生活のたのしみ展

三國万里子さんが ロンドンとエジンバラで みつけたもの。 ハリネズミ店長とまりこが紹介します。 presented by 生活のたのしみ展

その
5
フェアアイルのカーディガン

まりこ

そこはロンドンのアンティークモールでした。
お皿やらジュエリーのお店が並ぶビルの一角に、ひっそりと、
そのヴィンテージクローズのお店はありました。

ハリネズミ店長

まりこ、最初から何やら思い入れがたっぷりね。

まりこ

はい。
そのお店は年配の紳士が一人でお店番をしていました。
軽く挨拶をして店内を見始めると、そのお店にあるどれもが、
「何か言うことを持っている」、
そういう顔をしていることに気づきました。
服が、語るべきお話をそれぞれに秘めているというか。
そして、聞く耳を持つ人が現れた時に、
そのお話の一部があらわになる。
大事に作られ、大事に扱われてきたものたちは、
一瞬でそれとわかる何かを発しているものです。

ハリネズミ店長

樟脳(しょうのう)の匂いじゃない?

まりこ

防虫剤の匂いは、いい古着屋の証です。
でもそれはそれとして。

ハリネズミ店長

目がうつろだわよ、まりこ。

まりこ

まだうっとりしてるんです。
あれは、わたしの「夢の店」でした。
古着屋通い歴うん十年、
お気に入りの店は国内外にあまたあれど、
あの店こそはわたしのベスト・オブ・ベストの
ヴィンテージショップでした。

ハリネズミ店長

ふうーん。
そんなお店に出会えてよかったわね。
それも買い付けに行った時に。

まりこ

はい。
でも本音を言うと、自分の買い物をするために、
今すぐロンドン引き返して、あの店にダッシュしたい。
自分の手元に残したいものが、多すぎました。

ハリネズミ店長

それが仕事の厳しさってものね。
しっかり働いて、今度はプライベートで行ってらっしゃい。

まりこ

そうします。
さて、今回ご紹介するのはフェアアイルのカーディガンです。

ハリネズミ店長

わお。きれいねえ、この色遣い。

まりこ

ほんとうに。
光が当たっているように見えたり、
逆に影の部分に見えるように色を使ったり。
とても気を使って、美しく、色の連なりを表現しています。
何色あるかな、と、下から上へ見て行って、
全部で9色まで数えることができました。

まりこ

タグもついていないし、
売るためとして作るには、手がかかりすぎるデザインなので、
多分シェットランド諸島の女性が
実際に着るために作ったのだろうと思います。
あるいは編みもののコンテストに応募するために、とか。

ハリネズミ店長

こういう柄は一般的なの?

まりこ

そうですね。
フェアアイルの柄としては、初期ではなく、
割と後期になってよく使われた模様だと、
向こうのニットの本で読んだことがあります。
サイズは、女性もののMくらいの身幅と着丈ですが、
袖は気持ち長めです。
日本人のわたしが着て、ということですが。

ハリネズミ店長

まりこ、これ、売るのが惜しいんじゃない?

まりこ

そうですねえ‥‥。
ミュージアムピースになってもおかしくないくらい
レベルの高いものだと思いますし、
プライベートで買い物に行っていたら
自分用に買ったと思います。
でも、これの良さをわかってくれる人の元に
行くのが一番だと思います。
じっくりと見つめているうちに、
何かシェットランドのお話をしてくれるかもしれませんよ。

(つづきます)

2017-11-05 SUN