バルミューダのパンが
焼けるまで。
バルミューダ株式会社 寺尾玄 × 糸井重里
第8回 待ち伏せて声かける。
寺尾
扇風機のプロトタイプが完成して、
日本に持ち帰り、
金を貸してくれた社長にも見せました。

「よし、これ持って銀行に行ったらいいだろう」
「よし、寺尾くん、がんばれ!」
「がんばれ!」
背中を押されてその会社を出ていって、
私、銀行には行かずに販路回っちゃったんです。
糸井
お金がないままに、
売り先を見つけはじめたんですね。
寺尾
そうです。
銀行に行っても絶対にまた、決まんないと思ったので。
糸井
いやぁ、正しいと思う。
寺尾
だけど、お店に行って
「これは半年先にできあがる商品なんです、
 買ってください」
と言っても、信憑性がありません。
そこで、カタログ通販さんに伺いました。
企画からカタログ完成まで時間がありますから、
「おもしろいですね」
「3万円の扇風機なんてやったことはないけど、
 おもしろいから掲載しましょう」
と、みなさん言ってくださいました。
糸井
3万円。うん、おもしろい数字ですね。
寺尾
値段が値段ですので、
何台売れるかわかんないけど、って
おっしゃってました。
私はそこで
「嘘でもいいから発注書ください」
「発注書が無理なら、内示書でも」
とお願いしました。
そうして、内示で3000台近くの
注文を集めました。

モーター会社に戻って、社長に言いました。
「社長、すみません。
 やっぱり金は借りられませんでした。
 というか、実は銀行には行ってないんです!」
「何やってたんだ!」
「注文取ってきました。
 この勝負、絶対勝てると思います。
 私も人生かけてます。
 つきましては、6千万円を立て替えてください」
そうお願いしました。
糸井
ううぅ!
寺尾
そしたら、しばらく黙ったあと、
「しょうがねぇな」というお返事をくださいました。
だけど、その方はオーナー社長ではなく雇われ社長で、
じつはそんなことをできる権限はなかったんですよ。
糸井
なるほど、うん、うん。
寺尾
これはあとから聞いた話なんですが、
会社の口座とは別口で
自分で口座を開いて、
そこで6千万円、借りてくれたそうです。
糸井
おお‥‥、なんと。
寺尾
お金ができて、製品は作れるようになりました。
次は、売らなければなりません。

そのとき、バルミューダは
私と社員ひとりとアルバイトひとり、
3人の会社でした。
営業は当然私ひとりです。

モーターメーカーの社長が
まるごと金を出してくれたんだから、
なんとしてでもあと数千台を
ひとりで売り切らなくてはならなくなりました。
量販店をいくらまわっても、そんなの不可能です。
ですから、テレビで有名にするしかないと思いました。

私は、量販店には足を向けず、
芸能プロダクションに直行しました。

ちょうど『アメトーーク』という番組の
「家電芸人」が流行っていました。
家電好きな芸人さんたちが、
おすすめの電化製品について語ってくれます。
私は芸能事務所の前にはりつき、
タレントさんがいらしたら、
箱を持って横を歩き
「いますごい扇風機持ってるんです。
 見たいですか」
と、声をかけました。
糸井
すごいね。
寺尾
タレントさんは「ん?」と立ち止まってくれて、
事務所の部屋に入れてくださいました。
扇風機を組み立てて
「すっごくいい風出るんですけど、
 あびてみたいですか」
と訊いたら、「早く出してよ」って(笑)。
すごく気に入ってくださいました。

番組オンエアの翌日、
名だたる家電量販店各社さんから
一斉に電話かかってきました。
「商談したいんですけど」
「そうですか? じゃ、行きましょう」
糸井
営業が要らなくなりましたね。
それはすごくよかったですね。
寺尾
ひとりじゃできないから思いついたことです。
6000台目標だったところに対して
初年度、1万2000台が売れました。
それまで4500万だった年商が
2億5000万になりました。
次の年は8億5000万。
糸井
扇風機でずっと右肩上がり。
寺尾
次の年は16億円。空気清浄機も出しました。
その次の年、23億円になって、次に、27億円。
そして今年を迎えています。

でも、よく考えれば私たちはそれまで
季節家電を中心に開発していました。
季節家電ってものすごくリスキーなんですよ。
糸井
そういえば、季節家電ばかりですね。
寺尾
われわれの扇風機は
5~7月の3か月で5万台売れます。
でも、気温が1度違うと、
10~20%振れちゃいます。
糸井
でしょうねぇ。
寺尾
5万台のうち20%落ちたら1万台。
それが次にいつ売れるかというと、1年越しです。
しかも、原価が高い商品なんで。
糸井
そうですよねぇ。在庫の価格が高くなっちゃう。
寺尾
倉庫に相当額の在庫がある。
事件ですよ。
キャッシュがまわってない年にかぎって、
なんで倉庫にお金が眠ってるんだ?
糸井
消耗品じゃないから、処分はできない在庫ですもんね。
扇風機発売後に社員数が
50人に増えたとおっしゃっていましたが、
これはもう、積極的に
通年商品を扱わないといけませんね。
寺尾
はい、そのとおりです。
そこで、前から考えていた
「人は体験を買う」ということに
つながっていきます。
糸井
道具は体験を得るためのもの。
そこにリアルに気づいていく‥‥それが
今年なんですね。
寺尾
そうです。
糸井
はぁあ、愉快だぁ。
<つづきます>
2016-01-17
教えて、バルミューダ!
Q.
我が家では母がパンを焼くのですが、
トースターで発酵~焼成までを行っています。
バルミューダトースターでもそれは可能でしょうか?
(あ)


A.
トースターで上手にパンを焼かれるお母さまにも
ぜひお使いいただきたい! と思っています。
BALMUDA The Toasterには
パンの発酵に使う40℃の温度帯を
キープする機能がついていません。
焼成については「生地から焼けた!」と
ご報告をいただくことがありますが、
モードや時間などのHowToを社内で持っておらず、
明確な回答をさしあげられない状況です。
購入したパンを焼くだけでなく、
生地からも焼けたら楽しいですよね。
生地から焼くノウハウも勉強していきたいと思います!
(回答:バルミューダキッチンチーム木下さん)