ほぼ日刊イトイ新聞 ダイヤローグシリーズ 1 株式会社三角屋 朝比奈秀雄さんの場合
建物や家具になるために 息づきながら待っている 石や木との対話





ほぼ日 ほぼ日刊イトイ新聞は、創刊以来、
「対話」をテーマのひとつとして考えてきました。
そこで、「対話(ダイヤローグ)」をテーマにした
ゆるやかな特集を組みたいと考えております。

まず最初に、日本建築の世界で活躍され、
工房で、木材や石材をはじめとする
素材との対話を続けてこられた
朝比奈さんにお話を伺いたいと思いまして。
朝比奈 そんなもん、なんも、あらへんよ。
地道にやってきたら
こんなふうになってしもた、というだけで、
たいそうなことはない。
わざわざ来やんでもええ(笑)。
ほかにいっぱい有名な人いるから、
ほかのとこ行きゃええのに。



ほぼ日 いえ‥‥実は、われわれ「ほぼ日」乗組員は
数年前に、社員研修で
この三角屋さんの工房に
おじゃましたことがありました。
そのときにうかがった朝比奈さんのお話が
ひじょうにおもしろく、
もう一度うかがいたいと思って
来てしまったんです。
朝比奈 まぁ、仕事してるのは楽しいけども。
ほぼ日 はい。楽しい、とは‥‥?
朝比奈 木と話してたら楽しいけどね。
この木をどう使うか、とか、そういうことやけど。
ほぼ日 はい。
朝比奈 こんだけ木があるけども‥‥いや、
ぼくが言うのは、日本建築のことやで?



ほぼ日 はい。
朝比奈 日本建築って、ほんまに地道なもんやし、
そんなに変わったこと、できへんと思うねん。
木は、鉄やコンクリートとは違って
大きさや性質が、決まっとるからね。

いまの建築見てると、
ああ、木の使い方を知らんのやなぁ、
と思うことがある。

ぼくはだいたい、ぜんぶ、原木からや。
原木から自分で切り出して、使ってる。

原木を製材機の上に置いたときに、
「ああ、これはどこに使おう」
それを、その木が教えてくれる。
ぼくが何も、無理矢理使うことってないねん。
「ここを使ってほしい、ここを使ってほしい」って
木が言いよる。
そのとおりにしてたら、おさまっていきよるんや。



ほぼ日 木が望むんですか?
朝比奈 そやからやね、
本来の日本建築にしたかったら、
こうやって材料を自分とこで持ってないと、
無理なんや。
木の行きたいとこに行かしてやれないからね。

いまの建築の内装って、
表面だけのことになっとる。
東京の、どんだけ立派な
建物でも料亭でも、全部ベニヤやんか。
それはまぁ、消防のこともあって、
燃えたらあかんから、本物は使えへん、
ちゅうこともあるんやけどね。
そやけども、そればっかりやったら
薄い建築になるわな。



ほぼ日 ベニヤ‥‥。
朝比奈 めちゃくちゃやで。
外国の一流ブティックかて、
内装の木の色を指定してくる。
「こういう色のこういう木を探してこい」って、
そんなもん、ないのにやね?
考えてみ。
同じ木って、ほとんどないやん?
それやのに、色、目筋、
そんなもんを設計屋さんは指定する。

もっと言うとな。
写真撮って、それをプリントしたら、木に見える。
それでもええやん、それやったら。
わざわざ高い木をスライスして
貼る必要もないと思うわ。もったいないだけや。

せやけども、そうじゃない、日本建築で、
店や家を「木でつくろう」と思うんやったら、
開口部なんかも、ある程度大きさが
決まってくるわ。
ほぼ日 長さも、間口も。
朝比奈 そうや。
そこに瓦が乗ってきたら、どうなるか。
そうやって決まっていく。



ほぼ日 頭で考えたらだめで、
素材のほうから設計は
決まるということですか。
朝比奈 図面はあるけども、ぼくら、
ほとんど変えてるわ。
ほぼ日 そうなんですか。
朝比奈 図面って関係ないもん、
それは寸法だけのことであってね。
木は、柱にできるやつを柱にしたらええし、
建具にできるやつは建具にしたらええ。
人間と一緒で、木も全部性格が違う。
やっぱり適材適所で
使ってやらんとあかんと思う。

「木によってデザインも形も決まってくる」
こんなもんを理解してくれる人が
どれだけおると思う?
その中でほそぼそとやっているいまの現状、
これが日本建築なんや。



ほぼ日 三角屋さんでは、若い方でも
朝比奈さんのように、木の行きたい場所を
見定めることができるんでしょうか。
朝比奈 まだそこまでできへんわ。
ほぼ日 朝比奈さんは昔から?
朝比奈 そんなん(笑)、30年も40年もやってたら、
身につくわいな、そんなもん。
あたりまえやん。
ほぼ日 いつ頃から
わかるようになってきたのでしょうか。
朝比奈 最近や。



ほぼ日 最近!
朝比奈 そら最近やで、わかるようになったんは。
ほぼ日 朝比奈さんが「これはいい」と
思われるような建物はありますか?
朝比奈 そうやな。何を基準に?
ほぼ日 そうですね、たとえばお寺とか、
ご自分の建てられたもののなかで‥‥
朝比奈 ないわ。
ほぼ日 ない!



朝比奈 ないんちゃうかな。
ほぼ日 ないんですか。
ないんですね。
朝比奈 いやいや、そのときはいいと思ても、
また、上を目指すやんか。
ほぼ日 満足はしない、ということですか?
朝比奈 そんなん、ないんちゃう?
建ったときは最高やけど、あとからやっぱり
「ああやりゃよかったな」と
常に思うんちゃうかな。
「もっともっと」に
なってくるんちゃうかな。
そやなかったら、おかしなことになるよ。
進歩ってないもん。
ほぼ日 「こうしたらよかった」というところから、
次のアイデアが生まれるんでしょうか?
朝比奈 うん。
次はこうやって見せたほうがええな、
というようなことは、やっぱり考えるわな。
キリないことや。



ほぼ日 キリのないこと‥‥。
朝比奈 キリないわ、そんなんね。
ほぼ日 「こうしよう」ということが
次々にわいてくる‥‥なんだか
おもしろそうですね。
朝比奈 おもしろいことないわ。
自己満足やでぇ、そんなもん(笑)。
ちゃんとしよと思ったら、
お金も手間もかかるし、ほんまに自己満足や。
お金儲けのためやったら、
やらんでええことはいっぱいある。
施主にもわからへんからいうて、
納めといたらやね、
それだけ手間かけへんから、なあ?

自分の中での葛藤や、こんなもん。
けれどもなあ、やっぱり
こんなんではあかんやろいうことで、
追うていったら、
ついつい手間かけてしまうわな。
それはしゃあないと思うわ。

(つづきます!)

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2012-09-20-THU


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