第4回 「知らないおもしろさ」は、もういらない。第4回 「知らないおもしろさ」は、もういらない。

糸井
りえちゃんのその、
苦難に対する姿勢は
自分がお母さんになってから
また上手になったんじゃない?
宮沢
ああ、それはあります!
だって、
思い通りにいかないことだらけじゃないですか、
子どもって。
ここに座ってなさいと言われて
1時間おとなしく座っている子どもはいない。
すると、
「なぜ座らないか」とか、
「どうしたら座っててくれるか」を考える。
お母さんでいることは
とってもクリエイティブな気がします。
糸井
そうだね。
宮沢
柔軟になるから。
わたし、子どもを産む前は、
芝居で相手役の人が
わたしがこうしたほうがいいのかな?
と思う演技から大きくはずれると、
「なんでだろう?」
と思っていたんです。
糸井
こうしたほうがぜったいにいいのに、と。
宮沢
そう。
それが最近は、
「あ、そうしないんだ。
はぁー。なるほどぉ‥‥。
え? そういうふうにするんだ、
それで? どうするの?」
というのをたのしむというか、
思い通りにいかないことに対する柔軟度が、
ココから(胸の前でちいさく両手を開く)‥‥
ココらへんまでに(両腕をいっぱいに開く)、
なってる気がしてます。
糸井
すごいね。
ここまで広がった(両腕を開く)。
宮沢
はい。
糸井
他人からみたら、
「子どもがいるのに舞台のお仕事はたいへんですね」
と言われそうだけど、逆なんですね。
宮沢
逆です。
でもこれから先、子どもに反抗期がきたら
どんな感じだろうとか、
そういうことは思いますけれど。
糸井
反抗期、あるかもしれないよね。
だって自分も反抗したでしょ?
宮沢
思春期のある時期のジレンマは、
わたしもすごいありました。
なんですかね? あの10代のときの苛立ちとか‥‥。
糸井
それはもう、ホルモンでしょ。
宮沢
ホルモンなんですか?!
糸井
うん。
つまり、家を出ないと、
自分の家庭をつくれないじゃないですか。
宮沢
‥‥ああーー!
糸井
だから、そういうホルモンによって、
「家を出たい出たい」と叫ぶ身体が、
性欲といっしょにこう、湧きたつわけですよ。
宮沢
すばらしいことですねぇ!
糸井
動物として、あたりまえのことです。
それがなかったら、
「わたしずっとここにいます」ってなっちゃう。
宮沢
ああ、そうですねーー。
糸井
若い女の子がほしがるものって家なんですよ。
で、男の子は車だったんですよ。
どっちも、飛び出すってことでしょ。
りえちゃんもきっと、
「ひとりでアパートに住みたい」とか、
言ったはずだよ。
宮沢
ですね(笑)。なるほどぉ‥‥。
糸井
根っこは、ホルモン。
宮沢
それはないと困りますね。
糸井
ないと困りますね。
男の子はホルモンが喧嘩になって出たりするけど。
宮沢
でも女の子だって、
出てるエネルギーはいっしょですよね。
糸井
いっしょです、いっしょです。
宮沢
わたし寝るときに、
パンクロックをものすごい大音量で聴いてました。
そうすると熟睡できたんです。
糸井
はあーーー、そう?
そのりえちゃんを、人は知らないと思う。
宮沢
それをこのまえ、人に言ったらびっくりされました。
糸井
びっくりするでしょう。
やっぱり、見られる場所にいる人だから。
宮沢
そうですね。
糸井
見られていることによって
つらい面はもちろんあるだろうけど、
見られているからこそ
自分の鏡をいつも見ている、みたいな?
宮沢
はい、はい。
糸井
その意味では、女優さんをやってる人とか、
人から見られている人って、
かっこいい人になるチャンスが多いですよね。
宮沢
そうですかね?
糸井
厳しいけど。
宮沢
自分を客観視できるのはすごく大事だと思います。
もうひとりの自分が、
「うわーっ!」っと泣く芝居をしている自分に、
「あなたそれ、泣きすぎじゃない?」
と思っている自分がもうひとりいることって、
なんていうんでしょう‥‥すごくいい。
糸井
うん。すごくいい。
宮沢
それって、女優の仕事じゃなかったとしても、
同じことがあると思います。
いろんなお仕事で、それは言えますよね。
糸井
そうだね。ほんとに。
宮沢
あと、かっこいい人になるということでいうと、
「知らないおもしろさ」
っていうのは、もういらない。
糸井
ほおー。
宮沢
いまは、いろーんなことを知りたい。
50になったときに豊かでいるには‥‥
もう、その、20代30代の
ピチピチしたものはないわけです。
じゃあ、そのかわりにどういうふうにしたら
魅力的になるんだろうと考えると、
やっぱりいろんなことを知って、豊かになること。
会話をしていて、相手に豊かさを感じてもらえる。
貧相ではない心を持ちたいと、すごく考えます。
糸井
りえちゃんがこのまえ「ほぼ日」のページで、
演出家の(デヴィッド・)ルヴォーさんと
話をしているのを読んで、
この子は引用じゃない言葉を
ずいぶん覚えたなと思いました。
かっこいいなぁと。
つまり、借り物の、使えない言葉は
ひとつもしゃべっていない。
きょうもそう。
すごいと思うんですよ。
使えない言葉を使っている覚えはないでしょ?
宮沢
ないです(笑)。
使えない言葉は使えない。
糸井
習った覚えもないわけだから。
宮沢
そう。わたし中卒じゃないですか。
糸井
中卒といえば、赤塚不二夫と宮沢りえ。
宮沢
それはちょっとうれしいな(笑)。
だからこう、
持っている言葉の中で、
どれだけ自分が思っていることに
近づける言葉を見つけられるかというのは、
けっこう考えています。
糸井
考えてしゃべっているリズムが
すごく出ていますよね。
それは、うん。かっこいいです。

(つづきます)

2014-11-07-FRI

©2014「紙の月」製作委員会

宮沢りえさん主演映画のおしらせ「紙の月」

直木賞作家・角田光代さんのベストセラー小説、
『紙の月』を宮沢りえさん主演で映画化。
11月15日(土)より全国ロードショーされます。