小説家 西尾維新さん 「『どんなつかいかたをしてもいい』から、 はじめて手帳を続けることができた」(前編)

西尾維新さんは、今もっとも人気のある小説家の一人。最新刊が出るごとにランキング1位を飾り、アニメ化がすすんでいる〈物語〉シリーズが代表作です。もともと速筆として有名だった西尾さん、12カ月連続で小説を発表した経験もおもちです。その独特かつ速筆のスケジュール管理に、「ほぼ日手帳」をつかっていただいているとのこと。どのようにつかっているのかはもちろん、つかいはじめたときのことなど、「ほぼ日手帳」にまつわるお話もうかがいました。前編、後編と2回に分けて、お届けします。
〈物語〉シリーズ 12カ月連続で小説を発表した経験

はじめて、1年間つかい続けられた手帳。

――
(西尾さんの著作を見ながら)
ここにあるのは代表作の一部ですから、
あらためて西尾さんの著作物って
ものすごい数ですね。
西尾
いえいえ、そんな。
――
私が西尾さんのことを知ったのは、
週刊連載していたマンガの原作者としてでした。
西尾さんの独特の言い回しや言葉遊びが
おもしろくて、毎週たのしみにしていました。
西尾
ありがとうございます。
――
当時は週刊連載もかかえながら、
これらの小説も
コンスタントに出されていましたよね。
西尾
そうですね。
――
なかなかハードな
スケジュールだったと思うのですが、
もともと、スケジュールは
手帳で管理されていたんですか?
西尾
いえ、それがそもそも
僕は手帳をつけるのがすごく苦手だったんです。
最初のほうは張り切ってぎっしり書くんですけど、
だんだん書かなくなって、
最後はただの白紙になってしまうんですよ。
仕事をした記録とかスケジュールとか、
ちゃんと残しておきたいという気持ちは強いのに、
買えども買えども続かない、を繰り返していました。
そんな僕がはじめて1年間通してつかえた手帳が、
「ほぼ日手帳」だったんです。
――
わあー、うれしいです。
それはいつごろのことだったんですか?
西尾
2009年ですね。
今日同席してもらっている
担当の矢島さんがつかっていらっしゃるのを見て、
この世にそんな手帳があるんだ、
ということを知りました。
――
この世に(笑)。
西尾
今では1日1ページの手帳って
そんなに珍しくなくなりましたが、
当時はまるっきりの初見でして。
矢島
西尾さんの
担当編集者
わたしは2007年からなので、
もう7年間、「ほぼ日手帳」です。
「ほぼ日」もずっと好きで、読ませていただいてます。
――
ありがとうございます!
まず、矢島さんがつかっていたのを見て
西尾さんは「ほぼ日手帳」を知った、と。
西尾
そうです。
そういう手帳があるんならつかってみたいと思って
いくつか文房具屋さんをまわったんですが、
どうしても見つけられなくて。
思い切って、矢島さんに
「すみません、
 その手帳はどこに売ってるんですか?」
と聞いて、ロフト限定であることが判明(笑)。
――
ああ、ご足労をおかけしてすみません(笑)。
そのころは、
実店舗でほぼ日手帳を置いていただいていたのは
ロフトさんだけだったんですよね。
手にした感想は、いかがでしたか?
西尾
今ではそれも当たり前のことなのかもしれませんが、
手帳が180度開くのは革新的だったし、
バタフライストッパーにも感動しました。
1日1ページとは思えない軽さもありがたかったし、
名言好きとしては日々のページにある言葉も外せません。

