030 超えてはならない一線のこと。その2
こんな固いうどんは口にあわない。

さて、讃岐うどんのチェーンストア。
実は出店候補地は10ヶ所ほどありました。
日本中に洋食系のファミリーレストランが満ち溢れていて、
日本料理の気軽なお店が苦労をしてた。
だから「うどん」という
親しみやすい料理を主役に据えた
レストランをやってみたい、
という人がたくさんいたのです。
特に、うどんに馴染みのない地方。
秋田や山形といった東北地方でやってみたいという人が
たくさんいらっしゃって、前途洋々のように思えた。



ただ西日本。
うどんを食べる習慣が昔からある地方の出店計画は
若干、難航。
そういう地域には昔から、
地元の人に愛されているうどんの老舗が必ずあって、
そこと戦わないといけなくなっちゃう。
だから、やりたくはあるんだけれど、
なかなか決断できないという人が多かった。
そんな中でも立地がでたのが
「高松」と「博多」という2つの街。
讃岐うどんの本場、高松の人が、
「このうどんならば」と、選んでくれた。
問題は博多。

博多の食事情に詳しい人は、
博多の人たちはうどんが実は大好きなんだよ‥‥、という。
しかも彼らが好むうどんはとても独特。
讃岐うどんのような固いうどんは売れないですよ。

そりゃ、大変。
そのうどんがどう独特なのかを知るために、
さっそくボクらは博多に飛んだ。

調べてみるとたしかに沢山うどん屋さんがあるのですネ。
けれどその殆どが小さな店。
しかも町中にある店で、一方、
ボクたちが開業しようとした店は
郊外にあるファミリーレストランみたいな造りの、
居心地の良い大型店。
そういうボクらと直接競合しそうなお店といえば、
博多だけでなく九州全域に
チェーン展開をしている会社の経営する店。
そこでうどんを食べると、これがどうにもやわらかい。
当時のボクは、「おいしいうどんは麺のコシ」
と思い込んでいたので、これなら絶対勝てる。
だってボクたちのうどんにはコシがあって、
食べごたえがあるんだから。
なにより、こんなやわらかいコシのないうどんを
食べなきゃいけない人たちってかわいそう。
彼らのためにボクらのうどんを売ってあげるのは、
まさに正義と、大いに盛り上がり
一号店が博多にできた。



結果は散々なモノでした。
思ったように売上が上がらない。
広告もしっかりして、
開店キャンペーンのようなコトをしたから
お客様はやってくるのです。
けれど帰り際には
「こんな固いうどんは口にあわない」
と残念そうにいうのです。

「どのくらい茹でてるの?」
「もっと長く茹でれば
 私たちの口にあううどんになるかもしれないわね」
そう、親切げにアドバイスして帰るお客様がいる。
なかには「おいしいうどんを作っている製麺所があるから、紹介してあげましょうか」と、
麺に自信をもっていたボクたちにとっては
おそろしいほど屈辱的なコトをいう
お客様まででてくる始末。

博多のお店から2週間ほどたって
開店した高松の店は大成功。
続々、開業をする日本全国の店は
どこもが人気の店になってくれるのに、
博多のお店が人気を得ることはなく、
結局撤退してしまったのです。

食の世界には「超えてはいけない一線」がある。
飲食業が外食産業になって、
テレビや新聞を悪い意味でにぎわすニュースを
提供してしまったさまざまな店。
そしてぼくらの会社は、
その一線を超えてしまったからなんだろう。
と、この時の失敗を今ふりかえるとしみじみ思う。

どういう一線があるのか、
しばらく考えてみようと思います。


2015-10-08-THU



     
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN