糸井 横石さんが
「圧倒的不利地域」と言われている
過疎で高齢の上勝で
こんなにおもしろい「葉っぱのビジネス」が
できている。
それは、おばあちゃんの笑顔が証明しています。
芯になっている部分は、
ぼくが考えるに、きっと、
「精神力で仕事をしようと思ってない」
ことでしょう?
横石 そうです。
それはとっても大切なことです。
糸井 横石さんと話をしているとわかるんですが、
横石さんは、
「人の心は弱いものだ」ということを
スタートラインにしています。
「こういうふうにがんばれ」だとか、
「心を明るく持て」だとか、
そんなことをいくらおばあちゃんに言ったって
がんばれないし、
明るい心なんて持てないんですよ。
だけどいま、ほとんどの人は
そういうことを言ったり言われたりして
仕事をしているというのが現実です。
横石 ええ。
私もよく、そのことを思います。

糸井 ぼくは、それに対して
ものすごく腹が立つんです。
「がんばれ」を言う人に
「お前、やってみろ」って、
ちょっとだけ言いたい。
横石 「感謝の気持ちを持て」とか、
そんなことをいくら口で言ってもだめです。
糸井 それから、
心をよくすれば世の中は変わる、という発想も
人に対して失礼だと思う。
横石 「真善美」っていうけど、ほんまに、
何が「真善美」だ、と思います。
糸井 そう思えるチャンスが来たときにだけ
そうなるわけですよ。
弱い心に「がんばれ、がんばれ」と言っても、
みんなはつらいばかりです。
横石さんは「いろどり」をはじめる前に、
おばあちゃんたちが一日じゅう
愚痴ばっかり言っていることに悲しみがあった、
とおっしゃっていましたね。
横石 そこがはじまりでした。
どうしたらこの人たちは
軒先で愚痴を言うのをやめるんだろうか、と。
糸井 そこで、横石さんは
「おばあちゃん、心をこんなふうに持ってね」
というふうには、やんなかった。
横石 だいいち、心を直すなんて、
そんなことはできないですよ。
だから、やってない。
考え方を変えるんじゃなくて、
する仕事を作ったんです。
糸井 そう。仕事を作ったら、
心の話なんか、しなくたっていい。
そういうふうにやっていこうとする人が
都会にも地方にも少ないです。
理念や青写真を机の上で考えて、
それに向かっていくと、つらくなりますよ。
横石さんは、おばあちゃんたちが
つらくならないことをやったんです。
具体的に日銭が稼げる、
「あ、自分は前に向いて行けるんだ」
ということを経験してもらった。
「ね、おばあちゃんたちは、歩けるでしょ」
って、やってみせたんです。
横石 それがビジネスのおもしろさですね。
糸井 「心を直せ」というように、
モラルの問題に置き換えちゃったら
言ってる本人のほうが首を吊るしかなくなります。
そんなことを言い出したら
経営者が指揮棒振りながら苦しくて
しょうがないですよ。
「いろどり」には、毎年多くの視察が来ますが、
そういうとらえ方の人はなかなか
いないんじゃないでしょうか。
横石 ビジネスの話や高齢者の心の問題として
とらえる人はいますが、
「仕事を作る」的なとらえ方で、
語る人はいないですね。
糸井 横石さんのビジネスの、いちばんのしくみを
ぼくは知っているんですよ。
横石 (笑)何でしょう?
糸井 いちばんの「いろどり」のしくみは
市場を先に作っておいたことなんです。
横石 ‥‥あたりです(笑)。

糸井 おばあちゃんたちが
市場を作りに行ったわけではなくて、
横石さんがまず、作りに行ったんです。
その仕事がこの「いろどり」の
すべてだったんですよ、ほんとに。
だから、誰もが
真似できることじゃないんです。
横石 はい。
糸井 横石さんは「つまもの」の市場を作ったうえで、
話の中心を、おばあちゃんたちの心の問題では
ないようにしたんです。
おばあちゃん、はじめから
あんなに笑ってないと思うよ。
横石 ああ、全然そうじゃないですね。

(明日につづきます)



2007-08-21-TUE