山形県では即身仏に出会い、
岩手県でリアス式海岸を眺めたのち、
福島県の鍾乳洞に挑みました。
もはや、何があろうと
東北地方が果てなくつづく気分でした。
しかし今回の語り旅は、ガラッと違う場所へ
跳ぶことになりました。
福岡県 秘技、ぶらり戦法。
みうら
(県のくじを引く)
じゃ、今回はもう、素直に
上にある県を引きましょうか。
ほぼ日
みうらさん、
いいところに行きました。
福岡県です。
みうら
ああ、いいですね。
福岡県には縁があるんです。
ぼくね、京都の北野天満宮の近くに
実家があったんですよ。
天満宮といえば、
菅原道真(すがわら の みちざね)さんが
祀られてるところです。
ほぼ日
学問の神さまとして有名ですね。
みうら

菅原道真さんが福岡県の大宰府で亡くなり
祀られたのが大宰府天満宮です。
道真さんのことを、菅公(かんこう)
と言いますね?
そこからカンコー学生服が
生まれてるということを
みんな、知ってるのかな? って
ぼくは思うんです。

ほぼ日 え? そうなんですか。
学問の神さまだからですか。
みうら
ね? 勝手にスッと言っていますけど、
道真公のことなんですよ。
ほかには、そうだなぁ、福岡県には、
福岡大仏と呼ばれる大仏がおられます。
ほぼ日
福岡大仏‥‥平成4年に完成した、
比較的新しい大仏さまですね。
みうら

お寺の前に「福岡大仏」と書かれた
のぼりの旗が立っています。
日本って、のぼり文化なんですよ。
それは、日本語が縦書きだからです。
気づいてらっしゃらないと思いますが、
お寺や神社、食堂前などが、たまに
合戦場みたいになってるところがあります。
「麦定食」とか「親子丼」とか
いっぱい差し込んであって、
これは戦(いくさ)か?!
思うとき、あるでしょ?

ほぼ日 ははは。
福岡大仏はどんな大仏なんですか?
みうら

そこですよ。
みんな「大仏」って
大きく言うじゃないですか。
これは何回も
口をすっぱくして言ってることですが、
大仏というのは、
大きい仏(ほとけ)のことであって、
つまり、仏像が大きくなったら
それはもう大仏なんですよ。
そこをわかってらっしゃらない方が多い。

ほぼ日 はあ。
みうら 阿弥陀さんもおられるし
釈迦の立像もおられるし、
東大寺の大仏さんは
盧舎那仏(るしゃなぶつ)という本名が
あるわけです。
大仏といっても本名があるぞ
ということを、知ってほしいわけですよ。
そう、あれは1960年代後半でしたでしょうか、
ボブ・ディランのバックをつとめていた
「ザ・ホークス」というバンドがありました。
そのバンドがウッドストックの
ビッグピンクと呼ばれる小屋に集まり
セッションをしてたらしいんです。
それを見て、村人たちは
「バンドの人やろ」と「バンドやろ」
と言う。
ほぼ日 大きいくくりで言う。
みうら

だから、彼らは
「ザ・バンド」という名前になりました。
もともとは「ザ・ホークス」という
バンドだったわけです。
大仏と一緒です。
もう少し、核心である細部を
捉えていかなきゃならないんじゃないかなと
ぼくは思います。

ほぼ日 では、福岡大仏は、
ちょっと言いすぎなんですね。
みうら

そうですね。
福岡大仏は、まぁ言えば
あだ名ですからね。
本名がちゃんとありますし、
その中に尊い教えがあるわけです。

ほぼ日 では、唐突ですが
ここで読者の方からの
おたよりをご紹介します。
みうら

あるんですか!
お願いします。

ほぼ日 ハンドルネーム(地球人)さんからのメールです。
福岡県では、授業中に「立て」と言われると
「ヤー」と返事します。
「ヤー」の声が小さい、と怒られたりします。
「ヤー」のおかげで
体育での連帯感はすばらしいそうです。
みうら

「立て」と言われて
「ヤー」と掛け声を出すんですか。

ほぼ日 体育の練習中に
「1、2、3、ヤー」
と言ったりするらしいです。
みうら 福岡県だったら
「とー」
のほうがいいよね?
「よかとー」
とか言うじゃないですか。
「1、2、3、とー」
ほんとはね、ええ。
ほぼ日 はあ。
ほかに、福岡県での思い出などは
ありますか?
みうら

