ほぼ日刊イトイ新聞

ねむりと記憶。 meet unrelated ‘F’ 池谷裕二+糸井重里


第7回 死んでもやれと言われてできることなんてありゃしない。

糸井
寝なくても、暗闇で
脳が活動するというお話で思ったのは、
お風呂のすごみについてです。
正直言って、僕はお風呂が仕事場です。
池谷
お風呂でアイデアを思いつくんですか?
糸井
アイデアというより、
もっと大きいです。
僕の仕事は、お風呂で考えたことがほとんどです。
毎日の時間のなかで、
いちばん大切かもしれません。
池谷
どのくらいの時間、入られるのですか。
糸井
中で本を読む場合もありますが、
それなりに人より長いかな。
お湯につかっている時間は
15分ぐらいでしょうか。
特に僕は暗くして
湯槽に入るのが好きですから
とても睡眠に似ています。
暗いお風呂はいいですよ、ほんとうに。
池谷
それはいいですね。
糸井
‥‥でも自信がなくなってきた。
シャンプーしてるときに
考えが広がることもあるからね(笑)。
池谷
シャンプーしてるときに‥‥。
糸井
もう、完全に
お風呂をあてにしてますもん。
池谷
トイレやお風呂、
僕はあれも、情報の遮断だと思うんです。
人工睡眠のようなものかもしれません。
糸井
そういう一面はあると思います。
休まないで一生懸命やれ、といわれて
仕事をすることって、
つまんないことを定義するようなときには
いいと思いますが、
何かを解決しなきゃならなかったり、
新しいことを考えるときには
それはとってもダメなことだと思います。
みんな直感的に、それを
思っているんじゃないかな。

〈空〉
池谷
そうですね。
だから、ときどき人工睡眠を取りに
席をはずしたり、
ときにはボーッとしたりする。
糸井
死んでもやれって言われて、
できることなんてありゃしないですからね。
「さぁ、仕事しなきゃ」ってときに、
ダラダラして
なかなか仕事にならなかったりしますが、
池谷さんでも、それはありますか?
池谷
あります。
グズグズしている間に
ぜんぜん関係ないことを、
でも、重要なことを、
思いつくことがあります。
糸井
逃避的に
いいアイデアを考えたりしますね。
池谷
逆説的だけど、
あの時間がなかったら、
仕事の彩りがすごく減るような気がします。

〈空〉

(つづきます)

背景
質問です、池谷さん
Q
子どもころ、器械体操をやっていたとき、
失敗ばかりしていた
段違い平行棒の技がありました。
しかし、あるとき夢の中でコツがつかめて、
その技ができたのです。
その日の練習でさっそく
夢で見たとおりにやってみたら、できた。
それからその技は得意中の得意になったほどです。
それ以降、こういう経験はありません。
これは何があったのでしょうか。
区切り線
Q
それはレミニセンス現象ですね。
寝て何かが上達するというのは
睡眠中に情報の整理がなされた、というのが
ほぼ定説になりつつあります。
寝ているあいだに
こういうふうにやるんだ、と
覚えたり、思い出したり、訓練したりと
いうことです。
それはいわゆる
「起きた後でもはっきり憶えている夢」かどうかは
さておき、無意識の夢も含めて考えると、
夢ってほんとうにすばらしいものなんですよね。
スポーツに限らず、楽器もそうだし、
数学の問題が解けるようになることもあります。
睡眠中に、記憶はこなれて、無駄が取れ、
余分な力が入らなくなって、
ピアノなどを急に弾けるようになったりするんです。
夢はリハーサルだという研究者もいるくらいですよ。
ただ、これが正しく起こるためのポイントは
起きているあいだにどれだけ訓練したか、
ということなんです。
寝さえすれば自転車に乗れるようになる
わけじゃなくて、
何度も自転車に乗って、
「乗りたい、乗りたい」って練習した者だけに
この現象が起こるんです。
それが、最近起こらないということは・・・・(笑)?
背景

2007-12-04-TUE

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