ほぼ日刊イトイ新聞

この旅も、ことしで4年目。
「ほぼ日」と伊勢丹のみなさん、
シャツメーカーのHITOYOSHIのみなさん、
そして、白いシャツをつくっている
いろいろなブランドのかたがたといっしょに、
「いま、着たいシャツ」を探します。
ことしの取材を通して、
「いいシャツを買うってどういうことだろう」
「ながく着るってどんな意味があるんだろう」
そんなテーマにも、
すこしだけ触れられたような気がします。
また「なんとなく似合わないな」を解決する、
いいヒントも教わってきましたよ。
10回の連載、たっぷりおたのしみください!

その7
「定番」をつくる仕事。
STAMP AND DIARY。

「白いシャツをめぐる旅。」には
第1回から参加していただいている、
レディスブランドのSTAMP AND DIARY
(スタンプアンドダイアリー)。
代表の吉川修一さんは、服のプロデュースのほか、
最近は家具や、香りなどの生活雑貨も扱い、
「くらし」のいろいろなシーンをいろどる仕事をしています。

STAMP AND DIARYのアトリエは、
都内の高台にたつヴィンテージマンションの一室。
そういえば吉川さんは、これまでも自身の事務所を、
こういった古い建物のなかに構えてきました。
置かれている家具や調度品も、
フランスやフィンランドなど、
出張のあいまにヨーロッパの各地で買ってきた、古いもの。
ジャン・プルーヴェやアルヴァ・アアルト、
カイ・フランクなど、
建築やデザインの巨匠たちの作品がいっぱい並んでいます。

そんななかで仕事をしている吉川さん、
ふと、こんなことを考えたそうです。

「家具やインテリアは、こんなふうに、
何十年も、ものによっては100年を越えて、
いまもなお暮らしのなかでイキイキと活躍している
すばらしいデザインがありますよね。
デザイン系の博物館にはそういう家具が
パーマネントコレクションされていますし、
同時に、同じ町の古道具屋にも並んでいて、
みんなが買えて、いまも使える。
なのになぜ、洋服だけが、
シーズンごとにデザインを変えていくんだろう?」

たしかにそうですね。
ファッションの世界は流行があって、
すこし前のものは時代遅れになっていきました。
でも、このごろ思うのですが、
いまは「みんながみんなその格好をする」みたいな
ものすごい流行って、あんまりないような気がします。
ひととおりの「解釈」が出そろって、
あとはそれぞれの好きにすればいい、
というような印象も出てきました。
もちろん、モードやハイファッションの世界には、
先端を走り続けることに意味があると考える
すばらしいデザイナーもいるわけですし、
そうではない、大きなうねりみたいな流行、
たとえば今の「ビッグシルエット」みたいな、
ゆったり・たっぷりしたものがいいよね、
みたいな時代の気分は、あるんだと思いますけれど、
いっぽうで、すぐに消費される
ファストファッションもまた、
主流のひとつになっています。

「そういうなかで、服のデザインも
長いスパンで消費されていくほうが
健康じゃないかなって思うようになったんです。
STAMP AND DIARYのお客さまは、
いちど気に入られた服のかたちがあると、
翌年も、その翌年も、同じかたちを希望なさるんですね。
最初は『あれ? ことしのデザインはダメなのかな?』
なんて思ったこともあるんですが、そうじゃないんです。
それはぼくらにとってとてもうれしいことなんだと
思えるようになりました」

とはいっても、まったく同じものを
何年もつくりつづけていくのではありません。
そのときに出会った素材やあたらしい技術がありますし、
そういうものは取り入れたい。
また「昨年の素材はもう手に入らなくなった」
というように、
変化を余儀なくされることだってあります。
そういうことをへっちゃらで取り入れる柔軟な姿勢を
持ちながら、吉川さんは服づくりをつづけています。

そこでことしのSTAMP AND DIARYです。
かたちは「おなじみ」と言ってもいい、
体型を気にせずに着られ、
正面からだけでなく、
歩くときの後ろ姿や、横から見たシルエットが
きちんとうつくしいシャツが4型。
そしてそれに合わせたい
ワイドパンツを1型、えらびました。

コットンに刺繍を。

「かわいい生地を見つけましたよ! と、
企画担当のものが見せてくれたのが、
刺繍の生地でした。
それを見た瞬間に、
インスピレーションが湧き出して‥‥。
なぜかっていうと、
『白の生地に白の刺繍』
というのがよかったんです。
まるで影絵のような、木漏れ日のような
やわらかな陰影があって、
きっとSTAMP AND DIARYのかたちに
合うにちがいないぞ、って」

