「ほぼ日」乗組員の手帳・2014
ことしの手帳、決まりましたか? 今日は、迷っているかたや、 これから決めようとしている方の参考になればと、 「ほぼ日」の乗組員6名に聞いた 「ことし選んだ手帳」と「その理由」をご紹介します。 10年近く使っている乗組員も多いせいか、 ずいぶん変わった選び方も多いですが、 例のひとつとして、選ぶときの参考になればうれしいです。
【後編】1千万円もらっても、あげられない。
高山 「手書き」ということでいえば、
このメモもうれしかったんです。
友人が、韓国のおみやげの干しダラの袋に
一緒に入れておいてくれたメモ。
「こうやって食べるとおいしいよ」という、
おすすめのスープの作り方が書いてあります。
ほぼ日 あ、こういうの、うれしいですね。
高山 そうなんです。
もらった干しダラはもう使いきっちゃったけれど、
このメモは大切にとってあります。
料理本にあるようなレシピではないけれど、
「クツクツ煮て」とか、
これだけで火加減や鍋の中の様子がわかる。  
このスープは実際に何回も作ったんだけど、
ほんとうにおいしくて。
わざわざ書いてくれたことも、うれしかったですし。
ほぼ日 高山さんのおうちには
そういった、いろんな方からのちょっとしたメモが
たくさん壁に貼ってありますね。
高山 そうですね。
友人が旅先からくれたポストカードもあるし、
友人の子どもたちが書いてくれた
ちょっとした落書きのようなものもあります。
もらってうれしかったから、
すぐ見られる場所に貼っておきたくなるんですよね。

そういえば、仕事場のパソコンの横の壁にも
たくさんメモを貼っていますよ。
ほぼ日 そちらも見せていただくことはできますか?
高山 雑然としていますが、よかったら。
ほぼ日 わぁ‥‥この壁の感じも、かっこいいです。
さきほど見せていただいたものより、
高山さん自身の手書きのメモが多い気がします。
高山 感覚的に貼っているだけなのですが、
おそらくここには、
「まだ自分の頭の中に入りきっていなくて、
 もっと自分にしみこませたいこと」を
貼っている気がします。
ほぼ日 たとえば、どんなものがあるのでしょうか。
‥‥そちらの貼っているメモとか。
高山 これは、ブックデザイナーの祖父江(慎)さんが
うちに来てくださったときのメモです。
祖父江さんがそのとき
「『死んでる』のか『生きてる』のか
 わからないような、
 曖昧なところ、うまくいかないところを
 大切にしている」
というようなことを話されていたんですね。
それを、祖父江さんが話しているシーンごと
覚えておきたくて、いそいで書いたんです。
お酒を飲んでいて文字がふらふらしていますけど、
忘れたくないから、いっしょうけんめい(笑)。
祖父江さんのことばを、声ごと残しておきたかったから。
ほぼ日 たしかに酔っていても、こうやって書いておけば
あとで思い出すきっかけを作れますね。

