「カレーの恩返し」は
糸井重里が個人的に作っていたスパイスミックスを、
スパイスメーカー・マスコットフーズさんの
力を借りて、製品化したものです。
もともと、なにかとカレーに縁があり、
どうしたら「もっとおいしいカレー」を作れるか、
個人的に、20年近く試行錯誤を繰り返してきた糸井に、
「カレーの恩返し」完成までの経緯を聞きました。

●「おいしいカレー」への探求心ってすごい。

カレー好き同士が集まると、
「どんなカレーがいちばんうまいか」という話、
けっこうみんな、しますよね。
「実家のカレーがいちばんおいしい」とか、
「キャンプで食うとうまい」とか、
「この隠し味がポイント」だとか。
ぼくももともとカレーが好きだったし、
どうしたらカレーがおいしくなるか工夫することって
なんだか魔法使いの仕事みたいでおもしろくて、
個人的に遊んだりしていたんです。

「カレーってなんだかすごいぞ」と思ったのは、
20年くらい前、インドの奥地に行ったときでした。
テレビ番組のロケで、飛行機を乗り継いで、
さらにまたバスで8時間とかかかるような
不便な場所を訪れたことがあるんです。
そこで、たまたま日本でカレー屋さんを営む
ひとりのご主人と会いました。  
「どうしてこんな場所に?」と聞いたら、
その人はカレーに入れるためのタマネギを
その場所まで買い付けに来ていたんです。
「日本のタマネギは水分が多すぎる。
こういう土地で育ったもののほうが、うまいんです」
なんておっしゃってた。
そのとき、こんな奥地までタマネギを買いに来させる
「カレー」というものって、すごいものだなあ、
と衝撃を受けました。

ぼくもそのおじさんに感化されたのか、どうなのか、
そのうち、だんだんと
カレーを探求するたのしさにはまっていきました。
当時はとにかく凝るのがたのしくて、
カレーにスッポンスープやら漢方薬やらを
入れていたことすら、あります(笑)。
そうした凝りに凝ったカレーは、手間をかけた分、
自分でも「こりゃうまいに決まってる」なんて
思おうとするんだけど、
心の中では「ほんと言うと違うんだよな」なんて思ってる。
そんな時代にまず出会ったのが、
「糸力(いとりき)」のカレーでした。

 
「糸力カレー」を、販売してみたけれど。

「糸力カレー」は、山梨に釣りに出かけたとき、
たまたま行った「日帰り温泉」で出てきたカレーです。
サラサラ式のカレーなんですけど、
ものすごくおいしくて、びっくりしたんです。
それで、作り方を聞いてみたら、
「糸力」という地酒のお店から仕入れていると
いうことだったので、
わざわざ訪ねていきました。
そしたらやっぱり、すごくおいしくて。
あまりにおいしかったから、しばらく、
チルド(冷却)したものを家に届けてもらって、
ずっと食べていました。
 
それであるとき、ふと、
「このカレーがレトルトだったらいいのにな」と思って、
「糸力」のご主人と『通販生活』に声をかけて、
一緒にレトルトカレーを作らせてもらったんです。
レトルトっていろいろと制限があるから
お店のものとまったく一緒とまではいかないけれど、
けっこういいものができたので、
それを『通販生活』で販売したんです。

だけど、実際に販売がはじまって、
「これは引っぱりだこになるかも‥‥」
なんて思っていたら、予想外にも、
苦情のハガキがじゃんじゃん届きはじめました。
「こんなのカレーじゃない」とか「まずい!」とか。
おいしいという声もけっこうあったけど、
それ以上に、反発する人たちの熱がすごかった。
「こんなまずいカレー、初めて食べました」とか。
これには本当にびっくりしました。

でも、そのままで終わるわけにはいかなかったんで、
「まずい」という人、「おいしい」という人、
みんなに京王プラザホテルに集まってもらって、
カレーを食べる会を開いたんです。
「糸力」のご主人が手で作ったカレーと
レトルトのカレーと、両方を食べてもらいました。
そうしたら、食べているうちに
「まずい」と言っていた人たちの意見が、
なんだか、グラグラ揺れはじめたんです。
「‥‥いや、まずいっていうんじゃないんですけどね」
なんて、あやふやになったりして。
最終的に、はっきりした理由はわからなかったけど、 
どうも「まずい!」と強く主張していた人たちは、
ごはんにカレーが染みるのが、嫌だったみたいです。
そのとき、カレーのおいしさというのは
本当に人それぞれで、
みんな、自分の好きなカレーへの「こうあるべきだ」が
非常に強くあるんだ、と教えてもらいました。

 
そして自分でも、作りたくなった。

「糸力カレー」はその後も食べていたんですが、
そのうちぼくも、
「自分の手で作るおいしいカレー」に
挑戦してみたくなりました。
それで、しばらく「糸力カレー」と「自分のやりかた」を
掛け合わせたりしていたんですが、
「これだ」という答えは見つからなかった。
そんな時期に「東京カリ〜番長」に出会いました。

