『ぼくは見ておこう』
松原耕二の、
ライフ・ライブラリー。

<ほぼ日読者の皆様へ>
ニューヨークからの手紙

僕はいまニューヨークです。
テロ事件取材で土曜日にこちらに入りました。
現場はすさまじい光景です。
何度も映像で見ているにも関わらず、
実際に自分の目で見てみるとずいぶん違います。
むろん信じられないような惨いテロには違いないのですが、
日本で映像で見ている分には
どこか映画のようにリアリティーが感じられなかったのが、
やはり間近では
埃やにおい、そして救助にあたる人々の息づかいなどが
起きたことの深刻さをより物語っているように思えます。
映像は確かに多くのことを伝えられる。
しかしどこか伝わらないことも多いと改めて実感しました。

肉親が行方不明になっている男の子が
悲しみの中、こう言ったそうです。
「報復とか戦争とか言っているけど、
そんなことより、どうしたらこうしたことがなくなり、
皆が平和にくらせるか考えたほうがいいと思う。
報復しても家族が帰ってくるわけじゃない」
いまだ5000人以上の方が行方不明のままです。


街を歩いて思うのは
こうした出来事があったときの
一般市民のボランティア精神です。
多くの方が自主的に様々な食料を届けたり、
被害者の家族へのケアなど
助け合う姿があちこちで見られます。
それは見事なものです。

ニューヨーク中、アメリカ国旗だらけです。
みな愛国心を隠そうともしません。
日本人からはちょっと想像できないほどです。
救助の人々の車や消防車が走るたび
通行人から一斉に拍手が沸きます。
あちこちで国家を歌う声が聞こえます。
こうした国民の意識が
ブッシュ大統領を迷いもなく報復へ、戦争へと
向かわせるのでしょう。

こちらと日本は時差が反対です。
生中継での放送本番は
こちら時間のあさ4時か5時から。
あさ6時には放送を終え、朝食をとって取材に出掛けます。
日が暮れるまで取材をして
それから夜は日本に、
撮影した映像素材をおくります。
その後、日本と構成の打ち合わせをしたり
原稿のチェックをしているうちに早朝また本番です。
いつ寝ればいいというのか。
東海岸の取材は
日本の夕方ニュースにとっては最もしんどい時間です。
これがおそらく一週間は続きます。
(大丈夫です。こまぎれで寝ていますから)

まとまったものが書けなくてすみません。
あと2,3日でもう少し余裕ができますから
そしたらまたメールでみなさんに手紙を書きますね。

それでは、また。 






『勝者もなく、敗者もなく』
著者:松原耕二
幻冬舎 2000年9月出版
本体価格:1500円


「言い残したことがあるような気がして
 口を開こうとした瞬間、
 エレベーターがゆっくりと閉まった」

「勝ち続けている時は、自分の隣を
 神様が一緒に歩いてくれてる、と感じるんです。
 ・・・たいていそういう頂点で負け始めるんです」


余韻を大切にした、9つの人間ノンフィクションですっ。
(ほぼ日編集部より)

2001-09-18-TUE

TANUKI
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