HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

entoanのルームシューズ。11月9日(木)午前11時販売スタート

革靴をつくるのと同じ気持ちで、このルームシューズをつくっています。 つくり手の櫻井義浩さん&富澤智晶さんインタビュー。

2年ほど前のことでした。
entoanの工房に打ち合わせに訪れたとき、
商品を並べるラックに
このルームシューズの原型がありました。
あまりに丁寧につくられていたので、
外履きのサンダルなのかなと思ったのですが、
どうやらそうではないらしい。
手で持ったときの軽さ、やわらかさ、
履いてみての足なじみのよさ、リラックスした感じは、
いっしょに長い時間を過ごすためにつくられたものだと
わかるものでした。
革製の高級紳士靴の技法を使って婦人靴をつくるという
entoanのスタイルが、
「玄関」というキーワードで広がり、
うまれた、このルームシューズ。
櫻井義浩さんと富澤智晶さんのおふたりに、
お話をおききしました。

関が好きなんです。
玄関といえば靴、ということで
靴づくりを本業にしていますけれど、
脱いで上がったらスリッパやルームシューズを履く。
じゃあそれも自分たちでつくろう。
このルームシューズができあがったのも、
そんな自然な流れでした。

世の中には自分の履きたいような
ルームシューズがそんなになかったんです。
スリッパは、履きつぶして、
ボロボロになったら捨てるものですし、
革製のもの‥‥たとえばバブーシュなどは
あのかわいらしさが、自分たちには合わなかった。

原型は、ここ(越谷)に移る前、
浅草でひとりでやっていたときから、ありました。
6、7年前のことです。
でも本格的につくろうと思ったのは越してきてからです。

というのも、今のこの場所は、
住居、倉庫、工房がひとつになっていて、
1階が工房で、土間なんですね。
小上がりの先が住居と倉庫になっていて、
わりとしょっちゅう、行き来をする。
脱ぎ履きが多いんです。
そうすると、紐靴は向いていない。
そこで自分でつくったルームシューズを、
この土間で使うようになりました。

そうすると「あ、もっとこうしたら
いいんじゃないかな?」と気付いたりして、
どんどん改良を重ねていったんです。
「脱ぎ履きがしやすくて、履いているときの
ホールド感もちゃんとある」
「ルームシューズだけれど、ソールがちゃんとある」
という個性は、そんなところから生まれたんです。

「ほぼ日」さんが紹介してくださることになって、
いっしょに、さらなる改良を続けました。
2年ほど、やりとりをしましたよね。
サンプルを履いていただいて、
4つのサイズのバランスをとって、
ソールも、最初はもっとギザギザの
「シャークソール」だったのを、
コストと丈夫さの両面から、
丸みのある「ウェーブソール」に変えたり、
足裏のあたる中敷も、
はじめはもっとつるつるした革でしたが、
サンドペーパーをかけてこまかく起毛させて、
肌なじみをよくして滑らないようにしたり。

なるべくおおぜいの方に使っていただけるように、
ミシンを使って縫っていますが、
革靴と同じように「手縫い」のサンプルを
つくったこともありました。
靴職人としては、それにも愛着があって、
ウェブではミシン縫いのものを販売し、
「生活のたのしみ展」に、少量ですけれど
手縫いのステッチバージョンも
展示しようと思っています。

このルームシューズ、はじめて見た方から必ず
「どうしてつま先が反っているんですか?」
と訊かれるんですけれど、
じつはぼくら靴職人には、
とてもあたりまえのことなんです。
というのも、革靴というのは、木型からして、
基本的につま先の部分が高くなっているんですね。
専門用語でトゥスプリングっていうんですけれど、
歩きやすさのため、靴の構造として、ふつうのこと。
その当たり前を、ルームシューズにも取り入れました。

これを履く場所は、カーペットだったり、
板の間だったり、あるいはリノリウム、タイル、大理石、
いろんな床材があると思うんですけれど、
外での歩き方に比べると家の中って
「すり足」になりますよね。
そんなとき、つま先が反っていると、
つっかかりにくいんです。
ちょっとした段差で躓くことも減る。
見た目もかわいくなるし、実用的だし、
これは取り入れてよかったと思っています。

また甲の端の始末に、
いちど縫ってからひっくり返して、
もういちど縫うことで、くるんと丸まったかたちにする
「パイピング」という技法を使っています。
履き口っていちばん力が入るところなので、
伸びてしまいやすいんですね。
なので伸びどめのため、ということと、
形が崩れにくいので、脱ぎ履きもしやすくなりました。

ちなみに、革は、理想的なものを探して、
姫路のタンナーのかたを何度か訪ね、
素材と色を決めました。
ユニセックスなものなので、
男性的、女性的ということではなく、
また、ふだん外履きでは選ばないかもしれないけれど、
部屋のなかでアクセントになる色を考えています。


[パスケースも一緒に。]

「玄関好き」だからということもあるんですけれど、
革製品のよさを身近に感じていただきたいなと思い、
「小さくて、いつも持って歩けるものを」と、
つくっているのが、このパスケースです。

いちばんの特徴はこの形だと思いますが、
あんまり理由はないんですよ。
ぼくのなかで、ぽんと生まれてきたかたちなんです。
でも使ってくださっているかたからは、
ポケットやかばんのなかで手探りをしたときに
はっきり「これだ」ってわかるのがいいとか、
愛着がわく、手になじむ、
とおっしゃっていただいています。

もうひとつの個性は「縫い目がない」ことです。
これ、じつは「チャネル仕上げ」あるいは
「ドブ起こし」と呼ばれる、
高級革製紳士靴に使う、
なかなか難しい技法なんですよ。
厚さが3.5ミリから4ミリぐらいの革を、
革包丁を使って端に横に切り込みを入れて、
「はがす」ようにめくります。
その状態でミシンをかけて、
縫い終わったら、はがした革を戻して、糊でつける。
そうすると、縫っているのに縫い目がない、
という不思議なつくりになるんです。

ぼくらが靴屋ですので、
こういう小物にも、靴屋が、
靴づくりの技術を使った遊びを入れている、
というふうに思っていただけたらうれしいです。

櫻井さん、富澤さん、
ありがとうございました。
entoanのルームシューズと、パスケース、
発売は11/9(木)午前11時。
また11/15(水)から19(日)の
「生活のたのしみ展」にも、登場します。
どうぞおたのしみに!

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