ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第3回 リスナーってどのへんで聴いてんだ?

矢沢 最近、よく思うのはね、
音楽のつくり手と聴き手のあいだに
決定的な違いが
できてるんじゃないかってことでね。
糸井 うん。
矢沢 わかりやすくいうと、アレンジね。
音楽をずっとやってるとね、やっぱり、
アレンジってすごいなと思うわけ。
おなじメロディーなのに、アレンジひとつで、
イメージが大きく違う。形がガラッと変わる。
「アレンジって、すげーな」ってね、
当然、ぼくも魅了されましたよ。
糸井 うん。
矢沢 それを突き詰めていくとね、
オレたち、バンドやってる人間は
やっぱり海の向こうに目がいくわけ。
で、海外で録音したり、アレンジを極めたり。
もう、すごいミュージシャンを集めたり、
演奏のテクニックを追求したりね。
でもね、それってぜんぶ、つくる側の話でね。
聴いてる人たちがどういう感覚で
聴いてるかつったら、そんな、
どんだけ複雑なアレンジなのかとか、
どんだけすごい演奏なのかとか、
そんなのぜんぜん関係なかったりするもんね。
糸井 ああ、うん。
矢沢 つくる側からすると、追求すればするほど、
もっと奥があるんじゃないかと思うんだよ。
だから、スネアの鳴りがどうしたとか、
もっとギターのリバーブをとか、
もう、どんどん突き詰めちゃうんだよね。
それで、いちばん肝心要の、
リスナーがどういうポイントで聴いてるのか、
っていうことが、考えられなくなってる。
糸井 自分がリスナーじゃなくなるんだろうね。
矢沢 そう。つくってるうちに。
自分も、もともとリスナーだったのに。
もう、ビートルズ聴いて、
「♪Can't Buy Me Love?」ってきたとき、
「かっちょいい!」って泣いてたくせによ。
糸井 いいねぇ(笑)。
矢沢 それが、自分で、つくりはじめたら、
「あのさ、スネアの革がね‥‥」
一同 (笑)
矢沢 スネアの革が張っただ、張らねえだ、
だから、どうしたんだよ、みたいな。
糸井 ああー。
矢沢 いまは、そこじゃないってことが、わかるね。
糸井 もちろん、
「スネアの革が」って言ってるときには、
すごく真剣にやってるんだよね。
矢沢 真剣。真剣すぎるくらい真剣。
でも、やってることが、
ぐるっと一周まわったときに、
「あれ?」って気づくんだ。
糸井 それって、だいたいいつごろの話?
矢沢 まぁ、うすうすはわかってたけど、
ものすごくはっきりとわかったのは、
この4年、5年ぐらいね。
糸井 最近だ。時間かかったねぇ(笑)。
矢沢 かかったねぇ(笑)。
だってぼく、デビューして、
もう36年とか37年でしょ。
キャロルでデビューして、2年半やって、
ガンガンガンガン、ガンガンガンガン、
ってもう、ロックンロール。
それから、「♪アイ・ラヴ・ユー、OK?」って、
「オレのメロディー、コード進行、すげぇだろ?」
ってところをとことんいって、
それで、今回の『ROCK'N'ROLL』ですよ。
糸井 つまり、途中でやめてたら、
ここには戻ってこなかったってことだね。
矢沢 そう。途中でやめてたらね。
途中で引退かなんかしてたら‥‥。
糸井 「スネアの張りが」って言ったまま。
矢沢 そう、そう。
「音楽は奥深いんだよ」で終わってたわけよ。
ところがやめずにずっとつづけてきたもんだから、
「ちょっと待てよ?」と。
ひと回りして、
「リスナーってどのへんで聴いてんだ?」
ってなったんだよね。
それはやっぱり技術や理屈じゃないんだよ。
理屈抜きに、歌や音楽がストーンと入ってきて、
メロディーと詞の内容が
スコーンと入ってくる歌いかたがあって、
それで、ゾクッとくるわけですよ。
いちばん大事なのは、そこなんだよね。
糸井 うん、うん。
矢沢 そういうアルバムを
もう一回ちゃんとつくろうと思ったのが、
今回のアルバムですよ。

糸井 やっぱり、去年、いったん動きをとめたのが
その発見につながったのかな。

矢沢 それもあると思う。
けど、もう4年ぐらい前から、わかってた。
だから、『YOUR SONGS』っていう、
自分の曲をミックスダウンしなおしたアルバムを
出したんだけど、それもある種の実験だったから。
糸井 ああ、なるほど。
矢沢 その実験のあと、結果的に3年間、
アルバムを出さなかった。
糸井 矢沢を見てた時期があったっていうことだね。
自分が自分をね。
矢沢 かもしれないですね。
それで、よし、もういいだろうと。
つかんだこと、気づいたことを
最初からコンセプトの中にがっつり入れて、
4年ぶりにつくったニューアルバムが
この『ROCK'N'ROLL』ですよね。
だから、よく言われるんだけど、
理屈抜きで入りやすいと思う。バーンと。
糸井 うん。だから、それがさっきぼくが言った
「若くなった」ってことでね。
昔から、こういうことしてたよな、
っていう気がしたんだよ。
矢沢 ああ、はいはいはい。わかる。
糸井 理屈抜きのところへ、ぐるっと戻ってね、
でも、歌の迫力とかは昔よりぜんぜんあるから、
どういったらいいんだろうな、
昔の永ちゃんに、いまの永ちゃんが
聴かせてるみたいな感じがするんだよ。
ちょっと、親子みたいな関係でさ。
矢沢 ああー。
糸井 だから、親のロックンロール(笑)。
矢沢 親のロックンロール(笑)。
前は子のロックンロール。
糸井 うん。
矢沢 それいいねぇ(笑)。
糸井 きっと、キャロルのころの永ちゃんを見て、
「ヘタじゃん」って言ってた娘さんも
これはすごいって言ってるくれると思うよ。
矢沢 (笑)。
(つづきます)




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2009-08-07-FRI

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN