1 なかったことにしちゃだめだ。
増田
(奥の部屋に入って)
ここはちょっと、
シークレットルームになってます。
糸井
ほどよいシークレットですね。
ああ、いいねえ。この店。
増田
ほんとですか。
糸井
うん。どうも初めまして、糸井です。
今日はよろしくお願いします。
増田
わあ、うれしい。
糸井さんにお会いするの、
とてもたのしみだったんです。
よろしくお願いします。
糸井
今日は、どんな話になっても
おもしろそうだと思ってます。
じつはぼくは増田さんのような距離感の人と
会うことって、めったにないんです。
増田
そうなんですか。
糸井
まず、この「カワイイモンスターカフェ」に
ぼくが来たこと自体、すでに珍しいんです。
じつはぼくはものぐさで、
新しい何かができても行かないし、
人が集まる場所や話題の場所にも
まったく縁がないほうなんです。
だけど、ここは何か、
「よけちゃだめだぞ」と思いました。
増田
光栄です。
糸井
もともとネットか何かのニュースで見て、
気になってたんです。
だけど「さすがにひとりじゃ無理だ」と思って、
会社のみんながいるときに、そのまま来ました。
モンスターガールのみなさんにも会って、
いっぱい写真も撮らせてもらって。
増田
うれしいです。
ありがとうございます。
糸井
ただ、お店に実際に来てみて
「あれ、なんだか怪しいぞ?」と思いました。
ここって、ファンタジーですよね。
だけどこのお店は、みんなが期待するかわいいものを
きれいにラッピングして出しているようなものとは違う。
もっと「はらわたっぽい」というか。
確信犯で、何かをぶつけてる気がしたんです。
増田
はい、そうですね。
糸井
そして実際に来ると、このお店を作るのって、
そうとう根性がいるのがわかるんです。
きっと、途中で投げ出したくなるような大変さですから。
そして、自分がここに来たということを、
「なかったことにするわけにいかないぞ」
と思いました。
そこから増田さんという人がやってると知って、
増田さんのお店の『6%DOKIDOKI』の
ムック本
を探して買ったりしました。
あと増田さんが半生を書いた
『家系図カッター』も読んだよ。おもしろかった。
増田
すごい、『家系図カッター』まで。
ありがとうございます。
糸井
あの本、書きかたはまったく違いますけど、
永ちゃん(矢沢永吉さん)の
『成りあがり』ですよね。
増田
あ、そうですか?
糸井
だと思います。
「まだ自分はゴールについちゃいない」
みたいに書いてるけど、
「こんなひどい場所にいられるか」からはじまって、
いろんなおもしろいエピソードを通過しながら、
いまの場所までたどりついた物語。
あの本を出された時点から、
もう、さらに何年も経っていますけど。
増田
そうですね、
じつは『家系図カッター』は震災前に出た本で、
まだきゃりーぱみゅぱみゅも
登場していない時期のものなんです。
糸井
だから今日は、本に書かれていない
増田さんの「その後」のお話も
教えてもらえたらと思ってやってきました。
増田
はい、よろしくお願いします。
じつは今日は糸井さんと話せている時点で、
ぼくはとても感慨深いんです。
みなさんそうだと思うのですが、
ぼくも、糸井さんのされてきた仕事に
ずいぶん影響を受けてきました。
ぼくは寺山修司さんに憧れてこの道を目指したので、
自分にとっては「ことば」がとても重要なんです。
糸井
そうなんだ。
増田
ええ、この店のいろんな装飾も
なにより「ことば」が先で、
「ことばの力をビジュアル化してる」という
考えかたで作っているんですね。
糸井
そっか、「ことば」が先なんだ。
だからずいぶんと
無理なことをされてるんですね。
増田
あ、無理なこと(笑)。
糸井
つまり、最初に「ビジュアル」から作るなら、
それを広げていくのはしやすいんです。
だけど「ことば」が先だとそうはいかない。
たとえば「えもいわれぬカフェ」という
ことばを思いついたとしても、
それだけではこの店はできあがらない。
自分であらためて
「えもいわれぬカフェ」のビジュアルを
ひとつずつ作る必要があります。
それはけっこう、労力のいる仕事だと思います。
増田
そうですね、労力はかかってますね。
ただ、大変ではありながらも、
ぼくにとって「ビジュアル」というのは、
自分のメッセージを伝える手段として、
すごく大切なものなんです。
ビジュアルだからこそ、
言語を飛び越えて、世界に伝わっていく。
ビジュアルはぼくにとって
ある意味「もうひとつのことば」でもあるんです。
糸井
まさにそうなってますよね。
増田
あと「ことばをビジュアル化する」と、
できあがりが自分の元の想像を超えていくのも、
おもしろいんです。
ぼくはじつは
自分の最初の想像どおりに仕上がるものは
ちょっとつまらないんですね。
というのも、なにかを作るときには
徹底的に頭の中でシュミレーションするほうなので、
いったんその時点で、自分が飽きるんです。
だから、いろんな人が関わったり、
ときには誰かが間違えちゃったりしながら、
完成形が自分の想像を超えていくものが好きなんです。
糸井
その感覚、すごくよくわかります。
ぼくも自分がわかってることだけが
そのまま実現するのはいやなんです。
自分がなにかを作るときにも、
「型にはめる作りかた」よりも、
「粘土をこねて徐々に形を作るような方法」
が好きですね。
自分で粘土をこねながら、
「この部分はもっと突き出させてやれ」とか、
考えながら、完成させていく。
自分の文章も、たいてい書き出す前は
「だいたい何を書くか」しか決めてないです。
増田
糸井さんは、書き出したらあとは
「筆が走るまま」ですか?
糸井
そうですね‥‥ぼくの筆、
走るわけでもないんですけど。
「何を書きたいかを、自分で自分に聞きながら書いてる」
という感じです。
このやりかたはたぶん、
増田さんのいまおっしゃった作品の作りかたと
似ている気もしますね。
『家系図カッター』もそうですよね。
とつぜん詩のようになる部分もあるし。
増田
はい、ふつうの文章だったのが、
急に詩のようなスタイルになる場所が
あったりします。
糸井
ぼくが増田さんに会いたいと思った理由には、
そのあたりもあるんです。
本を読みながら、そのあたりの思考方法が
似てるかもしれないと思いました。
増田
『家系図カッター』は
最初、編集者の人と細かく相談しながら
書いていたんです。
けれど後半は、書きながらハイな状態になって、
何かが降りてきて書いた感じでした。
糸井
書きながら、自然とその状態になってますよね。
どこかで急に「俺にマイクを貸せ、語らせろ」
となっているというか。
増田
そのたとえ、いいですね。
まさにそんな感じだったんです。
糸井
あと『家系図カッター』を読んで
さすがだなと思ったのが、
増田さんの表現に集まる人たちって、
つらい子が多いじゃないですか。
増田
そうですね。
どこかちょっと傷付いて、
そのまま大人になった人が多いと思います。
糸井
だけど、増田さんは、
そういう子たちとの距離感のとりかたが
すごく健康だと思ったんです。
「ぼくが救うよ」とも言ってないし、
徹底してフラットに接している。
あの姿勢は、けっこうな自信がないと、
できないと思います。
増田
本にも書きましたけど、
なぜか昔からぼくのまわりの人たちは、
全員が全員そういう感じだったんです。
『6%DOKIDOKI』のショップの店員たちや
このカフェに集まるお客さんの中にも
そういう子たちが多い。
ぼくはそういう人を集めたいわけでもないし、
「世直し先生」みたいな存在になりたいわけでもない。
だけど実際には、そういう子たちが集まってくる。
そういう状態が昔からずっと続いていて、
もう、こうなってくると、
逆に自分はその子たちに支えられてるなと
思うようになりました。
糸井
それはちょっと、ナウシカみたいだね。
最後、王蟲に持ち上げられて。
増田
そうですね、たしかにナウシカっぽい
立ち位置でもあるかもしれないです。
(つづきます。)

2015-12-21-MON