HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 中竹竜二×糸井重里 にわかラグビーファン、U20日本代表ヘッドコーチに会う。
2 「オフザボール」の気づき
糸井
僕はラグビーを見はじめたばかりなので、
チームと個人のバランスがまだ、よくわからないんです。
すべてがチームプレーのようにも見えるんですね。
中竹
はい。なるほど。
糸井
2015年のワールドカップを見たせいもありますが、
自己犠牲的な部分も含めての役割を、
選手たちが当たり前のように捉えている気がして
おもしろいなと感じていたんです。
でも、個人の力がないと、
あんなこと、できっこありませんよね。
中竹
そうですね。
チームプレイが重視されているように見えますが、
これがおもしろいことに、
トップチームの指導プランや戦略を見ていくと、
圧倒的に個人のトレーニングが多いんですよ。
チーム全体の練習は全体の10分の1もなくて、
たぶん、20分の1ぐらいじゃないですかね。
糸井
そんなに少ないんですか。
中竹
昔は、全体練習を長くすることで、
チームワークを機能させようとしていました。
でも実際の試合を見てみると、
最終的にはどうしても、1対1の局面で負けてしまう。
つまり、「個」が負けていたんです。
日本を含めて強豪国になれない多くのチームは
「チームだ! チームだ!」って
全体練習ばかりに力を入れていました。
でも、「個」の力の大切さに気づいた今では、
コーチングの考え方も大きく変わってきました。
個人の1つのキック、1つのパスにも、
最先端のコーチングをしようと改革したんです。
ここ10年でパスやキックが劇的に変わったのにも、
そういった理由があるんです。
糸井
えっ、ここ10年の話なんですか。
中竹
そうなんです。
ここ10年間はいろんな変化があって、
すごく面白い期間でしたよ。
糸井
瞬間的な局面で、どっちへ行くかを決めるのは
個人と個人がぶつかっている場所でしょうけど、
おおよその流れを決めるのは、チームでしょうか。
中竹
チームであったり‥‥、あとはリーダーですね。
ラグビーって1回1回プレーが切れるので、
グラウンドにいるリーダーが
ちょっとした話し合いを設けて戦略を決めます。
けれど、糸井さんがおっしゃるように、
試合中に瞬時の判断をするのは、ぜんぶ個人ですね。
糸井
個人と個人が対面してぶつかって、
まわりの人が次に何ができるかを予想して、
それぞれに考えて動いている。
その結果として、集団に見えているんですね。
中竹
そういうことですね。
ボールを持っているシチュエーションを
コーチング用語で「オンザボール」と呼ぶんですが、
以前まではコーチングも、
ボールを持ってパスをする、当たる、タックルにいく、
そういうところばかりフォーカスしていました。
でも今は、「オフザボール」といって
ボールを持っていない選手たちが
いかにプレーするかも注意するようになりました。
糸井
おもしろいですね。
中竹
練習中からビデオとかGPSとかで記録して、
ボールと離れたところにいる選手を、
コーチが叱るんですよ。
「お前はいま、何をやっているんだ!」
「いや、ボール見てました」
「いやいや、お前はボールを見るんじゃなくて、
 オフザボールなんだから、
 ボールと敵の空いたところ見て、次の動きを考えろ!」
こういったオフザボールのコーチングは、
ここ数年、すごく気をつかっています。
糸井
はぁー! それもまた、ここ数年の話ですか。
中竹
いまの強いチームの主流としては、
ボールばかりを見てはいけないという
コーチングが徹底されていますね。
糸井
たしかにテレビで観戦していると、
オフザボールが見たくなってくるんです。
中竹
テレビじゃあ見えないですもんね。
でも、そこに気づくのはすごいですよ。
糸井
いやいや、僕は野球が好きなので。
野球場に行くと、オフザボールだらけなんですよ。
野球というスポーツは、激しくオフザボールだから。
中竹
ああ、たしかにそうですね。
選手たちが、1球ごとに配置を変えていく。
糸井
そうなんですよ。
特に目に見えて意思が伝わるのは、
まずは守備位置の取り方と、
変化が起きたときにどう動いているか。
守備をする人と、走る人、
フィールドで仕事している選手たちは、
そこのセンスがとにかく問われるので、
ファンとして褒めたくてしょうがないんです。
中竹
さっきは何も起こらなかったけど、
この選手と、この動きはすごかったぞと。
糸井
はい。そういう目でラグビーを見ていたら、
オフザボールの与える影響が、
ものすごくでかいスポーツだと思いました。
中竹
はい。その通りです。
糸井
どうしてもテレビカメラでは、
選手たちが組み合う「モール」ばかり映すんだけど、
ものすごく長い時間、モールを組んでいますよね。
でも、その時にそこばかりを映しても、
どうせボールは見えないわけだし。
それなら、ゲームの中でモールが起きたときには、
全体を二画面にするか、あるいは引くか。
「それを混ぜないと、ラグビーじゃないよなあ」
と思いながら、僕はテレビを見ていました。
▲抱えたボールを押し合って奪い合う「モール」
中竹
それは、ぜひ発信していただきたいですね。
本当に二画面にしてほしいぐらいです。
糸井
グラウンドにいる選手たちは、
ちょっとした形勢の有利、不利みたいなものは
ぜんぶ見極めている訳だから、
ここにいたはずの選手がどこに行くとか、
どう動くかが気になるんです。
モールだけを映しているカメラにはわからない動きが
激しく行われているときがあるはずで、
それが見えなきゃなと思うんだけど。
中竹
いやあ、そこに興味がいっているとは。
もはや「にわか」とは言えないような(笑)。
糸井
いやいや、まったくの「にわか」ですよ。
「にわか」だから、まだよくわかっていなくて、
必死に見どころを探していたんだと思います。
とんでもなく高度なことが行われているなかで、
何が行われているのかを知りたかったんです。
日本チームがいなくなってからも試合を観ていましたが、
ワールドカップの前だったら、
自分が最後まで観続けるなんて想像もしなかった。
決勝トーナメントを観ていたら、
この強い南アフリカに日本が勝ったというのは、
どうやらすごいことのような気がしてきたんです。
中竹
はい、すごいことなんです。
<つづきます>
2016-02-10-WED