先週まではリア王風ヒゲでしたが、
きれいさっぱり
もとのみうらさんに戻られました。
今回の県は、
ややボリュームがございます。
九州最後の県、おたのしみください。
熊本県 アポロ計画はつづいている。
ほぼ日 すっかり春も
中盤になってまいりました。
みうら なりました。
ほぼ日 (いつもとちがうお話をしてみましょう)
体調はいかがですか?
みうら 頭が痛くてしょうがないです。
ほぼ日 ええ? 毎日ですか?
みうら

「日々の暮らしで頭が痛い」
じゃない頭の痛さで、痛いんですよ。
頭が痛いから
もう煙草をやめます、わたしは。

ほぼ日 それほどまでに。
みうら いや、なにも煙草をやめる機会を
見計らっていたわけじゃないんです。
吸うと頭が痛いんですよ、
それは「煙草」じゃないでしょ?
煙草は、そもそも
気持ちよくなるためのものなのに
頭が痛い煙草なんて、ねえ。
ほぼ日 はあ、まあ。
みうら お医者さんにスキャンというのを
やってもらって
「何も悪くない」と言われたんですが
ぼくは「悪い」と思ってるんです。
ほぼ日 ところでみうらさん、
「リア王」は、やめたんですか。
みうら

あれはあの時期限定ですから。

ほぼ日 すごく短い限定でしたね。
みうら ウチのおかんからも、
「あかんで、似合ってへんで」
という電話が入ってますのでね。
ぼくは、ウチのおかんが
言うことをやっているだけなんです。
おかんの言われたことに反発する時期は
37歳までで終わりました。
おかんの言うことは間違いないです。
ほぼ日 では、頭痛に気をつけつつ、
次の県にまいりましょう。
(みうらさんが引いた県くじを見る)
あ、熊本県です。
みうら 熊本県、ああー‥‥
しゃべらなきゃいけないことが
たくさんあるんですが、いつも
この「ああー」のとき考えているのは、
「まず最初に言わなきゃならないことは
 なんだ?!?!」
ということです。
ほぼ日 なるほど。
みうら 「熊本県」と言われただけで、
どーんと押し寄せるんですよ、熊本が。
熊本勢が、しかも横並びでね。
しかしぼくはスナック大谷の話は
しなきゃなんないはずなんです。
他人はわからないけど、
ぼくはスナック大谷の話をしなきゃなんない
と思います。
高校2年生あたりからだったでしょうか、
「自分を褒めてあげたい」の
有森さんよりも前に、
期末テストや中間テストが終わったら
自分を褒めてあげる意味を込めて、
ぼくは日活のロマンポルノを観に行きました。
必ず、海女もの・女教師もの・SMものという
3本立てでした。
異種格闘技なものが混合された3本立てで、
まぁ、見に行った人間は、
最終的な4本目を自分で立てていけ、
ということなんです。
ほぼ日 ‥‥‥‥。
みうら そのなかでも、SMものに出ておられた
谷ナオミさんという方は
大活躍でございました。
当時はアブノーマルという言葉も
あまり聞かなかったですし、
SMが好きな人たちはたいてい
「変態」と呼ばれていました。
80年代に、糸井さんがビックリハウスで
「ヘンタイよいこ新聞」を連載されて
そのときにはじめて、変態は
漢字からカタカナに変換されました。
その日からヘンタイは
次々に気が楽になって
大手を振って歩くことになりました。
いまはもうSMも、とてもライトな感覚で
「S? M?」
と、飲み屋のあいさつみたいに聞きますが、
前はとても言えないことだったんです。
ほぼ日 そんな時代が‥‥。
みうら ぼくは、谷さんのことを思えば
おかずなしでメシが食えるくらいの
童貞っぷりでした。
そしてすっかりそういうことを忘れて
大人になったある日、
旅行代理店の前を通ったところ、
「熊本」というパンフレットが、
たまたま目に飛び込んできて
なにか思し召しなのかわかりませんが
手にとって開きました。するとそこに
「あのSM女王の店 スナック大谷」
と、載っていたんです。
「ぼくはあの銀幕のスターに
 会うことができるんだ!」
と思いました。
これは、望めば何でも叶う、
もう、元気だったらなんでもできる、
みたいなことですよね?
ほぼ日 はあ。
みうら

それからは、いつかはスナック大谷で、
一献傾けたいと思っておりました。
現在のところ、スナック大谷へは、
3度行かせていただいております。
ぼくが持っているレコードを
谷さんに見せたりして、
「わたしも持ってないのよ」
なんて言われたうえに
「おいしいとこがあるのよ」と
馬刺しを食べに連れて行っていただきました。
「そんな、昔のこと、
 ずいぶん覚えてらっしゃるのね」
なんて言われて、こっちもすごく
いい気分です。
「みうらさん、今日はどこにお泊りですか」
「縛ってください」
と言われたらどうしようと思って
ドキドキしながら飲んでたいところ、
何もなかったです。
そこはクリーンです。
まったく何もなかったです。

ほぼ日 残念ですね。
みうら

谷さんという方は、そんなことを
高校時代からいままで思わせてくれるんです。
どういうことなんでしょうか。
胃酸過多のように、
フェロモン過多である、と思います。
それがまぁ、熊本県のいちばんの思い出です。
‥‥えっと、ほかに熊本県熊本県‥‥
鹿児島県と熊本県って
ちょっと似てるとこ、ありますね。
県境にはステッチは入っていない
ということは、言いましたっけ?