‥‥料理のメモも、けっこうありますね。
「煎酒(いりざけ)」とか「しょうが焼き」とか。
高山 そうですね、それぞれ作りたくなったら、
この壁まで見にくるんです。
「しょうが焼き」のメモは、
とくにおいしくできたときの分量を書いたもの。
しょうが焼きって日常的に作るから、
ここにあると、すぐ確認できて便利というか。
ほぼ日 この壁のメモは、
よく貼りかえたりもされますか?
高山 年に1度、年末の大掃除のときに、
「これは自分の中に入ったな」ということは外します。
だけど、そのくらいです。
ほぼ日 いや、おもしろいです。
ついつい、ずっと見てしまいます。
高山 (部屋に戻って)
わたしが使っている「手書きのメモ」には
こんなのもあります。
これは、ウズベキスタンに出かけたときに
一緒に持っていったノートです。
ほぼ日 はい、「ウズベキ日記」。
高山 わたし、旅行に出かけるときによく、
こうしたノートに日記をつけるんですね。
‥‥あ、中身も見て大丈夫ですよ。
ほぼ日 ちょっとしたイラストのようなものがあったり、
チケットを貼っているページがあったり。
旅行の感じがすごく伝わってきて、たのしいです。
ぼくらが作っている「ほぼ日手帳」と
サイズがけっこう近いせいもあるのか、
なんだか似た雰囲気も感じます。
高山 旅行のときの日記は、このサイズのノートに
書いていることが多いかもしれません。
なんだろう、持って歩くのにも
ちょうどいいサイズですよね。
ほぼ日 ええ、そんなにかさばらないですし。
(書かれているメモを読む)
「牛の足とか、毛を剃って食べると
 とてもおいしいです」
高山 はい、そんなのもあったりします(笑)。
それは通訳さんが言ったことばなんですが、
わたしは「人が話した言葉をそのまま記録したい」
と、いつも思うんですよ。
こうやって書いておくだけで、状況がぱっと浮かぶし、
字を見ると、
イントネーションや声の感じまで思い出します。
ほぼ日 たしかにメモって、そのときの空気まで
思い出しやすくなりますね。
高山 実は、このときのウズベキスタン旅行は
いま『考える人』という雑誌で
連載させてもらっているものなんですね。
「武田百合子さんが書いた『犬が星見た』という本の
 旅の行程を追いかける」
というのをテーマに文章を書いているのですが、
あとで文章にすることが決まっていたから、
ずいぶん細かなところまで、
とにかくなんでもメモしていました。

ウズベキスタンにはこの日記帳のほかに
こんなノートも作って持っていきました。
ほぼ日 あ、これもかっこいいノートですね。
高山 百合子さんの『犬が星見た』の中には
好きでたまらない表現がいくつも出てくるんです。
その部分をコピーしたものを
ちょきちょきハサミで切って、
無地のノートに貼っておいたものです。
旅の前に百合子さんの旅行の道すじを
あらかじめ追っておくのにも役立ちましたが、
現地で同じ場所に立って、
わたしも感じたかったからなんです。
百合子さんの目になりたかったというか。
ほぼ日 あとでメモできるように、すこしスペースもあけて。
高山 そう。あと、切って貼るという行為のおかげで、
文章があらためて、
自分の中に入ってくる感じもありました。
この作業、ほんとに大好きでした。
ほぼ日 では旅行のときには、日記帳とこのノートの、
2冊を持っていかれたんですね。
高山 はい。日記は日記でつけていたけれど、
メモはこちらのノートにも記録していました。
見えたこととか匂いとかを、
走り書きしたりして。
ほぼ日 そして、そうやって記録しておいたメモが、
こんな連載になる。
高山 ええ。毎回、文章を書くタイミングになると、
こうした旅先のメモやノートを
読み返して、注入して
自分を当時の頭というか、体というか‥‥に
してしまうんです。

こういったノートがあると、
時間が経っても、そのときに戻れるんですよね。
逆にこのノートがなかったら、
わたしは何も書けないかもしれません。
ほぼ日 今は、旅行の記録をしようと思ったときに
携帯で写真を撮ったり、
動画を撮る人もいるかもしれないけど、
高山さんはこのかたちなんですね。
高山 わたしにはこのやりかたが合っているんでしょうね。
いちおう写真も撮っているけど、
記録としていちばん大切なのは、メモやノートです。
だから、わたしにとってこのノートは、
なくしたら本当に困る、ものすごく大事なものです。
誰かから「1千万円あげるからちょうだい」
と言われても、あげられない(笑)。
ほぼ日 今日はいろんなメモを見せていただいて、
本当にありがとうございました。
なにより、たのしかったです。
高山 そう、メモって、たのしいんですよね。
書くのもたのしいし、見返すのもたのしいし。
こちらこそ、ありがとうございました。

(終わります。)
2014-04-16-WED