さて、究極の接待。
半ば成功、半ば失敗。
成功した理由からまず整理をしてみましょうか。

まず第一のポイントが、オープンしてまだ間がない
新しいお店を選んだということ。
お客様をもてなすにあたって、
折角だから有名な店をと思いがち。
しかも誰もが気軽にいける店でなく、
敷居が高く、なかなか予約のとれないお店。
あの有名なお店でお席をご用意いたしておりますので‥‥、
という誘いの言葉を、誰もをウキウキさせるのじゃないかと
思う気持ちは当然のコト。

ボクもかつて、なかなか予約の取れない
イタリア料理の老舗レストランに、
つてをたどって予約を入れたことがありました。
ここなら決して恥ずかしくはないだろうと思って
気合を入れてお客様をご案内し、
入店した途端に呼ばれた名前は
「サカキ様」ではなく、お連れしたお客様の名前。
実はお連れしたお客様はその店のおなじみさんで、
その人の方がお店のコトをよく知っておられる。
料理のことも、ワインのことも。
はじめこそはさすがに
「ボクが準備した接待」というコトもあり、
お客様もお店の人もボクに遠慮をしながら
今日はすばらしいお魚が
駿河湾から直送されておりますから‥‥、とか、
料理の説明をしたりと。
オススメのメニューを説明してくれるのだけれど、
おなじみさまのお客様は、
おすすめ料理のコトをすっかり了解済み。

前菜だったら季節の魚のカルパッチョ。
ここのオッソブーコは絶品ですよ、と、
みるにみかねて助け舟をだしてくれさえする始末。
いつの間にか、ボクがその人たちから
もてなされているような立場になってしまった。
まぁ、それはそれ。
かなり年上の先輩経営者でらっしゃったから、
ボクも教わる立場にこころおきなく身をおけた。




世の中には「教え好き」な人がたくさんいる。
例えばゴルフ。
幸か不幸か、ボクはゴルフを嗜まない。
ただ二度ほどお付き合いで、
ゴルフ場でクラブをふりまわしたコトがあります。
一度はカナダ、バンクーバーの郊外で。
一度はなんとビバリーヒルズ。
どちらも大きな会社の社長に誘われ、
「ゴルフはしたことがないんです」
というとそれならボールを100個ほど
買ってらっしゃいと。
言われて買って、グリーンにでボールが
へんてこりんな方向に飛んでしまったら、
もうOBを宣言すればいいですからネ‥‥、と。
ボールを右へ左へとおいかけるから時間がかかるし、
他のメンバーに迷惑をかける。
ただ気持よく。
みんなと一緒に屋外で同じ時間をたのしめばいいと言われて
ついていったら、まぁ、みんな教える、教える。
クラブの握り方からはじまって、スイングの仕方。
スコアの付け方から、声のかけ方と、
恐縮するほどみんながボクに世話を焼いてくれるのですネ。
その場で一番年下で本当だったらボクが
気を使わなくてはならない立場であるはずなのに、
今日は本当に申し訳なかったです‥‥、と謝ったら、
いえいえ、そんなコトはないですよ。
自分の知識や経験を
教えてあげるコトができるというたのしさ。
忠告を素直に聞いてもらえるという、このシアワセ。
まるで「未経験と若さにもてなされているような気持ち」を
今日は味わえました‥‥、
と二度も感謝されたことがある。
とは言え、あまりにみんながボクに教えたがって、
このままゴルフを続けて行ったら日本中に
ボクのゴルフの師匠を名乗る人が
溢れてしまうんじゃないかと、それで結局、
ゴルフはしないと決めたのですネ(笑)。




とは言え‥‥。

お客様をお迎えしたら、
実はそのお客様がそこのお店の常連だった。
そんなことではもてなす側の面目丸つぶれ。
その点、出来たばかりのお店。
しかもまだ有名になってはいないところにお連れできれば、
その心配からまず免れる。

けれどここで問題がひとつ生まれます。
できたばかりのお店にお客様をワザワザつれていく理由を
どう説明すればいいのか。
その究極のステーキレストランに
お客様をご案内したときも、
先方のスケジュール調整を差配している秘書の方から、
「そのお店は当社の役員をお連れするのに
 ふさわしい場所なのかどうか、心配なのですけれど、
 大丈夫ですか?」と質問が来た。
自分一人で。
あるいは仲間内で出来たばかりのお店に行くのは
ワクワクするようなたのしいイベント。
そのお店が期待以上であろうが、
話題ばかりの失望モノであろうが
結局、たのしい思い出になるモノです。
ところが、そこにお客様をお連れするというコトになると、
それはハラハラ。
もてなす側も、もてなされる側も
ちょっとハラハラしてしまう。

できたばかりで本当に、
おもてなしをするのにふさわしいお店かどうかわかるのか?
と、そう聞かれたときに、説得力のある理由。
そこを選んだワケを用意できなきゃよろしくはない。
今回の接待において、出来たばかりのお店でありつつ、
そこがご接待にふさわしい場所であると思った、
あるいは思われた、理由はふたつありました。
ひとつは、老舗料亭がはじめたあたらしいお店だから。
有名な店が作ったばかりの新しい店‥‥、
そこにはおそらく好奇心にあふれた人たちが
物見遊山のような気持ちで押しかける。
接待の場にはいささか不都合。
「知る人ぞ知る名店の新しい店」という謳い文句。
納得できる言い訳でしょう。

それに、頼り甲斐のある紹介者がいてくれたから。
おいしいお店のことに精通した、
この道のプロのような人に勧められたのです‥‥、と。
そういえば、大抵の人はそれならいいかと納得をする。
だからそのときの接待は、
その入口の段階でほぼ完璧なる成功を
約束されていたのであります。

ならばどこが失敗だったのか。
来週、お話いたします。


2013-05-09-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN