ほぼ日手帳2015


	ほぼ日手帳2015 「手帳」って概念を超えても、 ぜんぜんいいんじゃない?
	佐藤卓さんと話した、 「SSACK」ができるまで。
2015年版で初登場の「SSACK(ザック)」は、
シリコンならではの発色の良さ、
すべすべとしたさわりごこち、
磁石でピタッと留める固定方法など、
いままでにまったくなかった
新スタイルの手帳カバー。
一緒に作ったのは、ほぼ日手帳全体の
デザインディレクションをしてくれている
デザイナーの佐藤卓さん。
見たこともないチャレンジングなカバーが
どうやってできあがったかについて、
「ほぼ日手帳」のSSACK製作チームが
佐藤卓さんと一緒に振り返りました。
ほぼ日
SSACKはおかげさまで、
これまでに全くない新しいタイプの
カバーになりました。
実際に使い始めてみたかたがたからは、
「コンパクトさがいい」
「色とデザインが好き」
「しっとりなめらかな手触りが気持ちいい」
「新しいもの好きなので選びました」
などの声が届きはじめています。
ただ、卓さんにSSACKの成り立ちについて、
まだきちんとお話をうかがえていなかったので、
今日はあらためて一緒に、その製作過程を
振り返らせていただけたらと思っています。
佐藤
よろしくお願いします。
ほぼ日
どうぞよろしくお願いいたします。
佐藤
たしか「SSACK」の企画は、
最初に糸井さんから言っていただいたんですよね。
ほぼ日
はい、糸井から卓さんに、
「ほぼ日手帳の新しい顔になるような
 今までにないシリーズを作りたいんです」
とお願いさせていただいたのが、はじまりでした。
そこからみんなで何度もミーティングを重ねて。
佐藤
そうだ、そうだった。
すでに懐かしいね。
ほぼ日
最初はその「新シリーズを作りたい」ということ以外
何も決まっていなかったのですが、
とちゅうで卓さんが、
「シリコンで一体成型したら面白いんじゃない?」
とご提案くださったところから、
案が少しずつかたまって、現在のかたちになりました。
佐藤
「ほぼ日手帳の新しい顔」と思うと
なんだか、これまでに使われていない
すこし手ごわい素材にチャレンジしてみるのは
どうだろう、と思ったんです。
これまである素材を使うと、
どうしても保守的になりがちですから。
そして、素材をいろいろ調べていったなかで、
シリコンって色もきれいに出るし、
加工も意外とできるしで
いいんじゃないかな、と思ったんです。
ほぼ日
初めてシリコンと聞いたときには
びっくりしました。
ご提案いただくまではずっと
「硬いケースで手帳を守る」ような
ものばかりイメージしていたので。
それこそ、なんて柔らかい発想を
されるんだろうと。
佐藤
シリコンって、テロテロで
形がしっかり決まらなかったりしますしね。
だけど、そういった
「手帳カバーは形がしっかり決まるもの」という
イメージだって超えていかないと、
新しい顔なんて、できないと思ったんです。
ほぼ日
シリコンのアイデアが出てはじめて、
こういうカバーもありなんだ、と思いました。
佐藤
なんだかTシャツみたいですよね。
いろんな色があって、気軽に装着できて。
Tシャツだって、中身のからだを
守ってるとは言えない。
ほぼ日
そうですね。
「手帳を守るカバー」というよりも
「手帳に着せるカバー」という気がします。
佐藤
おもしろいのが、
このSSACKの出来上がりかたって、
乗用車の進化とちょっと似ているんです。
むかしは車のボディって
「硬いもので大事な中身を守る」という
甲殻類のような考え方で作られていました。
だけど、いまの車はもう、
すごく柔らかい素材でできていて、
事故のときには潰れることで力を吸収して、
中の人を守るんです。
軽くて、燃費もよくしちゃってね。
SSACKのできあがりかたは
なんだかそういった車の進化を
短期間で追いかけたような印象があります。
ほぼ日
シリコンでの第一弾の試作ができたとき、
どんな感想を持たれましたか?
佐藤
じつは最初の試作を見たときは
「‥‥うわ、もしかしたらダメかも」
と思ったんです(笑)。
ほぼ日
あ、「ダメかも」(笑)。
佐藤
そう。もう、ごつすぎて、
「こんなの無理だよ」って感じがした。
たしかこれが最初の試作だよね。
‥‥わ、あらためて、重いなあ。
ほぼ日
最初の試作はシリコンが分厚くって、
かなり重かったんですよね。
佐藤
色だって黒がちょっとヘビーすぎたし、
でてきたものを見て、急激に不安になりました(笑)。
だけど、たくさん試作させてもらえたので
そこが良かったんです。
次の試作で色を付けてみたら
印象がまったく変わって「いけるかも」となった。
そこで一歩、前にすすめたんです。
ほぼ日
あのときは、色の感じで印象が
あんなに変わるものなんだ、とびっくりしました。
佐藤
やってみないとわからないことって
たくさんあるんですよね。
そして、しつこくしつこく何度も
ギリギリまで粘って、
最後の最後で急に形になった感じでした。
ほぼ日
途中までは本当にできあがるのかどうか、
ずっと不安がありました。
佐藤
だけど、今までなかった挑戦をするというのは
きっとみんな、そういうものだと思うんです。
普段の仕事でも、よくありますよ。
「どうしよう、できるかな‥‥」と不安に思いながらも、
やりながら探っていくしかない。
しつこく可能性を探っていくと、だんだんね、
「あ、いけるかな、いけるかな、
 いけるかな‥‥あれ? もしかしてあるかも」
みたいに、開けるときがあるんです。
ほぼ日
最初から「こうしよう!」じゃなくて、
ちょっとずつ「いけるかな‥‥」なんですね。
佐藤
そう、やっていくうちに扉がひらくんです。
うまくいかないことも、もちろんありますけど。
ほぼ日
SSACKはその「留め方」も、
ずいぶん試行錯誤しましたよね。
佐藤
「ほぼ日手帳」はいろいろはさんで
すごく分厚くなる人も多いし、
今年は薄い「avec」もあるしで、
「留め方」はけっこう悩みましたね。
試作を作る前段階でも
案はいろいろ考えましたよ。
「凸と凹を作って、
 おもちゃのブロックみたいに留めるのは
 どうだろう」
とか、
「シリコンの表面のペタペタした感じで、
 そのまま面と面を
 軽くくっつけるのはどうだろう」
とか。
「穴をあけて、引っかけるのは?」
「いっそバンドやベルトで留めちゃおうか」
そんなことも考えました。
そして最終的に、
「磁石で留めるのがベストだ」
となったんです。
ほぼ日
いろんな方向を考えた結果の、
この留め方でしたよね。
磁石の表面をシリコンで覆うか
覆わないかなども、細かく試作して、悩んで。
佐藤
そうでした。
ほぼ日
あと、SSACKは「しおり」も
けっこう試行錯誤した印象があります。
佐藤
そうですね、まず
「シリコンはしおりとして耐えられるのか」を
検証するところから始まって、
次に、立体的なカクカクとしたしおりを作ってみた。
そんなことをいろいろやるうちに
「しおりを上方向に作って、
 自然な曲線を活かした方がきれいかも」
となって、上方向にまっすぐ伸ばしただけの
シンプルなものになった。
最終的にシリコン素材ならではのものにできて
よかったと思いました。
やっぱり新しい素材を使うときって、
良さを活かさないと意味がないですから。
ほぼ日
でも、いろいろ試しつつ作りましたが
完成したSSACKってすごくシンプルで、
安定感のあるかたちですよね。
なんだか最初からこの形をイメージして
作られたかのようにも思えます。
佐藤
最終形だけ見ると、そうなんですよね。
だけど、最初っからすっと決まることなんて
じつはほとんどなくて、
どんな製品もやっぱり試行錯誤を積み重ねて
少しずつ、少しずつ調整しながらできあがってます。
試作を作ると
「思い通りできたけど、こんなの使い勝手悪いよ」
「これはちょっと薄すぎる」
「シンプルに作っていいんだ」
とかね、いろんなことを発見できますから、
そういった発見を積み重ねていくんです。
ほぼ日
SSACKは「持ったときの感覚」も
おもしろいですよね。
持ったことのない新しい手触りなのに、
しっくりくる感じがあって、
未来の手帳を手にしているかのような
うれしさやたのしさがあります。
佐藤
作りながら
「いままでの手帳の概念を超えても、
 ぜんぜんいいんじゃないの」
というのはすごく思ってました。
むしろ、せっかく作るからには
超えていけたらいいなと。
もちろん、今までの手帳カバーとは
まったく違うものですから、
人によって好き嫌いはあると思うんですけど。
ほぼ日
完成したものを最初手に持ったときは、
けっこう感動がありました。
手帳や文具を実際に装着してみた姿も
すごくかわいいんですよね。
佐藤
何しろ色は、すごくきれいに出ましたよね。
これから細部の改良をしたり、
色や素材のバリエーションが
また増えてきたりする可能性もありますけど。
ほぼ日
来年以降のSSACK、ぼくらもたのしみです。
お客さんにいろいろ感想を教えてもらいつつ、
改良させていけたらいいな、と思います。
佐藤
実際に使ってみたかたの声は
ほんとうに聞いてみたいですね。
分厚い手帳のかたが使うとどうか、とか、
avecを使ってる人だとどうか、とか。
ほぼ日
はい、もともとバタフライストッパーの
ほぼ日手帳カバーも、そうやって、
より使いやすく進化してきたものなので。
佐藤
そして、新しい挑戦って
やっぱり時間がかかりますから。
ほぼ日
またご相談にうかがわせてください。
今日はありがとうございました。
佐藤
こちらこそ、ありがとうございました。

(佐藤卓さんと、実際の作業を担当してくださった
佐藤卓デザイン事務所の日下部さん。
おふたりとも、ありがとうございました!)

ほぼ日手帳初のシリコンカバー「SSACK」は、
ほぼ日手帳WEB SHOPとロフトにて販売中。
どうぞ、チェックしてみてくださいね。

オリジナル
カズン

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佐藤卓(さとう・たく)

グラフィックデザイナー。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業。
1981年同大学院修了。
株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。
「明治おいしい牛乳」や
「ロッテ キシリトールガム」などの
商品デザイン及びブランディング、
NHK Eテレで放送中の「デザインあ」の総合指導や
「にほんごであそぼ」のアートディレクション、
21_21 DESIGN SIGHTディレクターを務めるなど、
多岐に渡って活動している。

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