
矢沢 だけど、悪ぃところって言ったら、
悪ぃところは数えられないくらいあるんだけど、
どこだろう、俺、わかんない。
いっぱいありすぎて‥‥っていう感じかな。
糸井 あの、このあいだね、いろんなクリエーターを
取材してきた人に聞いた話なんだけど、
歳をとってもずっと一線でやってきた人には
共通して言えることがあって、それは、
激しいまでの自己肯定感があるって言うんですよ。
矢沢 ほうー。
糸井 つまり、一般の人のは、
簡単に自分を否定しちゃう。
でも、ずっと一線でやってる人は、
自分っていうのは、大事にするべきものだ
っていうのを、ものすごく言ってる。
矢沢 なるほどねー。
糸井 それは、それこそ、
根無し草のような人であろうが、
一見、無頼に見えてるような人でも、
自己肯定感っていうのをかならず持ってると。
それがナルシシズムなのか、
自己陶酔なのか、わかりませんよ。
だけど、俺を大事にしようっていうのは、
けっこう重要なことなんだなって思った。
矢沢 あ、ナルシシズムは必要だよね。
糸井 それは俺、永ちゃん見てるとやっぱり
ああ、あれがパワーだな、って思うときあるよ。
矢沢 ああ、そう。
糸井 歌っててもさ、
「矢沢の歌、最高だね」
って思いながら歌ってる、
みたいなところあるじゃない。
矢沢 へっへっへ、
まぁでも、ある程度、それは必要かも。
糸井 まったくなかったら、ねぇ。
矢沢 やっぱりねぇ、俺サイコーに歌えてるよ、
ってぐらいの気持ちで、はじめて伝わる。
糸井 そうだね。
矢沢 ね。それをさ、
「ちょっとすいません、
 すいませーん、ごめんねー」
って歌ったら、ふざけんなよってなるし。
糸井 そうだよね。
だから永ちゃんは、それをみんなが
させてくれるっていう場をつくったよね。
矢沢 うーん、なるほどね。
糸井 だから、スタジオで録音するより
やっぱりライブのほうが
根本的には、永ちゃんには向いてると思うし。
矢沢 あ、そうかもしんないね。
糸井 うん。
スタジオで曲つくるのって
やっぱり自己問答になっちゃうとこがあるから。
矢沢 そういう意味じゃ、この『Last Song』は、
だてに40年やってきてないなっていう、
キャリアが入ってるね。
糸井 ああ、そう。
矢沢 あのね、スタジオでの録音って、
本来だったら、いま、糸井が言ったとおりですよ。
で、ぼくの本領みたいなものも
ライブにさんざん発揮してきたけど、
録音ではどうだったのか、
っていうところもあったかもしれない。
糸井 なるほど。
矢沢 でも、いまは、スタジオでのつくり方、
どうやったら自分のよさがうまく発揮できるか
っていうようなことも
最初からわかったうえでつくってるからね。
どういうことかって言ったら、
カッチリ、キッチリ、きれいにつくらない。
逆にちょっとガサガサ感、ゆれ感、みたいなものを
入れたほうがセクシーでカッコいいんだよな
ってことを、確信してつくってるからね。
糸井 そういうつくり方も、伝え方も、
もうわかったうえで。
矢沢 わかってる。
昔は気づいてただけだったことが、
いまはもう、どうやればいいかってことまで
きっちりわかるようになったから。
だから、いまはもう、わかってつくってる。
だんだんライブと同じって言っても過言じゃないぐらい、
この『Last Song』は、
ちゃんと計算してつくれてますよね。
だから、ステージと同じように、酔えてます。
糸井 うーん、年の功だね(笑)。
矢沢 年の功だね(笑)。
やっぱり、40年だてにやってない、っていうことですよ。
だから、もしこれで、このアルバムを聴いて、
矢沢永吉って、名前は知ってたけど、
曲はあんまり聴いたことないぐらいの世代の連中たちも
カッコいいーと言ってくれたら。
そりゃもう、ほんとに年の功だね。
糸井 馴染みの寿司屋さんがいてね、
むかし自分が寿司を握ってることを
取り上げてくれた本があって、
その本の中に、当時やってた仕事が
全部、写真とかで記録に残ってるんだって。
それは、いまやってることと
あんまり変わらないらしいんです。
でも、いまそれを見ると、
「真っ赤になるぐらい恥ずかしい」んだって。
要するに、同じことやってるんですけど、
「まったくわかってなかったんです」って。
矢沢 ああー、なるほどね。
糸井 ほかの人が、仕事として見たら、
同じに見えるかもしれないけど、
ほんとに恥ずかしいです、って言ってた。
矢沢 それがキャリアですよ。
糸井 そういうことだよね。



(つづきます)





2012-08-16-THU

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