笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。




鶴瓶 落語で
「厩火事」とか「子別れ」をやってると、
お母さん、奥さんの役が出てくるでしょう?

あそこは、たて弁でずっといかなあかんのです。
長いですけど、気持ちがいいんですよ。

あれもぼくは、文楽師匠のものが好きで、
「お兄さんの前ですけど、
 ほんまに今日という今日はもう、
 ほんっま愛想もクソも尽きましたわ」
っていうあそこが大好きで……。

ぼくは、自分でやるときは、
それをミックスしているんですよ。
糸井 鶴瓶さん、ものすごく謙虚に、
人の叩いた太鼓を持ってきては
組みあわせているんですね。
鶴瓶 それはそうですよ。

あれだけ先人が
すばらしいものを作っているのに、
パクらなダメや思いますよ。

やっぱり、パクるんです。

「鴻池の犬」では、
すごく枝雀師匠のをパクってるんです。
ちょうど枝代子姉さんという、
枝雀師匠の奥さんが
三味線弾いてたんですけど、
ぼくが「鴻池」をやるときに
いてはったから、言うたんです。

「あの、すいません奥さん、
 枝雀師匠のをパクってるんですけど、
 見といてください」

ほんで出てって降りてきたら、
枝代子姉さん
「グーッ」ってやってくれて……
ぼくの落語はまだまだですけど、
「鴻池」は、ちょっとは
商品になるかなという感じですね。
糸井 やっぱり、
客前でやらないと、
商品として鍛えられていかないんですか?
鶴瓶 そんなもん、もう、あたりまえですよ。
100回や200回も練習をやるより、
舞台に1回あがったらわかります。


ただ、まだ、みんな
『六人会』の小朝さんに
「これをやってくれ」
と言われたものをやってるんですけど。
小朝作のバイエルをやってるだけなんです。
だから、ぼくは、自分がこれをやりたい、
というものを、まだやっていないんです。

糸井 観客としては、鶴瓶さんの落語、
これからが、ものすごくたのしみだなぁ。

よく、いろんな仕事の人が
「引退してからこういうことやりたいんだ」
っていう言いかたをするじゃないですか。
でも、ほんとはそれでは遅いんですよね。

鶴瓶さんの場合の落語って、それを
「もう、今だ!」
と思って飛びこんだ感じがしますね。
鶴瓶 まぁ、やるからには、
自分が納得するまでっていうのはある。

1年だけやったら、
できあがるわけでもないですから。
落語のおもしろさって、
死んでからわかるぐらいでしょう?

死んでからも
わかれへんかもわからへんけど。
そんなものが、自分の中に
ひとつできたっていうのは、
これはもう、自分はしあわせですよね。
糸井 「趣味」って、
結局、そういうことなんでしょうね。
鶴瓶 いや、だから
ぼくは趣味がやっとできて、
それが落語なんです。

これ、しあわせですよね。

ふつう、こんなことしまへんで。
「『長屋の傘』のときの枕はこうしよう」
「『粗忽長屋』の時代背景はどうやろう」
ほんとはこんなこと、
したことなかったんですよね。
糸井 勉強の好きじゃなかったタイプの人が、
毎日熱心に……。
鶴瓶 うん。
まったく勉強好きやなかったですもん。
勉強なんてしなかったですよ。
糸井 でも、いまは
勉強を進んでやってるんですね。
鶴瓶 これ、不思議でね。
糸井 ねぇ?
鶴瓶 勉強なんか、
ほんませぇへんかったけどね。
糸井 落語のCD買うとついてくる
スタンプまでためてるもんね(笑)。
鶴瓶 ほんとに勉強しなかったし、
本も読まへんかったし。
しかし、落語のことを調べるうちに、
「髪結い」という職業のルーツがわかったり、
それがなんで水商売以外では
女の人の職業として最適かがわかったり……。
糸井 そんなことを
勉強してる自分が、信じられないよね?
鶴瓶 なんでこんなこと勉強してんねやろ(笑)。
糸井 いや、したいからしてるんでしょうね。
鶴瓶 うん。したいから。

だからね、いかに学生時代、
したいものがなかったかっていう……。
糸井 したいもの見つけるのには
時間かかりますよね。元手もかかる。
鶴瓶 そうでしょう?
糸井さんもそうでしょう?
糸井 うん、まったくそうです。
鶴瓶 今年に入って、
落語はもう50本ぐらいやってるな。
糸井 うわぁ、すごいなぁ……
永ちゃん並みだね。

もちろん、落語っていうのは
「鶴瓶さんだから」っていう
ギャランティーではないですもんね。
鶴瓶 ええ。

大阪の落語会なんかで
「兄さん、これ」
って言うて持ってくるでしょ。
もう、いらんと。

もう、みんなお金ないの、
そんなんわかっとるから
「みんなで食っとけ」言うて。

「いや、とんでもないから、
 もうとにかくこれは、取ってください」

「もう、いらんねん。
 またもらうときもらうわ」いうて……。

ただ、その後に打ちあげに行こういうて、
打ち上げが、どんだけ高いか(笑)。
糸井 (笑)
鶴瓶 打ち上げは
ぼくが持っていくでしょ? 
払おう思ても、それはすごいですよ。

この前の打ち上げなんか
六本木のクラブ行っとんねやから……
若い前座の子らは値段がわかれへんから、
7〜8人ついてくるんです。
「帰り」とは言われへん(笑)。

「まあ、座り……正直、わかるか。
 ここはひとり座ったら5万円や」

座るなとは言うてないけども、
座ることによって、
8人いたら40万かかるんですよ。
もちろんギャラはもろてないです。

まあ、そんなこともわからんから、
若手はたのしいねんけど。
糸井 つまり、それができるだけの仕事は、
よそでしなきゃいけないってことですよね。
鶴瓶 そうね。

  (明日に、つづきます)


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2004-08-03-TUE

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