ほぼ日 ステッチが入っているということは
聞きました。
みうら そうでしたそうでした、
ステッチは入っているんですよね?
それは、旅人には見えるんです。
しかし、旅行に行かない出不精の方が
陥りがちなイメージを
払拭するために言いますが、
ステッチにひっかかって隣県には行けないと
思い込んでいる方が多いんです。
県境はほとんど地つづきです。
九州は、9この州があるんですよ?
‥‥あ、知ってましたか。
四国も4つあるんですよね?
ほぼ日 そうですね。
みうら それは、
「ンもう、
 わかりやすくしてあるんじゃない〜」
ということですよ。
そんな州がアメリカにあったでしょうか。
トゥエルブ州とか、
ないじゃないですか。ね?
これはすごいですよ。
で、えーっと、
隠れキリシタンの話はしましたっけ?
ほぼ日 ステッチの話は‥‥?
みうら もういいです。
ほぼ日 いいんですか。
みうら あのね、旅慣れてくると、
「その土地土地で
 かぶるアポロがある」

ということがわかってきます。
これは
「その土地土地のアポロがある」
ということなんですよ。
いまのはつまり、もう一回言っただけです。
すなわち強調文です。
ほぼ日 うはははは。
みうら これは、誰が調べたわけではない、
ぼくが、足で稼いで
わかってきたことです。
ほぼ日 すばらしいですね。
みうら アポロというのは、当然、
アポロキャップのことです。
ほぼ日 アポロキャップ‥‥月面着陸に成功した
アポロ乗組員の方がかぶっていらした
帽子ですね。
みうら それを、宇宙飛行士でもないのに
かぶりはじめたのが、山本晋也監督です。
監督は、アポロをかぶって
レイバンのサングラスをかけていましたが、
それは、タモリさんに
差をつけるためだと思います。
タモリさんと監督が並ぶと
レイバン、レイバン、でしたが、
レイバン+アポロが監督です。
しかし、昨今はとーんと
アポロを見なくなりましたね。
この間お亡くなりになりました
百瀬博教さんという方はアポロでした。
ぼくは百瀬さんのお姿を拝見して、
久々にアポロを見ました。
ああ、まだこのアポロ計画は、
ずっとつづいてるんだと思いました。
ほぼ日 計画‥‥?
みうら いまも日本には、アポロ計画が
じわっと根づいてるんですよ。
それは、熊本県に行ったときに
わかったんです。
熊本県は、隠れキリシタンの
天草四郎さんが有名です。
天草四郎さんは、いろんな活動を
なさったと思うんですが、
当然そこには、アポロがついてくるわけです。
ほぼ日 アポロが、ですか。
みうら 「まさかな」と思いながら
おみやげやさんで発見したものを
ご紹介しましょう。
裏原宿をうろうろしてる若者でもなく、
特に野球を好きなわけでもない人間が
こんなにキャップを買っていくわけは、
──わけは「理由」と書いて
「わけ」と読みますが、──
その土地土地のキャップで
その土地土地の思い出を
集めるということなんです。
ほぼ日

これは‥‥。

みうら 別府ですね。
「毎日が地獄です」キャップです。
ほぼ日 大分県の回で出てきた
地獄めぐりのおみやげですね。
みうら そこのみで買えるヴィンテージキャップ、
「毎日が地獄です」
まず、こういうアポロ計画がありますよね。
ほぼ日 はあ。
みうら

こちらは、北海道。
土方歳三記念館のみで販売されてる
ヴィンテージキャップです。

ほぼ日

そして、これは?

みうら 鳴門には、当然、
アポロ計画が入っています。
「WONDER鳴門」。
ほぼ日 ‥‥うわはははは。
みうら

そして、これです。
天草四郎さん。
「AMAKUSA SHIRO」と
ローマ字で書いてあります。



「NEW HISTORY HAS BEEN BORN」と
書いてありますでしょ?
これには天草さんもびっくりだと思います。
それから、北海道に行きますと
「SABURO KITAJIMA」と書いたものも
売っていますね。
もちろん買ってますから、大丈夫ですよ。
そんな情報、寄せなくていいです。

ほぼ日 はあ。
みうら こういう土地土地のキャップは
かぶっていこうぜ、ということに
自然となっていきます。
熊本県にいるときは、当然のように
ずっと「かぶりっぱ」でした。
そのかわり、県のステッチを越えたら、
もちろん脱帽でしょうね。
それは神仏と同じことです。
脱帽して、また隣の県のキャップをかぶり、
その土地土地に慣れ親しんでいく
ということでしょう。
これからの旅には、そういうことが
重要になってくるんじゃないかと思います。
ほぼ日 なるほど。
みうら 歴史がこうやって変わっていくんです。
これは、歴史が動いた瞬間ですよね?
ほぼ日 ‥‥はい。
みうら 「あれ? オレの知ってる歴史と
 ちょっと違うぞ?」
というところから、
歴史というものは
少しずつ変わっていくんです。
そういうことをいま
お見せしたということです。
ほぼ日 それは、アポロ側から見ても、
天草側から見ても、
また違う、歴史ですね。
みうら 両方がにじり寄って、
少しずつ時代が変わっていっている
ということです。
とにかく、アポロ計画も天草四郎さんも
教科書に載っていることだけじゃないぞ、
ということはわかっていただかないと
いけませんね。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

これで九州が終了しました。
それは寂しい、しかも、
ほんとうはもっと言うべきことが
たくさんあるような気がする、と、
みうらさんはおっしゃいます。
出し切った感があっても
どうやら出し切れていないのです。
宿便だって、バケツ一杯くらいあると
いうじゃないですか、という
みうらさんの力説を聞きつつ、
次の県に移る準備いたします。
次回で一気に南を制覇です。
おたのしみに。
2008-04-13-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい熊本県ご当地ソング
「ばってんバテレン」を
どうぞお聞きください。