第2回 思いついたときがいちばんたのしい

糸井 白岩さんは、おもにぼくのことを
なんの人として知ってらしたんですか?
白岩 知ったというか、ぼくがいちばん最初に
糸井さんの作品に会ったのは
『MOTHER』と『MOTHER2』なんです。
糸井 ああ。はい、はい。
白岩 そのころはぼく、
糸井さんの作品だとは知らなくて、
純粋に、商品として出会ったんです。
そのあとに、広告の勉強をはじめてから
きちんとお名前を知って、「ほぼ日」も
読ませていただくようになるんですが、
いちばん最初は『MOTHER』だったんです。
糸井 ああ、そうですか。
白岩 はい。すいません、そういう感じで。
糸井 いえいえ(笑)。
あの、ぼくにとっての
『MOTHER』っていうのは、
ウソついていい場所っていうか、
「考えたまんま書いていい」っていう
特別な場だったんですね。
白岩 考えたまんま書いていい、というと。
糸井 つまり、ぼくの本職は
コピーライターだったもんですから、
仕事の性質上、「考えたままを書いていい」
っていうわけにはいかないんです。
白岩 ああ、そうですね。
企業の発注を受ける立場ですから。
糸井 そうなんです。
もちろん、思ってもないことを
いやいや書くわけじゃないんですけど、
「ちょうどいい場所を探して書く」
みたいな感じで取り組むことになるんですね。
ほんとのことだけを言うと通じないし、
考えを徹底的に突き詰めていくと、
なにも書けなくなってしまうから。
白岩 ああ、なるほど、なるほど。
糸井 そういうときに
ロールプレイングゲームというものに出会って、
思ったままそこに放り込んでいけるっていうのが
とってもうれしかったんですよ。
それは、純粋に自分が思ったことを
表現できるというだけじゃないんです。
たとえば、あの、ぼくは
ずいぶん前に、そそのかされて
小説を書いたことがあるんですけど。
白岩 「そそのかされて」(笑)。
糸井 「書けますよ」って言われてね(笑)。
なんていうか、こう、
「飛んでみな」って言われたみたいなもんで。
白岩 ああ、やっちゃえと。
糸井 うん。で、一度だけ書いたんですけど、
書いている最中、
まったくたのしくなかったんですね。
白岩 ああ、そうですか。
どうしてでしょうね。
糸井 やっぱり、ああしよう、こうしようって
思いついたときがいちばんたのしいんです。
白岩 あ、ま、それはそうですね。はい。
糸井 で、それを書くとなると、
めんどくさくてしょうがない。
白岩 作業になるっていうことなんですか?
糸井 そうですね。
で、もともと広告の文章って、
小説にくらべればずいぶん短いもので。
しかも、チームでつくるものですから、
「こんなこと思いついたんだよ」っていう種を
ほかの人に助けてもらいながら
転がしていけますからね。
白岩 そうですね。
糸井 もともと、ひとりで全部やるっていうのが、
あんまり好きじゃないんでしょうね。
白岩 あー、そうか、そうか。
糸井 ‥‥こんな、ぼくの話をしてていいんですか?
白岩 もちろんです(笑)。
糸井 だから、まぁ、『MOTHER』というか、
ロールプレイングゲームって、
すごく平凡な「愛してます」
っていうようなセリフが仮にあったときに、
ぽんとそれを放り込んで
活かせると思ったんですよ。
白岩 響き方が変わるという意味で?
糸井 そうそう。
小説の中で「愛してます」って書くのは
すごくたいへんなわけで。
白岩 そうですね、難しいかも。
糸井 簡単じゃないですよね。
愛してますとしか言いようがないんだ、
みたいなことをまわりからつくりあげて
ようやくその平凡なセリフが
言えるか、言えないか。
白岩 うん、うん。
糸井 やっと言えたとしても、その平凡なことばを
なぜわざわざ書くのかっていう問いかけが
自分のなかに残ったりして、
もう、めんどくさいんですよ(笑)。
白岩 めんどくさいですね(笑)。
糸井 でもゲームになったら急に、
ひと言、そこにことばを置いておくだけで
気持ちがよくなったりする。
そもそも、いわゆる『ドラクエ』タイプの
ロールプレイングゲームって
主人公がひと言もしゃべらないですからね。
白岩 ああ、そうか。そうですね。
だからこそ、ことばに直接性があるというか。
糸井 はい。
白岩 実際にプレイしていると
ことばがすごくストレートに
響いてくるのを感じますし。
糸井 そういうことができることが
うれしかったんです。
ただ、量ということでいうと、
ゲームって、主人公はしゃべらないとはいえ、
用意すべきセリフは膨大なので、
そんなに何度もはできなかったんですけど。
だから、自分のなかでは、3本つくって、
やぁ、おもしろかったという感じで。
白岩 完結している。
糸井 うん、そうですね。
(続きます)
2009-07-22-WED
前へ このコンテンツのトップへ 次へ