そして、ここが重要なのですが、
はじめて「ほぼ日手帳」を買ったとき、
ガイドブックも一緒に買ったんです。
この本がとてもよかった。
いろんな人の工夫されたつかい方のほかにも、
マス目を意味なく塗るとか
大胆に謎の図が書いてあるとかが載っていて。
案外手帳のつかい方って、
こうも詳しく、しかも多様に
教えてもらえるものじゃないですからね。
それも四角四面でなく、
手帳なのに、なんだかものすごく自由で、
どんなつかい方をしても受け入れてくれるスタンスに
とても救われた気がしました。
――
たしかに、
2009年度版のガイドブックには
「男のほぼ日手帳」などの
小ネタがありましたね。
それが、人を救っていたとは‥‥。
西尾
ガイドブックがあったからこそ
どんなつかい方をしてもいいんだ、と思えて、
はじめて手帳を1年間、続けることができました。
それ以来、毎年欠かさず「ほぼ日手帳」です。
もちろん、ガイドブックも一緒に買っています。
たぶんですが、僕ほどガイドブックを
読み込んでる使い手はなかなかいないと思う(笑)。

▲西尾さんの歴代のガイドブック。
 お話から、隅々まで読んでいただいていることが伝わってきました。

一目惚れした Hobonichi Planner のつかいかたを考えに考えて、辞書に。

――
今日お持ちいただいたのはオリジナルですね。
いつもカバーなしでつかわれているんですか?
西尾
カバーをつけなくなったのは、
今年からです。

▲西尾さんの「ほぼ日手帳」。2014年版はカバーなしで使用中。

――
それには、なにか理由が‥‥?
西尾
ほんとうは、
2013年のカバーを継続してつかう予定だったんですよ。
2013年につかっていたカバーが
ことのほかお気に入りだったので。
2014年版の本体は発売されると同時くらいに
購入して置いてあったんですね。
しかしせっかちなもので、
手帳をつかいはじめられる12月1日で
我慢がきかなくなってしまい、
カバーをつけないまま本体を、
2013年版と並行してつかいはじめてしまって。
そしたら、意外とつかいやすくて、
カバーをつけずに、そのままつかってます。
現在はオリジナル、カズン、
WEEKS、Hobonichi Plannerを
1冊ずつつかっています。
――
4冊もつかっていただいてるんですか!?
西尾
4月からはspring版もつかうんじゃないでしょうか(笑)。
もともと文房具が好きで、
ノートとかいろんな種類を買っちゃうタイプなのですが、
さすがに全種類つかうのは今年がはじめてです。
――
うわー、ありがたいです。
どのようにつかい分けられるんでしょう?
西尾
オリジナルがメインでなんでもありの雑記兼備忘録、
WEEKSが近未来のスケジュールといったところでしょうか。
WEEKSのつかい方はまだ模索中です。
こちらはまだどうにも上手につかいきれていません。
別に手帳をつかう腕があがったわけではないらしく(笑)。
springをなににつかうかはまだ決めていませんが、
4月で一度気持ちを切り替えたいというか。

それから、
カズンはスクラップブックにしています。
映画の半券とか印象に残ったレシートとか、
『日々の断片』みたいなものを貼っています。
オリジナルについてもそうですけれど、
手帳に「貼っていい」というつかいかたが、
ガイドブックが教えてくれた
一番のパラダイムシフトでしたね。
――
貼るって、実は
一番手をわずらわせない記録方法ですよね。
Hobonichi Planner は、どのように?
西尾
Hobonichi Planner は
見た瞬間、これは欲しい、つかいたいと
衝動買いをしてしまいました。
オリジナルをカバーなしでつかいはじめていたからこそ
カバーがなく、表紙にただ「手帳」と書かれていたその一冊が
ハマる感じだったのだと振り返りますが、
しかしつまり、
それはすでにオリジナルをつかいはじめていたということで
買ってから、さてどうしようかと‥‥(笑)。

僕にとって、1日1ページという区切りは
とてもつかいやすいのですが、
あえてネックをあげるとすれば、
1月の時点で、2月から12月のページが、
まっさらだということなんです。
もちろん時系列にそって
前から順番につかうのが当然なのですけれど、
ときには全ページを均等につかえたらいいなあと、
思っていました。
その考えから、小口のツメの部分を利用して、
辞書にするのはどうかとひらめいたんです。
――
辞書、ですか?
西尾
ツメの部分に
「あ」「か」「さ」「た」「な」‥‥と書いて、
新しく知った言葉とか、おもしろい言葉とかを
その行のページに書き留めていくんです。
こうすれば最初から全ページを均等につかいはじめられる。