福岡県といえば、もつ鍋や水炊きで有名ですね。
これから福岡県に行って、
水炊きを食べようとしているみなさんに
「ああ、いいアドバイス聞いたな」
と思っていただけるようなエピソードを
最後にお伝えしてもいいですか。

ほぼ日 お願いします。
みうら

水炊き屋さんの有名店に行くと
店員さんがサーブしてくださいます。
しかし、お店の方は
いろんな部屋の鍋を担当されているため、
途中でスーッといなくなるんですよ。
「1座席=1おかみさん」じゃないんです。
これは、福岡県外の人間としては、不安です。
鍋が「ワーッ!」となっているときでも、
プロにはプロのやり方があるのかな、と
そわそわします。
鍋が噴いて、どんどんスープが
なくなっちゃったりしていても、
有名店で、混んでいますから、
いろんな部屋からお声がかかり、
おかみさんは、なかなか戻ってこないんです。
そういうときにくれぐれも
気をつけたほうがいいことがあります。

ほぼ日 なんでしょう?
みうら

鍋の横にふたつ、
同じような容器が並んでいます。
これは、酢と水なんですよ。
容器には「酢」「水」とは書いてないんです。
ですから、ぼくの知り合いは、
スープが少なくなってくるもんで、
おかみさんのいない間に
あわてて酢を入れてしまいました。

ほぼ日 あああ。
みうら

鍋に投入された酢のにおいは
襖と襖の間から、絹糸のように
ツーッと這い出ていき、
やがて当然のように
鍋担当のおばさんの鼻にも入ります。
ドドドドと足音がして
「なにやっとかー!」
と、怒鳴られました。
ここまで育てた鍋なのに台無しだ、
鍋チェンジ! って話になって、
すんごい怒られました。
これだけは言っておきますが、
郷に入れば郷に従え、です。
少なくとも、おばさんを
待ってなさい、と言いたいです。
自分のにわかな知恵で
ご当地のものをいじろうなんていう
おごった気持ちを捨てなさい、ということです。

ほぼ日 なるほど。
みうら しかも、ぼくはそのときお店の人に
ミュージシャンに間違われたせいで
その流れにのっかって、
酢を入れてしまった人を
マネージャーだと言っていたんです。
そのせいで、なんだかその人は
よけい怒られてしまって。
ほぼ日 ああ、「上司と部下」のように
思われてしまったんですね。
それは、場の流れにあまりにのりすぎるのも
どうか、という教訓ですね。
みうら ええ。はたして最後まで演じきれるのか、
ということが問題になってきます。
ぼくは旅先でタクシーに乗ると
運転手さんに
「あ、お客さんの職業、わかるよ!」
と、よく言われるんです。
それは、ほぼ当たってないんです。
しかし、せっかくの縁で乗ったタクシーなので
「当たってませんね」と言うのも悪いし、
数十分後にはお別れする、一期一会ですから
「そうですよ」
と言っちゃうときがあります。
すると、
「だったらあれだろう」とか
「だったらこういうとこに住んでるだろう」
などと、続々と言われます。
全く当たってないんだけども
全部、従っていかなきゃなんないです。
そうやって、
わたしは無力です、
わたしは何もできません、
ということにしたほうがいいんですよ。
自分の育った県の
システムを持ち込んでも無理

なんです。
「あしたのジョー」の
ぶらり戦法のように、
相手まかせでいこうぜ! というのが、
気ままな旅の隠れた法則です。
気ままな旅というのは、
「自分の気まま」じゃないんです、
「相手の気まま」です。
そこだけは、みなさんに
わかっていただきたいと思います。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

このようにして、みうらさんは案外
こまかい嘘をつかれるそうです。
嘘が嘘を呼び、
食い違いと食い違いの間をとって
場を繕うおかげで、
ご自分の歴史についても
何がほんとうなのか
わからなくなっているそうです。
しかし、自分の歴史に正しくあろうと
しなければいいじゃないか、
だいたい人の歴史なんてものには
誰も興味ないでしょう、と
みうらさんはおっしゃいます。
ジョーとみうらさんのぶらり戦法を習って
語り旅をつづけます。
また来週の日曜にお会いしましょう。
2007-10-14-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい福岡県ご当地ソング
「恋のどんたくエブリデイ」を
どうぞお聞きください。