糸井 あと、雑誌の原稿に書いたのは‥‥そうだ、
知り合いのデザイナーが、
プロレスが大好きだったんです。
当時はあんまり流行ってなかったんですけどね。
徳光 へぇ。
糸井 そいつがプロレスについて
ものすごく熱く語るんですよ。
その「熱さ」が、
ぼくにはとってもおもしろかった。
徳光 うん、うん、それは、糸井さん、
いつでもおもしろいね、「熱さ」はね。
「熱さ」は時代を
問わないですね。
糸井 ああ、問わないですね。
徳光 はい。
糸井 俺がとっくに捨てたはずのものを
大事に持ってる熱い人がいたりすると、
そいつのことは、うらやましいです。
徳光 うん、そうだね。
糸井 「もっと話を聞かせて」という
心理になります。
プロレス好きのそいつだって
誰も話なんか聞いてくれないところで
ずっとプロレスを見てたわけだから、
誰かが聞いてくれることはうれしいんですよ。
徳光 あぁ、そうか、そうか(笑顔)。
糸井 「今度行く?」
なんて誘ってくるわけです。
現場に行くと、
ぼくだっておもしろいと思える。
どう言ったらいいかな、
インテリってものは
プロレスを嫌ってますよね?
徳光 ええ、ずっとそうですね。
糸井 インテリが嫌いなものを、
まるで気にせずに好きである、
その素直さも、うらやましかったんですよ。
徳光 うん。
糸井 会場で、トイレに行くとします。
男子トイレで並んでると、
大工の棟梁みたいなおじさんが、
友達とこういう会話をしているわけです。
「まったく、坂口ってやつはね、
 あれじゃ
 ばれちゃうじゃねぇか」
徳光 ははははははは。
糸井 「本当に演技が下手だ」
一同 (笑)
糸井 客席で、本気になって
「殺せー!」と叫んでる人が、
トイレに行って同僚と
「ばれちゃうじゃねぇか」って。
一同 (笑)
糸井 これはやっぱり、
「並みのインテリは、馬鹿だな」
と思いました。
徳光 おもしろいねぇ(笑)。
糸井 見回してみると「みんなそうだ」
ということがわかったんです。

ちょうどタイガー・ジェット・シンが
出はじめた頃でした。
シンが観客席にサーベル持って走ると、
観客は必死で逃げます。
まずは、子どもが逃げはじめる。
子どもの逃げる音がバーッとすると、
もう、胸騒ぎがします。
徳光 ええ、ええ。
糸井 あれも含めて
プロレスの楽しみだということを、
「プロレスなんてさぁ」
と言ってる人たちは、知らないんですよ。
徳光 そうでしょうね。
糸井 両方知ってる立場になると、
ものすごくうれしくなって。
徳光 わかる、わかる。
糸井 それから、どんどん見に行きました。
そして、後に村松友視さん
知り合うことになります。
徳光 すごいです、村松さんはね(笑顔)。
糸井 「糸井の見方は俺は好きだけど、
 俺はこう思うんだよね」
って、酒飲みながら教えてくれるわけです。
そのころぼくは売れっ子になりかけてて、
プロレスにのめり込んでいることを知った
ある編集者から
「プロレスの話を本に書きませんか?」
という依頼を受けました。
それは別にいいけど、
「俺よりすごい人がいるんだよ、
 実は編集者だけど、まぁふつうの会社員でさ、
 この人に書かせたら、
 俺より100倍おもしろいよ」
一生懸命そう言ったら、信じてもらえました。
徳光 糸井さんが言ったからね、
それは信じますよ。
糸井 そうやって、会社員の編集者が書いた
『私、プロレスの味方です』
という本ができあがりました。
徳光 ああ、そうなんですね。
糸井 あのベストセラーは、
おおもとは、プロレス好きのデザイナーが
熱くぼくに語ってくれたことがはじまりです。
徳光 みごとですね。
糸井 「そういうこと」が
ぼくにはおもしろいわけです。
徳光 うん、うん、わかります。
糸井 まぁ、こういうようなことで、
ぼくは何も
新しいものをさがした覚えはなくて、
いろんなことに出会ったり
見つけたりしてるだけです。
徳光 そうかぁ。へぇ。
いやぁ、でも、ただ、
ひとつの設問に対して
答えが長いですね。
一同 (笑)
徳光 だけど、話はおもしろいねぇ。
糸井 すみません、長くなっちゃって(笑)。
徳光 ぼくはいま、
話をちゃんと聞いておりましたけど、
こんな長い話なのに──まぁ、
ぼくは一応「しゃべるプロ」ですから
わかりますが──、
あの長さの話のなかで、
同じフレーズや同じ言葉を
まったく使わないっていう、
この不可思議さにね‥‥
糸井 ははははははは。
徳光 改めて驚きました。
糸井さんのその才能って
いったいなんなんだ。
一同 (爆笑)
徳光 しかもぜんぶ、
わかりやすい言葉でした。
ちょっとびっくりしてるんですよ。
糸井 まいりました(笑)。
徳光 ふつうですと、途中、
どこかしら知的な言葉が入るわけですよ。
だってみなさん、いまの話の中に
入った横文字は「プロレス」
だけですからね。
一同 (大爆笑)
徳光 すごいなと思います。

(つづきます)

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2010-12-19-SUN