第3回 「数学0点」から大学の先生へ。

──
高校総体の団体戦で負けてしまった経験から
心理学に興味を持たれた。
西條
そうなんです。

そこで、大学では心理学を専攻したいと思い、
早稲田大学人間科学部の
「人間基礎科」(当時)に入学したんです。
──
なるほど。
西條
本当は臨床心理系に強い「人間健康科」に
入りたかったんですが、
間違って、
似たような名前の「人間基礎科」という‥‥。
──
すみません西條さん、「間違って」?
西條
ええ、願書を出すときに間違っちゃって。
──
間違って違う学部に‥‥という話は
知らない誰かの笑い話として
何度か聞いたことあるんですけど、
本当に間違っちゃった人に、初めて会いました。
西條
受かったあとで気づいたんですけど
まあ、心理学は学べるし、
大学というところは
自分で学ぶ場所なんだから別にいいかと。
──
西條さんって、
めちゃくちゃプラス思考ですよね‥‥。
西條
もともと、親からは
「経済的に、国立じゃなきゃ無理」だと
言われていたんです。

でも、早稲田に行きたかったので、親に
「自分のお金で受けるし、
 受かっても行かないから受けさせてほしい」
とお願いして、受験させてもらって。
──
あのう、
「受かっても行かない」というのは‥‥。
西條
(とくに意に介する風もなく)
だから、
きちんと願書を読んでいなかったのかも
しれませんね。
──
なのに、間違ったのに、受かってしまった。
西條
はい、国立大学も合格したんですが、
早稲田にも受かりました。
──
で、「どうしようかな」と?
西條
そうなんです。

というのも、私学の早稲田に入るなら
基本的に「仕送りなし」で
自活していかなければならない状況だったので、
大変なのは目に見えていました。

でも、行きたい大学に行けないことと
生活で苦労するということ、
どっちを選んでも後悔はあるだろうし、
それなら、行きたい大学に行くべきだと思って
早稲田に決めたんです。
──
人生の大きな岐路ですね、そこは。
西條
幸い、早稲田は奨学金制度が充実していたので、
奨学金をいただき、足りない分は
家庭教師のアルバイトでなんとかやってました。

本当に大変なときは
親や親戚が、助けてくれましたし。
──
じゃあ、苦学生だったわけですね。
今のお姿からすると、意外な感じもしますけど。
西條
大きな声では言えませんが、当時は
電話、電気、水道‥‥
しょっちゅう止められていたり、とか。
──
それって「ライフラインの断絶」ですよね。
僕も学生時代に経験ありますが。
西條
電気は、まあ、まだ我慢できるんですけど、
正直、水道はキツかったです。

近所の公衆トイレまで、
わざわざ、走らなきゃならないので(笑)。
──
‥‥ご苦労されて。
西條
ちなみにですけど、
高校ではまったく勉強しなかったので、
数学で0点を取ったりして、
二浪の末、
ようやく早稲田に入ったんです、僕。

どんどん話が脱線していきますけど。
──
いえ、脱線はいいんですが、
「数学0点」とか「二浪の末に」とかって、
大学教授にまでなった人が。
西條
僕の出た高校は「仙台三高」といいまして
わりとスポーツが盛んで
その地域では、2番目の進学校でした。

で、入学試験では首席だったんですが‥‥。
──
え! 首席というと、トップ合格ですか。
めちゃくちゃ勉強できるじゃないですか。
西條
いや、ちいさい妹もふたりいましたし、
お金がもったいないなと思って
滑り止めの私立校に
仮の入学金を払わなくていいと親に言った手前、
落ちると行き場がなかったんです。

で、本気で勉強したら首席だと連絡がきまして。
──
はー‥‥はあ。
西條
入学式の前に、両親が呼び出されたんです。

ふたりは僕が何かやらかしたのでは‥‥と
心配しながら行ったようですが、
「宮城県のトップと3点差だった」
と言われて、
入学式で宣誓文を読むことになったんです。
──
でも、そんなにすごかったのに‥‥0点?
西條
テニスをやるために
テニスの強い高校に入ったくらいの
気持ちでいたので
もう、1年生の夏休みの終わりには
「300番台」に急落していました。
──
浮き沈みの激しさが半端じゃないです。
西條
0点を取ったときは、
部活のみんなには拍手喝采されましたが、
さすがに学年主任に呼び出されて
「トップで入って
 こんな点数を取ったやつは今までいない」
とこっぴどく怒られました。
──
そうでしょうね‥‥。
なにしろ「0点」ですもんね。
西條
ええ。
──
たいへんせんえつながら、
西條さんのことを漢字であらわすとしたら、
「極端」という二文字だと思いました。
西條
関心あることにはとことん没頭するんですが
どうも関心がないとサッパリダメ、なんです。

だから、中学の先生にも
「ビックウェーブ」と呼ばれていましたし。
──
言い得て妙ですね(笑)。
西條
僕は自分が本当にやりたいことでなければ
力を充分に発揮できない。

これらの経験から
そのことがわかっていましたから
サラリーマンは無理だ、
やるなら学者がいいだろうと思ったんです。
──
つまり、今の仕事は天職なわけですね。

ちなみに「0点」のこと、
おもしろそうなので
もう少し、お伺いしても宜しいでしょうか。
西條
ええ、いいですよ。
──
科目は「数学」ということですが‥‥。
西條
三角関数ってあるじゃないですか。
──
いわゆる
Sin(サイン)Cos(コサイン)Tan(タンジェント)
というやつ。
西條
ぼく、あれを、テストの前日になって
友だちに「このシンコスタンって何のこと?」
と聞いていたらしいんですよ。
──
読みかたからして間違ってる‥‥。
西條
0点を取ったテストは記述式の問題で、
自分なりにすべて解きました。

このとき、点数の高い方が勝ち、
自信がなければ半額払って降りることができる、
というルールの賭けをしていたんです。

友だちと、賭け金は「1000円」で。
──
高校生にとっては大きな金額ですね。
西條
テストのあと「ぜんぶ解いたよ」と言ったら
そいつは自信をなくしたのか、
賭け金の半額、
つまり500円を払って勝負を降りました。
──
その時点で、賭けには勝ってますね。
西條
はい。でも、実際フタを開けてみたら‥‥。

僕の答案、
すべての欄に「○」がつけられていました。
「やった!」と思ったのも束の間、
合計点数のところにも「○」がついていて。
──
それってつまり「マル」じゃなく「ゼロ」?
西條
そう。しかも僕が0点で、そいつは60点。
──
0点なのに、賭けに勝ったんですか!
ご友人、さぞ悔しかったでしょうね‥‥。
西條
ものすごく悔しがってました(笑)。

で、そのときに
「実力と勝負というのは別物なんだな」
と痛感したんです。
──
そこでも「心の問題」が関係していたと
いうわけですね。
西條
そうですねぇ‥‥というより、
いまの話は
それ以前の問題だと思いますけど(笑)。
──
ある意味、勇気の出るお話の数々、
まことにありがとうございます。
<つづきます>
2014-09-24-WED