けれども刺繍というのは、
全体に使い過ぎると、しつこさがでますし、
価格も高いものになってしまいます。
そこで吉川さんたちは
「前身ごろだけ」という選択をしました。

「ちょうどいい頃合いが、前身ごろだけ、
という使い方でした。
また日常着として着ていただきたいので、
高くなりすぎるのは避けたいことだったんです」

刺繍のシャツには2型があります。
ひとつはフレンチスリーブでキャンディ柄の刺繍、
ひとつはロングスリーブでジグザグ柄の刺繍です。
どちらもバックタックがたっぷり入っていて、
着るととてもうつくしい立体感が出る、
STAMP AND DIARYの定番中の定番デザインです。



▲STAMP AND DIARY
刺繍のバックタックブラウス、フレンチスリーブとロングスリーブ。

フレンチスリーブは前開き、
ロングスリーブは後ろ開き。

「後ろから見ても横から見ても
すごく絵になるデザインになってます。
ぼくたちも、このデザインが好きなので、
何回も何回もつくってきた型なんですよ」

衿はちいさめの丸衿。
大人の女性が大人として、
かわいらしくうつる衿のかたちを目指しました。

フレンチスリーブはいちばん上まで
留めて着るのが基本ですが、
カーディガンとの相性がいいので、
そのときはちょっと開けて着てもいいかも。

首周りは、ゆったりめなサイズ感。
女性の首がきれいに見える大きさです。

刺繍の生地は、石川県でつくられているもの。
もともとのサンプルは麻でしたが、
刺繍の針の入りやすさを考慮して
白度の高いコットンを選んでいます。

リネンシャツも2型。

さらに2型、リネンのシャツも用意しました。
STAMP AND DIARYで使っているオリジナルのリネンは、
琵琶湖周辺の水をつかって
「白さ」を出している素材。
織機にも人がきちんと付いて、
霧吹きをしながら織り進めるのだといいます。
通常の1.5倍の糸を打ちみ、
そのために目が詰まって硬くなるところを、
仕上げの段階で叩いて柔らかくするという
手のこんだつくり。だから最初から、
麻ならではのくったり感とハリ感の
微妙なバランスがあるんです。

▲STAMP AND DIARY リネンのギャザースモッグシャツ。

こちらはロングスリーブの「ギャザースモッグシャツ」。
デザインは、くるみボタンがかわいらしい、
アンティークスタイルです。

「この小さな衿は、フランスの昔のデザインに
よくあったものなんですよ。
それを現代によみがえらせました。
昔だと、さらにギャザーを
うんとたっぷり寄せるんですが、
あえてここはスッキリさせ、
ほんのちょっとだけ、陰影をつくり、
雰囲気を出すためのギャザーにとどめた、
ミニマムなデザインにしています。

▲STAMP AND DIARY リネンのピンタックブラウス。

そして、同じくリネンのピンタックブラウス。
こちらは前身ごろに、
うんとたっぷりのテープ状のタックが入り、
タックを裾まで入れずに途中で留めることで
その下はギャザーのようになる、
かなり凝ったデザイン。
生地をたっぷり使っていますから、
ふわりとひろがる裾がとてもきれいです。
袖は長袖できちんとカフスがつき、
衿はバンドカラーのシャツです。

うんとワイドなチノパン。

今季はパンツも仕入れました。
これも吉川さんが「定番です」という、
生地を変えてなんどもつくってきたワイドパンツです。

▲STAMP AND DIARY ワイドパンツ。

スリータックで、いちばん外側のタックだけが
内側を向いているデザイン。
裾に向かってシュッとしぼむ、風船のようなかたちです。

「塩縮」といい、綿ギャバ素材に
縮絨加工をほどこしている素材は、
表面にこまかなシワが入っているのに、
独特のツヤ感があります。
洗濯表示は手洗いとドライクリーニングになっていますので、
ご家庭で手洗いしていだくこともできますよ。
(脱水にかけるときは、1分弱のうんと甘めか、
絞らない状態で干してください。)

両サイドにポケット、
ヒップにもフラップつきのポケットがついています。

靴は選びません。スニーカーはもちろん、
革のコンフォータブルシューズで
動きやすくしてもいいですし、
きれいめにバレエシューズを履いたり、
あえてヒールを合わせてもいいですよ。

さて次回は、Luxluftというブランドの
チノパンを紹介します。

2018-05-18-FRI