▲この本体の縁の部分のツメに
 「あ段」を書き込んで、辞書のようなインデックスに。

――
手帳を辞書がわりにつかうとは‥‥。
今までに聞いたことがないつかいかたです。
西尾
職業柄、辞書好きでして。
いつか、自分の好きな言葉を集めた独自の辞書を
つくりたいと思っていたのですが、
まさかこんな形で実現するとは、
衝動買いもしてみるものです(笑)。
ただノートに好きな言葉を書き留めていくのではなく、
この場合「あ行」「か行」「さ行」と
ざっくりした分け方になるので、
時系列が自然に散って、
ランダムになっていくのが刺激的で。
マス目があって書きやすいし、
つくっていても読み返していてもたのしいです。
――
たしかに、不規則になって
単語帳とはひと味ちがうたのしみがありますね。
西尾
2014年にこだわらず、このまま1冊完成させたいです。
まだ白紙のページのほうが多いですけれど、
これからそれだけの語彙を増やせる余地があるということで、
小説家冥利に尽きます。
――
そういっていただけて、非常にうれしいです。

旅行には、「ほぼ日手帳」を持っていく。

――
別のインタビューを読んでいて
旅行がお好きだということを目にしたのですが、
旅行には手帳を持っていくんですか?
西尾
オリジナルを持っていきます。
事前に地図を書いておいて、
旅先では、その地図を見て行動しています。

ただし、地図はできる限りいい加減(笑)に
書くようこころがけています。
道に迷うのが好きなので。
どこだかわからない場所で、
どこだかわからない場所を目指して歩くのが好きで。

このあいだは、山梨の山中で迷いました。
町につながる道だと思って歩いてたんですが、
いっこうにつながる気配がなくて、
これはやってしまったかも、と思っていたら、
遠くにイオンの看板がかすかに見えたんです。
「やった! 町だ!」って‥‥。
あれは、ものすごくうれしかったですね。
――
(笑)。
Hobonichi Planner の辞書としてのつかいかたとか、
道に迷うのが好きとか、
「偶然性」を大切にされているんだなあと思いました。
西尾
そうかもしれません。
旅の目的地も、実はどこでもいいんですよ。
道中で本を読んだり、道に迷ったり、
そういう旅そのものが好きなんで。
旅が好きというより、旅程が好きなのかな。
そういえば、去年は「ほぼ日手帳」に
1~75くらいまで数字をふって
都道府県名や観光名所、テーマパークなどを書いていき、
ビンゴマシンで出た数字のところに旅をしていました。
――
わ、そんなところでも「ほぼ日手帳」が(笑)。
西尾
そういう思い出も、
全部残っているから、読み返したときに
ちょっとした物語になっていて、おもしろいですね。
もちろん、遊びだけじゃなくて
仕事でもちゃんとつかっていますよ。
<おもしろいつかい方を発明しては
 試している西尾さん。
 後編では、仕事でのつかいかたを紹介します>

終物語(下)

著:西尾維新
Illustration:VOFAN
価格:本体1,500円(税別)

吸血鬼の体質となった高校生・阿良々木暦が、
怪異現象に悩まされる少女たちを助けるべく奔走する
大人気小説「〈物語〉シリーズ」の最新作。
本作では、謎の転校生・忍野扇との戦いがついに決着!
アニメ最新作『花物語』は2014年5月31日より放送開始。

アニメ〈物語〉シリーズヒロイン本
其ノ伍 戦場ヶ原ひたぎ

編: 講談社BOX
価格:本体900円(税別)

「〈物語〉シリーズ」に登場するヒロインそれぞれを主役にした
キャラクターブック第5弾。
今回はついに、阿良々木暦の恋人・戦場ヶ原ひたぎが登場。
恒例の西尾維新書き下ろし企画は、ひたぎの中学生時代を描いた
イラストノベル「ひたぎスローイング」。

書籍については
講談社BOX公式サイトを、
アニメについては
西尾維新アニメプロジェクト公式サイトにて
くわしい情報をご覧ください。

Illustration/VOFAN
©西尾維新・講談社

2014-04-04-FRI