カリー番長の水野さんという人は、
「カレーならみんな大好き」という人なんですね。
寛容なんですよ。
そして作るカレーはどれもおいしい。
この姿勢は素晴らしいな、と思いました。
ただ、カリー番長はカリー番長で、
どんどん新しいカレーを作っていく人たち。
だから、ぼく自身としては、
たくさんの種類ではなく、ただひとつ何か、
「自分が作った、いちばんおいしいカレー」というのを
見つけてみたいな、と思ったんです。
それは自分で見つけるしかないし、
これを探すのはおもしろいぞ、と思ったんです。

 
「東京カリ〜番長」に教わった、市販のルウのすごさ。

転換点は、突然やってきました。
あるとき「ほぼ日」のみんなが、ぼくの誕生日に
パーティーを開いてくれたんです。
それも、カリー番長がカレーを作ってくれるという
サプライズつき。
カリー番長が鍋に6種類くらいカレーを作ってくれて、
『これはこのメーカーのルウに、
 この野菜と、このスパイスを合わせたものです』
と、紹介してくれました。
つまり、市販のルウがカリー番長の味付けで
どうおいしくなるか、見せてくれたんです。
‥‥そのとき、おどろいたんです。
それぞれ、ぜんぶ違う味わいなのに、
どれもものすごくおいしかったから。
そのとき初めてわかったのが、
「市販のルウには、相当すごい力がある」
ということでした。
たとえばインスタントラーメンって、
家庭で適当に作っても、相当おいしくできますよね。
ああいう「すごみ」が市販のルウにはあるんです。

ぼくはそれで衝撃を受けて、
そのとき、過去のトライ・アンド・エラーを
ぜんぶ洗い流してしまいました。
「一から作るのは、もうやめよう。
 自分にとってのいちばんおいしいカレーは、
 市販のカレールウを使って作ろう」
と決めました。
もし市販のカレーを使った
すごくおいしいカレーの作り方を見つけられたら、
それは、みんなに教えることだってできる。
それってけっこういいじゃないか、と思えたんです。

それから、そのパーティーで
カリー番長がしてくれたような工夫を
自分なりにやりはじめました。
長年の試行錯誤でスパイスには妙に詳しくなってたから、
それもうまく作用して、
自分の行きたい方向も、なんとなく当たりがついた。
そして直感で‥‥というか、
本能的につくってみたスパイスミックスに、
ものすごく手応えがあったんですよ。
「あ、こっちだ!」と思いました。

 
反応がよくて、たくさん作るようになったら。

そのときのスパイスが、
今の「カレーの恩返し」の原型なんですけど、
そこからはもう、おもしろくてしょうがなくて、
何度も何度も実験しながら、
最初のスパイスに、地道に改良を加えていきました。
「この香りがもっと欲しいな」とか、
「これは多すぎたかもな」なんて、微調整を重ねて、
自分がいちばん好きな味わいに近づけていきました。

そして、ずっと個人的にたのしんでいたのですが、
あるときたまたま、
会社でカレーを作る機会があったんです。
忙しい日の、みんなへの差し入れとして作りました。
そうしたら‥‥
予想をはるかに超えて、みんなにウケたんです。
みんな、どんどんおかわりしてくれて、
もう見てるだけで、喜んでくれているのがわかる。
「まさに、これが食べたかった」みたいな様子でした。
それを見て、びっくりしたけど、
スパイス自体には自分でも手応えを感じていたから、
「あ、やっぱり!」なんて思ったりしました。

それから、スパイスを多めに作るようになって、
みんなに分けるようになり、
そうするとみんながケチケチ使うようになって、
もっと多く作って渡すようになりました。
さらに、そんなことを繰り返しているうちに
ものすごく大量に作るようになったので、
「いっそ誰かが作ってくれたら」と思うようになって、
最終的に、マスコットフーズさんに相談してみたのが、
「カレーの恩返し」のはじまりです。

 
「カレーの恩返し」は、こんなふうにも使えます。

ぼく自身は京都に出かけるときに、
いつでもこのスパイスを持っていくんです。
京都の料理っておいしいんだけど、
毎日食べると、たまに違うものが食べたくなる。
そんなときにちょっといい肉をつかって
このスパイスを入れたカレーを作ると、
すごくいいごちそうになるんですよね。
そのときは「ステーキカレー」なんていう、
なんだか生意気なものを作るんですけど(笑)。

あとこのスパイスは、
ふだん料理しない男の人がこっそり買って、
「あ、なに入れたの!」「魔法の粉だよ」
とか、そういうこともできる(笑)。
ふだん料理を作っている人が、両方つくり分けして、
「ちょっと食べてみて?」というのも、きっとたのしいし。
入れる前と入れた後で味の変化を比べて、
たのしんでもらったらいいと思います。
あと‥‥そうそう、このスパイスで作ったカレーは
カツカレーにしてもおいしいんですよ。

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN