ヤオモテ、OK  矢沢永吉の新しい『ROCK'N'ROLL』

第2回 自分が飽きないものがOK。

糸井 今回のアルバムって、
なににいちばん時間かけた?
矢沢 うーん‥‥どうだろうな。
これまでと違うところにかけた時間でいうと、
ある程度つくったあとにね、
一回、距離を置いたの。
いわゆるミックスダウンまでのあいだに、
ちょっと放り出した時期があって。
それには時間をかけたね。
糸井 熟成させたみたいなことかな。
矢沢 そういうこと。
だから、最後までダーッとつくらなかった。
糸井 昔はそんなことできないよね?
矢沢 できない。待ってらんない。
だからわざとね、長いスパンを想定して、
早くからスタートしてた。
だらだら、だらだら、
ちんたら、ちんたら、つくってた。
糸井 ふーん。
矢沢 オケつくるときは一気にガーンとつくるけど、
歌入れしたあとに眺める時間を長くしたね。
そうすることによって、発見も多いわけよ。
OK、ここちょっと、こういうふうに、
ここ、もうちょっとこういうふうに、
リバーブ、もうちょっとこういうふうに
してみようとかね。
色づけをどういうふうにしようかって
客観的に見て、考えるところに時間をかけたね。
糸井 ぼくもちょっと似たところがあってね。
よく、「コピーをどうやってつくるんですか」って
訊かれたときに答えることなんだけど、
「つくるのは、すぐなんです」と。
矢沢 うん。
糸井 つくるのはすぐなんだけど、
できたそれをすぐに終わりにしないで、
「頭の中の掲示板に、
 はり紙みたいにして、はっておくんです」
っていう言い方をよくするの。
そうやって、頭の中にはっておくとさ、
そこに人だかりができるんだよ。
矢沢

いいこと言うねぇ。

糸井 で、「いいね」とか、「悪いね」とか、
「いいと思ったけどわかりづらいね」とか、
「時間が経ったほうがいいね」とか
言うんだよ、頭の中の人々が。
矢沢 はいはい、はいはい。
人々がね。ふふふふふふ。
糸井 架空のオレだったり、
架空のお客さんだったりする人々がね。
で、なんやかんや言われたやつを、
「そうだろうなぁ」って感じながら、
「じゃあ、いいんじゃない」って思えたら
それが完成なんだよ。
つまり、頭の中にはりだして、眺めて、
自分が飽きないようなものはOKなのよ。
矢沢 そうなのよ!
自分が飽きないものがOKなわけよ。
糸井 そうなんだよね。
矢沢 そうなの。ダーッとつくったものは、
飽きるのが速いのか、遅いのか、
そのへんがよくわからなくなるんだよ。
糸井 ほんとうは、つくったほうとしては、
できあがったらそれで終わりにしたいんだよね。
「オレは、もうつぎ行くから」
って言いたいんだよ。
矢沢 そう、そう。
ああ、だから、糸井もコピーライターとして、
ものすごいものをいっぱい
いままで生み出してきたわけだけど、
まさにそういうことなんだね。
よくわかるよ。
糸井 いやいやいや(笑)。
矢沢 まさにそこなんですよ。
つくったあとで、見て、考える時間ね。
ミックスの手前で、一回放り出して、
ぼけーっと眺める時間っていうのが、
大事なんだよね。
糸井 「つくる」の中に
「育てる」っていうのも入ってるんだよね。
矢沢 そうなの。
糸井 生みっぱなしで、さよならじゃなくて、
生んだあともしばらくその背中を見ててね、
あ、もう歩いていけるなって思えたときに
ようやく手がはなれるみたいなね。
矢沢 人と似てるねぇ。
糸井 おんなじだね、うん。
あ、永ちゃんもそうなんだ。
矢沢 そうだね。今回は、とくに。
糸井 ということはあれだね。
これからステージで演奏をこなしていくと、
まだ育つね。
矢沢 かもしんない。
(つづきます)




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2009-08-06-THU

HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN